◆
裏社会でシャドウと呼ばれ、恐れられている蓮。
繰り返しの中で摩耗し続けた彼には、もう絆など存在しない。たった1人で戦い続け、たった1人で悪を殺し続けた彼にはそんなものただの足枷にしかならない。
彼に最も必要なものだと言うのに、彼はそれを投げ捨ててしまっていた。
たった1人でこの馬鹿げた物語を終わらせる。
それが修羅へと堕ちた彼の選んだ道だった。
たった1人で鴨志田を、斑目を、金城を、一色若葉の呪いを、奥村をその手で始末した蓮。最早あの頃の面影は無くただ大きな闇を抱えて歩く愚者に見える。
その手で多くの人を殺してきた、その手で多くの悪を葬ってきた。後戻りなど出来るはずもない。ただ進み続けるしかない、その身を影に沈めてもただ、前に。
なぜなら、これは彼が始めた物語なのだから。
「がふっ・・・!?貴、様・・・!?」
尽く悪を殺し尽くし血の道を歩んだ蓮はたった今、黒い仮面の男を殺し獅童を始末していた。
「誰に、手を出したと・・・!!」
「
両腕を巨大な骨の手に掴まれ一切の抵抗を封じられた獅童の胸へとナイフを突き刺し、心臓を串刺しにした後に喉をかっ裂き絶命いたらしめる。
「ゴボ・・・ガ・・・ぁ・・・・・・・・・。」
苦悶の表情を浮かべたまま死んだ獅童を無表情で見つめた蓮は骸に何も語ることは無くやるべき事は済んだと、顔に付いた血痕を拭う事もせず崩壊するパレスから抜け出した。
そしてその後、時間をかけずにメメントスへと向かい最深部へと向かう。
無論、そこに巣食う偽神を討つ為に。
湧き出るシャドウ達を薙ぎ払って下へ下へと進み容易く最深部へと辿り着いた。降り立った彼を取り囲むように存在する無数の檻。その中心部に居座る巨大な器。
奴こそがこの物語の全ての元凶、大衆の無意識の願望が形になった黒き異物。名を“聖杯“。相変わらず不釣り合いな名前に失笑を零しながら己の力を解放する。
「『
その呟きに反応して現れたのは筋骨隆々な人の肉体に牛の頭が乗っかっているという珍妙なペルソナ、西洋におけるミノタウロスと呼ばれる怪物の姿をしたペルソナがその巨大な腕を蓮の影から突き出し、窮屈そうにしながら這い出てくる。
「断て」
『ブルルッ!! 』
その手に握った3mは有るであろう牛頭の身の丈以上の大きさを誇る戦斧の柄の底を1度床に叩きつけ、大きな罅を刻み込むとその巨体を存分に捻り全体重を乗せた渾身の一撃を聖杯へと見舞った。
いや、正確に言うのなら聖杯に繋がっている血脈のようなチューブをその斬撃で断ち切った。それは聖杯に無限の活力を与える血脈。言わばこの形態の弱点。
『ムッ・・・』
どうやら初手から弱点を狙われるとは思ってもなかったようで聖杯はやや驚きつつも起動すると蓮へと意識を向ける。そして侮蔑を隠そうともせずに完全に見下し始めた。
『まさか一手で見抜くとはな・・・流石は堕ちしトリックスターと言った所か。しかし、そのような穢れた身で我の前に現れるとは。度し難い。』
「・・・お前がそれを言うか。欲の集合体であるお前が。」
『口を慎め、泥の如き濁った愚者よ。貴様は神の前にいるのだ。』
「紛い物の癖して何を偉ぶってる。中身の無い贋作が。金メッキと泥、穢れたモノ同士仲良くやろうじゃないか。」
『・・・そうか、そこまで死に急ぐか。ならば良い、貴様に神の裁きを下してやる。』
互いに煽り合うと傲岸不遜な聖杯は装飾品の1部にエネルギーを集め光の矢として蓮に向けて発射した。
防御も何も出来ずに直撃し、土煙に覆われる蓮。並大抵の者ならば一撃で葬る攻撃だったが、だがやはりこの程度で倒れる男では無い。牛頭の戦斧を振るって煙を扇ぎ煙を晴らすと余裕綽々と言ったように歩いて出てきた蓮はお返しとばかりにとあるペルソナを呼び出し攻撃する。
「来い、『ミカエラ』」
そのペルソナは黒い瘴炎と共に彼の背後から現れた。一見美しい純白のドレスを煤で汚し、所々を焦がしたり破いたりとボロボロで。背筋が凍るほど禍々しい緑の炎が彼女の龍のような頭蓋骨から漏れ出ている。
