周回プレイヤージョーカー君   作:文明監視官1966

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自分の葬式には米津玄師さんの『M87』を流してもらう事にします。私です。

チェンジ全開、じゃなくて前回は半端な長さになってしまい申し訳ない。1つにすると長くて見にくいかと思ったので・・・。まぁ知っての通り文才が無いので纏められなかっただけなんですけどね!

意外と皆さんに待ってて貰えててとても嬉しいです!これからも頑張ります!(尚、投稿は不安定な模様)

そしていつも感想、誤字報告ありがとうございます!ほんとに助かります!

今回も、短めパワー!ゼンカイザー!


Steal it, if you can

 

 

 

お宝を盗み出すために鴨志田へと予告状を出したジョーカー達。そしてお宝を盗み出すあと一歩の所でパレスの主、カモシダ・アスモデウス・スグルによって阻まれてしまう。戦闘中、強烈な技を放とうとした鴨志田に警戒していた彼らの前に現れたのはジョーカー達の仲間であり、パンサーの親友。『鈴井志帆』であった。

 

まさかの出来事に放心してパンサーも、スカルも、モナも皆一様にバニーガール姿の鈴井を信じられないと目を丸くして見ていた。先の三島の時よりも衝撃が強かったのか鴨志田の目の前にいるというのに固まってしまっている。

 

ただ1人、気を抜かず冷静に戦況を見ているジョーカーを除いて。

 

 

 

 

 

 

 

(アイエエエエエエ!!??鈴井=サン!?!?鈴井=サンナンデ!?!?)

 

 

 

前言撤回、一番動揺していたのがこの男であった。

 

 

顔は得意のポーカーフェイスという仮面を被っているが内心では想定外過ぎる状況にこれまで見た事ないくらいめちゃくちゃ乱心していた。三島だけでも驚愕でボロが出そうだったのにそこに鈴井までお出しされたら最早ビックリ仰天激ヤバチョモランマである*1

 

(いや待て落ち着け彼女がここにいるはずが無い、あの鈴井さんはシャドウだ。それに彼女があんな格好する訳が無いだろう。そうだ、それは理解してる。けど三島もだが彼女がここに現れたことなんて今まで無かった!なんなんだ今回の世界は!)

 

注視しなければ分からないほど薄い一筋の汗をかいて無表情の仮面が剥がれそうになるくらい驚いたと言えばその衝撃も分かりやすいだろう。余りのイレギュラーに脳が軽くバグるくらいには困惑してしまっている。だがここで少し錯乱した事でジョーカーの意識は別の事へギアが入ってしまった。

 

(というか・・・・・・何だあの衣装は。バニーガールだと?確かにいいチョイスだ。大事な部分は隠されているのにお腹と四肢がもろ見え、しかも手首にモフモフのアクセ、そして丸い尻尾。成程、確かにセクシーだ。見る者の目を奪うだろう。だがそれは鈴井に合った衣装じゃない。彼女にこんな肌面積の無い物を着せるなど情欲に塗れた怪物らしい安直さだ。もしここに恥じらいというワンポイントがあれば話は別だがあんな媚びを売る様な態度で着ている鈴井さんなど解釈違いにも程がある。ブチ切れそう。彼女にはパジャマ風のうさぎ衣装やゴスロリのようなドレス衣装などの可愛い系の方が似合うに決まっている。いやあえてディーラーなどのキッチリとした衣装も似合うかもしれない。つまるところ奴は彼女の良さを全然活かせていない!!何故やたらと脱がせたがる、着衣には着衣にしか出せない気品と華があると言うのに!エロの事しか頭に無いのかこの鴨志田!!)

 

と、ジョーカーは早口で憤慨する。違う、そうじゃない。

 

何故か脳内で衣装についてブチ切れていたジョーカーはいかんいかんと軽く頭を振り思考を切り替え、鈴井に似合いそうな衣装リストを一旦心の奥底にしまってから対策を考える。

 

(さて、どうするか。あのスパイクを二度喰らいたくは無い。しかも先以上の威力となれば確実に押し負ける。ならトスを上げる鈴井さんを狙うか?彼女の姿をしているが所詮はシャドウ。迷う必要も無い。)

 

カチャリと重い音を出すR.I.ピストルの引き金に指をかけてそんな冷たい思考を過ぎらせる。そう、結局はガワが鈴井なだけのハリボテだ。撃とうと思えば簡単に打ち消せる。

 

そんな事を考えていると鴨志田が鈴井シャドウをその手で抱き寄せ・・・・・・

 

 

『おぉ、いーい子だ鈴井。ったく!他の女共も俺様に対して従順であるべきなんだ!コイツみたいになぁ!!』

 

 

 

(よし殺す*2。)

 

ねっとりとその長い舌で鈴井シャドウを舐るのを見て一瞬にして殺意MAXになったジョーカー。いつもの温厚さはなりを潜めまるで張り詰めた弓矢のような一点に凝縮した殺意を鴨志田に向けて解き放とうとして、しかしコンマ1秒で冷静さを取り戻し殺意を収めた。いかんいかん、危ない危ない危ない・・・(申レN)

 

(落ち着け落ち着け、まだあわてるような時間じゃない*3判断を間違えてはならないぞ。あんな物を見せられてるパンサーの前で彼女を撃てば信頼関係が揺らぎかねない。ここは鴨志田を妨害するのがベスト。というか鴨志田狙う以外無い。その飛び出た目玉ぶっ潰してやる。)

 

思ってたより静かにブチ切れているジョーカー。多分、性癖の解釈違いが半分を占めてる。まだ少し暴走気味な彼を見てアルセーヌはやれやれとシルクハットのブリムを摘みながら呆れていた。

 

 

「志帆・・・!」

 

「落ち着けパンサー!あれは本物じゃ・・・」

 

 

「分かってる!!」

 

 

「!」

 

そんなジョーカーの耳にパンサーの怒号が聞こえてくる。彼女の方へ振り返るとパンサーはキツく両手を握り締め、俯きながら震えていた。それを見た瞬間、ジョーカーはあらゆる雑念が消え、怒りも沈静化し元の冷静さを取り戻した。

 

ああ、そうだ。これに本当に一番怒っているのは彼女だ。

 

目の前で親友を歪ませられ、弄ばれ、そして侮辱された。それも自分と同じ様に己の意のままに動く玩具にされるという最大の侮辱だ。

 

耐え難い怒りが、憎悪が、そして悲しみが彼女を襲ってるだろう。そんな時に自分は何をしている?下らない事を考えてる場合か?

 

今自分がすべき事はこの怒りを足に込め己を、そして仲間を支える礎とし、最大限彼女のサポートをする事だ。

 

ミセリコルデを握り直し雑念を消したジョーカーはパンサーの傍まで歩き、彼女の肩を優しく叩いた。

 

「パンサー」

 

「ジョーカー・・・・・・」

 

「ぶん殴ろう」

 

「!」

 

その一言に顔を上げ、仮面の下で目を丸くしたパンサーにジョーカーはグッと握り拳を見せて笑う。

 

「あの変態の顔にキツイのお見舞いしてやろう」

 

あまりに単純。励ましでも何でもないまるで遊びに誘うかのような軽い言葉。複雑に考える必要は無い。友を侮辱したあの悪魔に文字通り、怒りの鉄拳を振りかざすのだ。

 

 

「うん、そうだね・・・!ぶん殴る!」

 

 

怒りに歪んだ顔から打って変わって『絶対にぶん殴る』という決意を固めたパンサーはギュッと拳を握って宣言した。

 

 

 

「そんで、何度でも思い知らせてやる。私は、私達は!あんたなんかの玩具じゃないって!!」

 

 

 

「よっしゃ!やってやろうぜパンサー!鈴井にあんなマネしたんだ、ギッタギタにしてやろうぜ!」

 