黒と緑の炎を渦巻かせながら下を向いて佇むのは『ミカエラ』。骸骨がボロボロのウエディングドレスを着ているという珍妙なペルソナだがその強さは折り紙付き。
『Aaaaaa“a“a“a“a“a“a“!!!!』
両手で持っていた花束を落とし、狂ったように泣き喚き始めると彼女に纏わり付いていた黒と緑の瘴炎が増幅し、2色の炎渦となって聖杯に襲いかかった。
その威力は凄まじく、たった一撃で金色に輝いていた聖杯の正面を黒焦げにして内部にまでダメージを与える程である。
「で?お遊びは終わりか?」
バチバチと破損箇所から火花を散らす聖杯を煽る蓮。そんな彼を見て聖杯はダメージを修復しながら彼へ向ける目を変えた。侮蔑から警戒へ。
今ここにいる人間は自らにとっての脅威であり、消し去るべき『敵』と認定した。
『・・・・・・成程、
「最初からそうしろ、カラクリ野郎め」
追加の蓮の煽りも気にせずに本来の力を解放する聖杯。床が割れ、聖杯の
ガラガラと瓦礫が雨のように降る中、アルハザードの触手に掴まれながら変身していく聖杯を見つめる蓮。その様子は至極冷静で、焦りは一つも無く、また大きな動揺も無い。寧ろ無感情で相変わらず能面の如き表情を貼り付けていた。
やがて聖杯の変形が終わると残った足場に着地し、目の前にいる巨神をゆっくりと見上げる。
『さぁ、愚者よ。神を前にして地に堕ちるが良い。』
そこにいたのは正しく機神。絶対的な力を持ってこの世を支配せんとする悪神にして、それを大衆に望まれた
冠する名は『ヤルダバオト』。その鏡面のような機体に神の名に相応しい風貌をしたコレは蓮の何倍、何十倍もの大きさを誇り日の暮れをバックにしたその姿は天使のようである。
だがその本性は悪魔よりも狡猾で、堕天使よりも意地が悪い悪神。軋む駆動系が叫び声のような音を上げてその壮大さに拍車をかける。
「堕ちるのはお前だ、空虚な偽神め」
だがそれにも勝るとも劣らない殺気を飛ばし、身の丈以上の存在感を曝け出す蓮はヤルダバオトのプレッシャーも真正面から弾きとばす。
そしてミカエラが蒸発するように消えると今度は地獄の底から這い出て来たかのような冷気と殺意を纏って新たなペルソナが現れる。
それはあらゆる生物を混ぜ合わせたような酷く悪魔的な見た目に加え、蓮の3倍近い巨躯を持った上級ペルソナ。
その名を・・・
「『サタン』」
『む』
小さく一言、名を呼ばれたペルソナ『サタン』はその全身から万物から一切の熱を奪う冥府の冷気を漂わせるとそれらを一気に放出、展開させる特大規模氷結魔術『大氷河期』が律法の書を除く全てのパーツに強烈な氷結ダメージを刻み込む。
「『オーディン』」
『・・・ほう、これは』
「『スルト』」
その後は一瞬のタイムラグも無くペルソナチェンジして『オーディン』を呼び出し断罪の剣を除くパーツに熾烈な電撃魔術『エル・ジハード』を食らわせる。
様々な属性を目まぐるしく変え、且つ反射されないパーツにのみ攻撃を与える。超高度な魔術制御から放たれる戦法でヤルダバオトを押していく。流石はシャドウ・・・いや敢えてジョーカーと呼ぼうか。
攻撃と攻撃の隙間を限りなく無くすことによってヤルダバオトに反撃を許さないジョーカー。あっという間に全てのパーツを破壊しきるとダメ押しと言わんばかりにとあるペルソナを呼び出した。
壊せ『ヨトゥン』
名を呼ばれ、姿を現したそのペルソナは先の巨躯の持ち主であったサタンよりも更に巨大。雄々しい角を持ったゴーレムと言う様な見た目をしたそれはジョーカーを掌でまるまる包める程の大きさを誇り、その全身はヤルダバオトの3分の1に迫る程。
そんな規格外のデカさを持つヨトゥンはジョーカーが握り拳を作るのと同時に炉心をフル稼働。持てる力全てを拳へと集中、凝縮させてゆく。やがてそれが臨界点を迎えると膨大なエネルギーがヨトゥンの両拳に宿り紫電となって視覚化される。
もはや抑えきれないほどに増大した力はジョーカーの一声によってついに放たれた。
「『カラミティタイタン』」