「こいつと同じ意見なのは癪だが、吾輩達も鈴井をバカにされて頭にきてんだ!覚悟しろよ鴨志田!」

 

そしてパンサーとジョーカーの後ろからスカルとモナが歩いてきて、怒りを顕にしながら横並びになる。それぞれの武器を構え、担ぎ、そして戦意を漲らせて。ただ一つ、友の為に。

 

 

それを見て相対する鴨志田は心底下らないものを見るように見下している。彼の目に映る『仲間』という存在を軽蔑するように。孤高、いや孤独な王となった鴨志田にはまるで価値が分からないのだ。その仲間との絆とやらは。

 

 

『はん!クズが粋がるな!俺は!世界に輝く鴨志田様だぞ!貴様らが刃向かっていい相手じゃないんだよォ!!』

 

ジョーカー達とは対象的に独りで笑う鴨志田。城の王という権力の頂点に立つ奴にとっては全てが茶番、おままごとにしか見えていない。

 

たった一人で玉座を手に入れたと()()()()()()のに。

 

 

「・・・テメェ1人の力じゃねぇだろうが!!」

 

『・・・・・・あぁ?』

 

 

だが、スカルの鋭い一言に動きを止めた。

 

鴨志田がスカルを睨むと彼はメンドーくさそうにガリガリと後ろ髪を掻きながら睨み返しながら続きを話し始めた。

 

 

「俺よォずっと思ってたんだよ。なぁ、バレーはチームで戦ってんだろ?ならテメェだけで世界取れた訳じゃねぇだろ!あぁ!?それをさも自分だけのもんだと思い込みやがって!」

 

『ち、違う!世界で勝てたのは俺様のスパイクのおかげで・・・・・・!』

 

 

スカルの言葉に鴨志田は分かりやすく動揺している。そこに畳み掛けるようにスカルはずっとずっと心の底にあった言葉を正面からぶつけた。

 

 

「そのボールを上げたのは!そのボールを拾ったのは!相手のボールを防いだのは!全部てめぇか!?あぁ!?」

 

 

『・・・・・・黙れ』

 

 

「いい加減気づけよ!お前も!誰かに支えてもらってたんだろうが!!」

 

 

『黙れぇぇぇぇぇ!!!!!!!』

 

 

恐らく、自分が最も目を逸らしていた事を最も毛嫌いしている相手に核心を突かれる様に言われた鴨志田は今日一番の激情を見せて、その体から魔力の嵐を吹き出した。

 

その威力は凄まじく、辺りの装飾を全て吹き飛ばし部屋の窓も全て割れ、近くにいた鈴井シャドウも勿論吹き飛んで壁に衝突して泥のように溶けてしまった。

 

獣の如く息を荒立たせる鴨志田の充血して真っ赤な瞳は、先の風に晒されても微動だにしていないジョーカー達を捉える。まさに怒髪天を衝くという状態の鴨志田を見てモナはジト目でスッキリしたスカルを見上げた。

 

「・・・・・・おい、どうすんだあれ」

 

「悪ぃ、でも後悔してねぇ」

 

「お前なぁ・・・まっ、お前が色々言ったから吾輩もスッキリしたが。」

 

「両思いか」

 

「「やめろよ気持ち悪い!!」」

 

スカルとモナのやり取りを見てたジョーカーの一言に食らいつく2人。それを見てクスリと笑うパンサー。どこまでもリラックスをしている彼らを見て舐められていると感じた鴨志田は更に怒気を強めた。

 

『覚悟しろ、息の根を止めてやる』

 

「そうか、なら俺達は・・・・・・お前の(オタカラ)を頂戴する」

 

 

『ほざけえぇぇえぇえぇぇ!!!』

 

 

絶叫を上げた鴨志田が四足で駆け出し、ジョーカー達に向かって飛び跳ねると今までとは比べ物にならない程の速さでナイフとフォークを突き出して来る。喰らえば串刺し、もしくは真っ二つなその攻撃をひらりと躱したジョーカー達は散開してそれぞれ鴨志田に向けて攻撃を始めた。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」 「あぁ!」 「うん!」

 

 

『おのれっ!ちょこざいなァ!』

 

 

右からはスカルとパンサーのジオとアギが、左からはモナのガルが、そして正面からはジョーカーの銃弾の雨が鴨志田を襲う。だが奴はパレスの主、これまでに見た通りそれ相応の耐久力を有している。詰まるところ、タフだ。この程度では怯みこそすれど、倒せはしないだろう。

 

その証拠に左右からの攻撃をそれぞれの腕で受け止め、銃弾をある程度受けると舌で弾き始める。並大抵の敵なら今ので沈んでるハズだ。なので、ある()()を突く必要があるのだ。

 

「ふんぬァ!」

 

「フッ!ハッ!」

 

スカル達の攻撃を受けた際に出た煙を掻き分けるように現れたキャプテン・キッドの突進と、ゾロの剣撃が鴨志田に迫るがその4つの剛腕でそれらを受け止めてしまう。

 

『ゲハハハ、捕まえたァ!』

 

「ちっ!離しやがれ!」

 

「この!・・・なんてな!」

 

『なに、ぐおっ!?』

 

2人の攻撃を止めて余裕の表情で浮かれていた鴨志田のがら空きの顔面に素早く移動していたパンサーの鞭、そしてカルメンのアギが直撃した。これには思わずたたらを踏む鴨志田。その隙を突いてスカルのショットガンとモナのパチンコが追撃した。

 

『うぐぐ!?クソォ!!』

 

追撃を喰らった鴨志田はそれでも倒れずスカルとモナを薙ぎ払うようにナイフを振るった。回避しようにも攻撃の直後でスカルは間に合わずギリギリ避けたモナとは違いこのままでは直撃である。これには思わず「やべっ!」と咄嗟に防御態勢をとったがそれでも大ダメージを負ってしまうだろう。

 

モナも、目を見開いて助けようとするが回避行動中なので間に合わない。ジョーカーとパンサーも距離的に助けには入れない。では、このままスカルはやられるしかないのか。

 

否、ジョーカーがいる限り彼がそれを許さない。

 

 

「チェンジ『ゲンブ』、『ラクカジャ』」

 

 

パキン、と仮面が割れた音が響くとスカルを紫色の光が包み込む。その直後、ナイフがスカルを襲う。それを見た鴨志田は殺った、と確信した。

 

 

ガキッ!!

 

 

『んん!?』

 

だが、ナイフから伝わってきたのは人体を切った感覚では無く。まるで金属に刃を当てたような硬質な物だった。そして、勢いそのままスカルを吹き飛ばす。壁に当たったがドスッとまるで固く重い物体がぶつかったような鈍い音が鳴り、思わずスカルの方を見る。

 

当然、感覚通り彼は斬られておらずましてや大ダメージを負った様子も無い。「イテテ」と軽く頭を抑えてる程度だ。

 

有り得ん、と驚愕する。あれほどの勢いで攻撃したのに仕留め損ない、大したダメージにもならずにいるなんて。どういうカラクリだと考え、攻撃が当たる直前にスカルの体が紫に光ったのを思い出した。

 

直感的に、バッと彼の方へと振り返る。

 

『・・・・・・やはり貴様かッ!』

 

鴨志田の視線の先には先程とは違うペルソナを従えたジョーカーが居た。淡い光を纏ったそれは亀の姿に龍蛇の尾を持つ中国の神話や思想に多く登場する『四聖獣』の一角、『ゲンブ』が彼の盾となる様に構えている。亀の頭と龍蛇の頭の2つで威嚇をして鴨志田を睨んでいた。

 

「さて、なんのことやら」

 

ゲンブの龍蛇を撫でながらそう返すとそれはもう面白いくらいにイラついて青筋を立てまくっている鴨志田。メロンみたい。

 