ヨトゥンは余剰エネルギーを再転換してスラスターを噴かせるとその巨体からは想像出来ないスピードで突貫し、爆発的に増幅したエネルギーの塊と化した両拳をヤルダバオトの顔面へと叩き込んだ。
『オオォオォォオオオォォォッッッ!!!』
なんと、なんと。ジョーカーは機神、ヤルダバオトを個人の力だけで圧倒してしまったのだ。
たった1人の人間が大衆の願いの塊である機神を倒すなどどれ程の偉業か。蟻が人間に勝つくらい有り得ない事を彼はやってのけてしまった。
凄まじい力、凄まじい執念である。
──────だが、悲しいかな
『今一度、評価を改めねばなるまい。』
それでは
やがて機神は何事も無かったかのように完治し、ジョーカーの前に完全復活した。それだけでは無い。民衆の願いが力を与えたのかただでさえ手に負えない強さを持つというのに、更に強化されての復活であった。希望が転じて絶望へと変わっていく。
そして機神が律法の書に魔力を巡らせ、ジョーカーに向けて『神の怒槌』を放った。それは聖杯の時よりも、顔面を壊される前よりも桁違いに強力で圧倒的な熱量と破壊力を持ってジョーカーに襲いかかった。
「『ヴリトラ』、天地挽歌────」
『無駄だ』
すぐさま『法王』のアルカナ、その成れ果ての化身である漆黒の邪龍ヴリトラを呼び出し、呪怨と万能が混ざり合った咆哮で反撃に移るが怒槌の次元が違う威力に力が拮抗する事無く押し切られ、ヴリトラを消滅させられる。
それだけでは留まらずジョーカーにまで届くと避ける暇も無く直撃し、右腕が
ちぎれるのでも切断されるのでもなく、ただ圧倒的な熱量に晒されることで蒸発してしまう。
肉が焼け血が蒸発する不快な臭いが辺りに漂った。
それでもジョーカーが生きているのは反逆の意思に身を包んでいるからであろうか。しかし、その半身は目を逸らしたくなるほど焼けただれその機能を失いつつある。消し飛んだ右腕の付け根は炭と化して崩れ始めていた。最早痛みだけが駆け巡り動く事も出来ないだろう。
しかし、ジョーカーは立ち上がる。
痛みを無視し狂気に浸かった執念を持って、まるで亡者のようになろうともその両足に力を込めて床を踏みしめる。彼の見開かれた目から濁った反逆の意思はちっとも消えていなかった。
「ペルソナ」
機械のように冷たく無感情にそう呟くと恐ろしいまでの精神力を持ってペルソナを呼び出し、悪魔の如き風貌と三対の羽根を持つ強大なペルソナ『ルシファー』が彼の中から降臨する。
バサリと全ての翼を優雅なまでに広げると様々な属性の魔術を宙を覆い尽くす程辺りに大量展開し、それを一気にヤルダバオトに向けて掃射する。
火炎が、氷結が、疾風が、電撃が、核熱が、念動が、祝福が、呪怨が、万能が。
持ちうる全てを機神へとぶつけた。その光景を例えるのならば『神話』と呼ぶのが相応しいだろう。それほどまでに神々しく圧倒的な、そして絶望的な景観であった。
底無しの魔力に物を言わせた数による暴力、確かに個人で出すのなら凄まじい火力だ。
だが個人の力では大衆の歪な願いの化身たるヤルダバオトには届かない。その身を砕くことなど出来やしない。
それは決してペルソナが
けれどもそれを抜きにしても彼が単独でヤルダバオトに勝つ確率は億分の1も無い。完璧な0、つまるところの不可能。
しかしそれでもジョーカーは抗う。あらん限りの力を持って機神を打ち倒そうと。
「堕とせ」
ルシファーの放った超高密度エネルギーが空へ打ち上げられると一つの流星となってヤルダバオトへと放たれる。渾身の力を振り絞って出した『明けの明星』は確かにヤルダバオトの体に傷を残した。
ただそれだけだ。
致命傷にもならぬ倒すには程遠い傷。それはジョーカー個人の限界を示すように鏡面のようなヤルダバオトの顔面に付いていた。
『憐れな』
左足がちぎれ飛ぶ。
ジョーカーをもってしても反応できないほどの速度で射出された処刑の銃弾が容易く左脚の肉を抉りその繋がりを断った。
べちゃりと嫌な音を立てて床が赤に染る。
断面が熱で焼け止血はされているものの、最早その体は死に体だ。寧ろ生きてる方が不思議なほどの重体だというのにジョーカーはまだ死んでいなかった。