煽る為にすっとぼけているが、勿論彼の仕業である。スカルに攻撃が当たる前に彼は防御力が上がる魔術『ラクカジャ』を()()()()してスカルに積んだのだ。当然、ゲームではそんな芸当は出来ず、なんならリアルなこの世界でも本来2回唱えて効果を伸ばすだけで重ねる事は出来ない。

 

だが、気の遠くなる試行錯誤の末ジョーカーはそこにある裏技を発見した。

 

2回目以降に更なる向上効果が望めないなら、1回の発動に2回分の魔術を重ねればいいじゃない、と。

 

お前はなにを言ってるんだ*4

 

こいつの言ってる事はつまり、1回の斬撃で3つの剣筋を生み出せるというとあるNOUMINがTSUBAMEを斬る為に生み出した多重次元屈折現象を発生させる技みたいな無茶ぶりを現実にしてしまったのである。

 

つまり普通に高等技術過ぎてヤバイ理論上可能な方法を可能にしてしまった変態野郎だ。そしてこの場合、ラクカジャの効果は倍近くの効果があり超高等技術の名に恥じない破格の効果を誇っている。

 

ちなみに少しのズレが魔術の不発を呼び、互いの干渉によって1回分以下の効果になってしまう為注意が必要だ。

 

『おのれぇ・・・・・・!!思えばいつもそうだ!!何か不都合があれば必ず貴様がいる!!貴様が来てから俺の統制が乱れ始めたんだ!!貴様のせいでェ!!』

 

そんな変態技術でスカルを救った変態に怒り狂う変態はグワシと近くにあったバレーボールを乱暴に掴み取ると魔力を注ぎ込み、巨大なボールに変化させる。

 

「げ!あの野郎またあれやるつもりか!」

 

「打たせるな!攻撃して止めるんだ!」

 

『邪魔だァ!』

 

それを見て妨害しようとスカル達が攻撃を仕掛けるが鴨志田は長い腕でのリーチを生かし空いている2本の腕を振るってそれを妨害する。それに直接当たる事は無かったがそれによって発生した強風で近づけなかったスカル達。その隙に鴨志田はボールを1度手の間でギュルリと回転させてから宙に投げ、サーブを上げる要領で飛び上がり再び金メダル級スパイクを放つ・・・・・・

 

『死ね!虫けらァ・・・ァ!?』

 

が、それは鴨志田が飛び上がる直後にガクンと突如体が沈みこんだことで中断された。完璧な流れでスパイクまで放つ気であった鴨志田は慌てて手を床について転ぶのを防いだものの、その現象に理解が追いつかず目を白黒させて混乱している。

 

『な、何が・・・!?』

 

起こった!?と言う前に鴨志田は気がついた。手が付いた床が嫌に冷たい。ハッとして自分の立っている床を見ると白い冷気が漂っており、自分の足を巻き込んでバキバキと凍りつかせていた。

 

そしてその氷の先を辿っていくと、行き着くのはやはりあの男。ジョーカーから鴨志田に向かって一直線に氷の道が出来ていて、鴨志田の足を凍らせてスパイクを打つのを阻止していたのだ。

 

「させると思うか?」

 

ゲンブの『ブフ』が瞬時に鴨志田の動きを止めて、したり顔で鴨志田を見下すジョーカー。必殺技も止められ、強者である自分が上から目線をされているという事実に耐えかねた鴨志田はその苛立ちのままあらん限りの力を持ってフォークを振りかぶる。

 

『ぐ、ぬ、ああぁあぁぁぁぁ!!!巫山戯るなぁ!俺様を見下してんじゃねぇぇぇ!!!』

 

そのまま足元を固めている氷を突き壊し、スカル達が再度妨害する隙も与えない程の速度で飛び上がりジョーカーに接近すると、腕を引き絞り己の巨躯を最大限に生かした強烈なナイフによる突きでジョーカーを刺し殺そうとする。

 

その速さたるや、まるで野獣の如し。

 

『グラァァアァァァァッッッ!!!』

 

「ふっ」

 

しかしやはり、単調な直線的な動きはジョーカーには通じない。どれだけ速くとも来るのが分っていればヒラリと飛んで紙のように避けてしまう。歴戦の怪盗であるからこその余裕の回避。

 

 

だが、実はそれが鴨志田の狙いであった。

 

 

『馬鹿め!!空中では身動きがとれまい!!』

 

 

そう、鴨志田はジョーカーが回避した瞬間、飛び上がり宙に浮いている状態になるのを狙っていたのだ。獣のような愚直な攻撃では無く、狡猾な悪魔による計算された攻撃は見事、ジョーカーを空中へと踊り出させ撃ち落とされる哀れな鴉へと成り下がらせた。

 

身体能力ならばこちらの方が圧倒的に上。こうなれば蜘蛛の巣に囚われた虫と変わらない。防御を上げる暇もなくいとも簡単に刺し殺すことが出来る。

 

『これで終わりだ!今度こそ死ね虫けらァ!!』

 

フォークを構え優雅に飛ぶ蝶の羽をもぐように、宙にいるジョーカーの命を絶つ致命の一撃が放たれる。当然、距離が離れているスカル達はそれを見ていることしか出来なかった。

 

体感にしておよそどれくらいか。1分?1時間?それ以上かもしれない。ゆっくりゆっくりとジョーカーの命を奪う瞬間が近づいていく。興奮による脳内物質の分泌により異常なまでの時間縮小が鴨志田にその瞬間を楽しみに熟視させた。

 

 

そして、確かに見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

『ッッ!?!?』

 

 

 

この状況下に似合わぬ表情に思わず驚愕し目を見開くと、たちまち時間の流れが戻っていく。間に合うはずがない、こんな状態で何が出来る!!と鴨志田の頭にはそんな強い否定の言葉で埋め尽くされていく。

 

だが理解していた。

 

 

この男が笑った時、それは打開策がある時であると。

 

 

「モナァッッ!!」

 

 

これまでで1番大きな声で仲間のモナを呼んだジョーカーは次の瞬間、何もない空間に向かって勢い良く()()()()()()()()()

 

ヒュンッと鴨志田のすぐ横を通り過ぎていくワイヤー。

 

『何をっ!?』

 

 

「おぅよォッッ!!」

 

そんな声を上げた瞬間、鴨志田の後ろからモナの声が響いた。

 

(しまった!!背後を取られた!!)

 

その一瞬の気の乱れが、僅かな隙を生んだ。その隙がモナのパチンコによる妨害を許し、甲高い音と共にフォークの挙動をズラしてジョーカーが避ける余裕すら生み出してしまった。

 

ギュルッと空中で身をひねり、回転しながら華麗にフォークを避けるジョーカー。そした放ったワイヤーはモナの召喚したゾロが掴み、その身を一本釣りして引き寄せる。

 

『なァッ!?クソォ!』

 

フォークが空ぶり、しかもジョーカーが逆にこちらに接近してくるのを見て鴨志田は反射的に顔を覆うように腕で庇い、防御体勢をとっていた。だが、それは致命的なミスである。

 

ジョーカーの狙いは鴨志田では無く・・・・・・

 

 

「言ったはずだ、お前の(オタカラ)を頂戴すると」

 

 

 

 

ガキンッ

 

 

『はっ・・・・・・』

 

 

ゴトンッと重厚な音を立てて、それは床へと転がり落ちた。

 

 

 

『お・・・・・・』

 

 

思わず、鴨志田は呆然とした目でそれが遠い床でコロコロと回るのを追っていた。

 

 

ジョーカーはすれ違う瞬間、アルセーヌの蹴り(ライダーキック)でそれ、()()()()()()()()である王冠を奴の頭から蹴り飛ばしたのだ。

 

 

 

『あああああああああああああああ!!!???王冠!!俺様のっ!!王冠がぁぁぁ!!??』

 