「まだ、だ」
起きようとして力を入れるものの体が言う事を聞かず血で滑って地面に崩れ落ちる。ならばとジョーカーはその身から深淵の如き瘴気を放ちながら新たなペルソナを呼び出した。
「食い零せ、
その名は、彼がこれまで発現させたペルソナとは異なるペルソナであった。一線を画す、などと言うレベルでは無い。
別格、いや、もはや
呼び起こされた獣はジョーカーの背中を食い破るように現れた。
『縺ゥ縺?@縺ヲ繧?a縺ヲ陦後°縺ェ縺?〒證励>諤悶>縺イ縺ィ繧翫↓縺励↑縺?〒繧?□繧?□繧?□繧?□!!!!!!』
呻き声の様な、叫び声の様な、怒声の様な、泣き声の様な、産声のような。聞くだけで脳を描き毟られて発狂しそうな
頭部から生える巨大な10の角と首から生える6つの顔のような触手。その頭部と触手には王冠と呼ぶには歪み切った物が乗っている。
火のように赤い体に何十本もの腕が疎らに付いており、犬のような足は鋭利な爪に包まれている。口は牙が所狭しと生え不愉快な音を立て、目は身体中に大小無数に開いてひっきりなしに動いている。
翼と言うには折れ曲がりボロ布のように穴が空いたそれをはためかせて獣はジョーカーの前に降り立った。
余りにも異形、余りにも冒涜的。
そんな獣の手が死に体のジョーカーに何本も絡みつき無理矢理引き起こす。まるで傀儡のようになりながらも立ち上がって戦意を見せつけるジョーカーにヤルダバオトは関心を通り越し本気の憐れみを感じていた。
奴にすらそう思われるほど今のジョーカーは憐れで、意地汚く、それでいて滑稽であった。
『もうやめよ、これ以上は無意味である』
ヤルダバオトが論ずるようにそう告げるがジョーカーには届かない。ただ獣の衝動のままに神を喰らおうと牙を剥く。
「『
666の口がガバリと開き、そこから大小様々な獣の形をした肉塊が機神に殺到する。さながらパレードのように押し寄せる肉の波に機神は断罪の剣で迎え撃つ。
斬れば斬るほど分裂し襲いかかってくる肉塊にヤルダバオトは不快感を覚えたが、ならば一撃で消し去るのみと今度は律法の書で肉塊を攻撃した。
『む、これは・・・』
しかし、これこそがジョーカーの狙い。律法の書から放たれた光線を肉塊に巣食う無数の獣が口を開き、驚く事に光線を
『豸医∴繧肴サ??繧咲ゥ「繧後m縺上◆縺ー繧梧ュサ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ豁サ縺ュ縺医∴縺医∴縺医∴!!!!!!』
そして光線のエネルギーを全て喰らうと666は金切り声を上げながら肉塊を食いちぎる。食いちぎられた肉塊は弾け、集まり、凝縮すると小さな赤黒い光の球となった。獣はそれを数十本の腕で掴み取ると腕ごと自分の口の中へ押し込む。
喰われた球は内部の魔力と融合し、過剰反応を起こし666の肉体の器にも収まりきらない程に膨張していった。やがてその限界が訪れる時、ジョーカーが静かに獣へと命じた。
「『
それは正しく破滅であった。
絶叫と共に獣の体が爆散したかと思うと、血のように赤黒い莫大なエネルギーの波が空を多い尽くし機神を包み込むように急激に縮小。
完全に逃げ場を失い、抵抗も出来ないように拘束された機神を中心にそのまま空間が消し飛ぶのでは無いかと思う程の爆発を起こした。
重低音と熱風が辺りを駆け巡る。
ジョーカーも爆風に巻き込まれ2度3度地面を跳ねるが途中で地面にしがみつく事で足場から落ちることは免れた。バサバサと吹き荒れる風に耐えながら機神が居た場所から片時も目を離さないジョーカー。
そして熱と風が止むと辺りを包み隠していた煙が晴れていく。ゆっくりと消えていく煙の中から出てきたのは・・・
『無意味、だと言っている』
獣の力を使っても大衆の願いの塊であり今も尚その恩恵を受け続ける機神を倒すことは叶わない。力の代償に人と己を捨てたジョーカーでは真の意味で奴を倒す事など到底無理な話。
奇跡を起こせるのは人間だけだ、怪盗団の絆、彼が築き上げた真実の結集。そして大衆の心を動かし願いを変えた結果の勝利だったのだ。ならばたった独りであり続け、人であることを捨てた彼が敗北するのも必然的なものだろう。
『諦めろ、小さき者よ。お前はよくやった。その身を獣に汚してまでよくぞ戦った。しかし神である我には勝てない。例えお前自身が獣に堕ち虚無へと転じようとも。』
それは紛れもない賞賛。あの機神が、人を見下す傲慢な神が心からジョーカーを褒め称えていた。たった1人、それも誰の力も借りず自分の可能性だけで己に死を予感させた男。
正しく偉業であると、どこまでも高慢ちきな機神でもこの男を称えずには居られなかった。
ジョーカーはそんな機神の言葉を受けながら尚も無表情を貫く。人形のように冷たい仮面を被りながら、己の力を出し切ったにも関わらずまだ意地汚く立ち上がる気であった。
だがその体は既に死に体。立ち上がれるはずも無く無力に地面を這いずるのみ。だが、それがどうしたと言わんばかりにジョーカーは地面に頭を叩きつけてその反動で体を浮かせ無理矢理立ち上がってしまった。
顔を隠していた仮面が割れ、彼の素顔が現れる。額から血を流しながらも、瞳に血が入りながらも機神から目を離さぬその狂気に満ちた顔が。
『貴殿に敬意を表し、我の放つ最大の力。文字通り神の一撃を持ってあの世へ送ってやろう。』
震える手足で立つのもやっとなジョーカーにヤルダバオトは自身の放つ最大最高の一撃を放つ為、4つの武装から魔力を練り始める。それは先の獣の一撃よりも遥かに強力で、次元が違う威力を秘めている事が一目で分かる。
ジョーカーは何も言わずにそれを見ている。抵抗はしない、否、出来ない。先程の獣こそがジョーカーの最大の切り札。それが破られた今、神の力とやらに抗う物は何一つ残されていないからだ。
「『ア、ルセー・・・ヌ』」
残った希望に縋り付くようにかつての半身の名を呼ぶジョーカー。だが、彼は答えない。答える筈もない。それを知っていても尚、最後の最後にそれに縋るしか無かった自分に嫌気が刺した。
そして無限とも思えた魔力も獣のせいで底を尽き、心身共に限界を迎えるジョーカー。膝を折って項垂れると苦しげに噎せて吐血する。
ぼやける視界を動かしながらこちらを照らす絶望の光を見上げた。それに銃を向けて。
『さらばだ、たった一人の反逆者よ。貴殿の名は神である我の中に刻んでおこう。』
規格外の威力、正に神の一撃に相応しい終末の光。
その名を『統制の光芒』。それがただの1人の人間、ジョーカーに放たれる。
当然耐え切れるものではなくジョーカーは極光の奔流に飲み込まれ、塵一つ残さずこの世から文字通り、消滅した。それでもなお抵抗しようと突き出した銃と共に。
その時彼の耳にはブツリ、とテレビの電源が切れるような音が聞こえた。
長い長い微睡みの中、その意識は浮上する。消えた筈の肉体は戻り、召された筈の魂は輪廻に還ることは無い。
二度と覚めない悪夢を見ている。
来るべき明日が無くなり、ただ永遠に時の中に縛られる。
先にも後にも進めず、ただ立ち止まるしかない日々があるとしたら。
それはきっと、正しく
ああ、また重い瞼が開いてしまう。目覚めたくも無いのに、今がまたやって来てしまう。
もう沢山だ、もう止めてくれ。そう悲願しても終わることなど無い。この物語に終点は無いと。
無情にも意識は覚醒する。
あの日、虚ろな夢から覚めた時に。
全てが始まる、あの始まりの瞬間に。
果て無き運命に惑わされる揺籃、電車の中で目を覚ます。
「ハハ・・・ハハ、アハハハ!アッハッハッハッハッ!!!!」
気の狂った笑いが響き渡る
彼は戻ってきた、絶望と混沌の劇場へ。
この繰り返しの中で
いつか来る終わりを夢見て
悪夢はまだ、終わらない
雨宮 蓮:主人公。アルカナ『愚者』を宿すごく普通の少年。この話は周回という名の無限ループの中であったかもしれない一幕。悪を討つために悪に身を染めてしまった孤独な旅人。髪はさらにボサつき目が死んでいる。人を殺す事に一切の抵抗を感じていない。
既にコープが錆付き、効力を発揮しないばかりかそれが反転。『逆位置』のペルソナを生み出してしまった。強力な『個』としての力を持つがそれが彼の限界であり、この彼が目的を果たす事は決して無い。
怪盗スーツが華やかさが消え、怪物のような畏怖を感じる物に変貌してる。その姿は死神と称される程。真っ黒なスカルマンの姿を想像して貰えると分かりやすい。
・オリジナルペルソナ
牛頭
『皇帝』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。スサノオノミコトの同体と言われる牛頭天王から。その名の通り人の体に牛の頭が付いた姿をしており、身の丈以上の戦斧を持っている。見た目が似ているアステリオスよりもサイズは小さいが同等のパワーを持った物理特化型のペルソナ。
専用技『断罪』
ミカエラ
『恋愛』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。歌劇『カルメン』に登場するホセと呼ばれる男の許嫁。悲壮な愛の末路を受けた者、その負の面が強く出たペルソナ。嫉妬の緑と憎悪の黒、双色の炎をその身に纏う。涙の代わりに眼窩から炎が流れ落ちている。
龍のような頭蓋骨をした骸骨が汚れたウエディングドレスを着ているという奇抜なペルソナだがその見た目とは裏腹に凄まじい力を秘めている。龍の頭骨を持つのはタツノオトシゴがモチーフに入っている為。一生を添い遂げるタツノオトシゴ、その花嫁が愛を憎むという皮肉が籠っている。
専用技『
アルハザード
『隠者』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。腸のような触手が円盤型に渦巻いているような見た目をしたグロテスクなペルソナ。『アル・アジフ』の執筆者『アブドゥル・アルハザード』から。
メメントス全体の解析という離れ業をやってのけており、更には自由に空間を移動出来るという探知タイプに置いては一線を画す性能を誇る。また戦闘力にも優れており魔法は強烈な万能属性の『メギドラ』、物理面では触手による拘束、遠距離攻撃などによって有利に立ち回れる。だが探知タイプ故にパワーは弱いので注意は必要。
ジョリーロジャー
『戦車』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。海賊の意匠がある巨大な骸骨。餓者髑髏と言えば分かりやすいだろう。海賊旗を指す言葉『ジョリー・ロジャー』から。本編では獅堂を拘束する腕のみ登場。本来なら腰から下が無い状態で海賊の格好をして片手にカトラスを持っている。生者の魂を好む。
ヴリトラ
『法王』のアルカナの成れ果て。絆の残滓。闇を飲み込むほどの漆黒に身を包んだ邪龍。見た目は黒いマガオロチに近い。かつては強固だった法王のアルカナであるにも関わらず、ヤルダバオトによってあっさりと消滅させられた。
専用技『
ヨトゥン
『愚者』のアルカナの逆位置を司る。絆では無く力を求めた故に生まれた最上位ペルソナ。見た目は全身を真紅に染め、角の生えた巨大なゴーレム。パズドラのグランディスに角が生えたものを想像してくれると分かりやすい。
その強さは計り知れず会心の一撃『カラミティ・タイタン』は民衆の願いによって強化復活をする前の機神さえ一発で沈めてしまう程。恐らくカラミティ・タイタンを使って消滅していなければまだ勝負は長引いていただろう。
狂気を喰らう怪物、終末の獣。ペルソナという枠に収められず、桁違いのパワーを持つ異質極まるナニカ。
人を止めて外道に堕ちた蓮が手にした禁忌であり、既存のペルソナを全て凌駕するほどの戦闘力を誇る。獣の数字、そして虚無を司り、その見た目はおぞましく正に怪物と呼ぶに相応しい。代償として蓮は人を捨てなければならない。
大抵の敵は蹂躙出来るほど強い。最強格の力を持つがヤルダバオトとは致命的に相性が悪く、例え逆立ちしても絶対に勝てない。いや、正しくは