 

その事を認識した途端、鴨志田はこれまでの姿が嘘のように酷く取り乱し発狂し始めた。お気に入りの玩具を取り上げられた子供のような焦燥と絶望の入り交じった顔で王冠に手を伸ばしている。

 

だが拾いに行かせないように再びゲンブのブフで足元を凍せる。ジョーカー達の事など目に入らず王冠を見て狂乱する鴨志田にいよいよ大詰めだとジョーカー達は一気に勝負を仕掛けた。

 

「よし!総攻撃チャンスだ!」

 

「今だ!畳み掛けるぞ!!」

 

「よぉッしゃァ!!」 「行くよっ!」

 

 

ブチィッ!!

 

 

 

『ぐ!?ぬぉ!?ああぁ!?』

 

 

ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!ナイフで、銃で、鉄パイプで、サーベルで、鞭で、ペルソナで。ひたすらに攻撃しまくって体力を削り取っていく。そして鴨志田の体力を大きく奪った所で一旦距離を取り、最後の締めに入る。

 

勿論、鴨志田もこのままタダでやられる訳には行かない。心体共に衰弱しきっていても何とか抵抗しようとその手に持つナイフとフォークを勢いよく投げた。

 

『ク、クソォ!来るなァ!!』

 

「ふん!」

 

「だぁ!」

 

 

しかし、最後の悪あがきもジョーカーとモナによって簡単に弾き飛ばされ無情にも壁に突き刺さるだけに終わった。これで鴨志田はいよいよ武器も無い丸腰の状態まで追い込まれたのだ。

 

そして、そんな鴨志田に向けてジョーカーとモナの間から飛び出し、駆け抜けてきた2つの影が迫ってくる。

 

「よし!行け!スカル、パンサー!」

 

「ぶちかまして来い」

 

『過去の栄光に縋る愚かな暴君に革命の鉄槌を!』

 

 

「まあァかしとけぇぇぇ!!」

 

「うん!行ってくる!」

 

 

その2つの影はスカルとパンサーであった。2人はキャプテン・キッドの船体に乗って海を渡るようにホバー飛行して鴨志田に向けて突っ込んでゆく。

 

それを見て鴨志田は逃げ出そうとするがキャプテン・キッドの右手の主砲からジオが、そしてその背後に抱きつくカルメンの周囲からアギが飛び出し、鴨志田の動きを無理矢理止める。

 

『ぎゃあああああ!!??』

 

「不利になったら逃げ出すなんて都合よすぎんだよ!」

 

『こんな・・・俺様が、こんな奴らに・・・負ける・・・?そんな・・・そんな・・・。』

 

 

最早抵抗する力も残っていないのかフラフラと揺れながらブツブツとそう呟く鴨志田。もう既に戦えない程にボロボロだが、残念ながらまだ彼の精算は終わっていない。

 

 

「うし!んじゃあ決めてこい!パンサーッ!!」

 

「ッ!分かった!!」

 

そう言ってスカルは勢いをつけたままキャプテン・キッドの左手で彼女を投げ飛ばした。急な事で一瞬目を見開いていたが、意図を理解したパンサーは直ぐに意識を切り替え豹の如き鋭い目付きで獲物を捉え、力強く握り拳を作った。そして、その拳に魔力を練ると荒々しい炎が宿る。同時に、カルメンもその隣に現れ同じように拳を握った。

 

 

『お、俺は・・・俺は・・・王・・・・・・』

 

朦朧とする意識の中鴨志田の目に映ったのは、赤き女豹、紅蓮の炎、深紅の薔薇。

 

いや、散々自分が見下していた少女、高巻杏(パンサー)であった。

 

 

「最後にアンタに教えてあげる」

 

 

『『人形如きが俺様にそんな目を向けられる事を光栄に思うべきなんだよ』』

 

 

『『悪いのは俺じゃない!甘い蜜を求めてきた取り巻き共さ!!』』

 

 

『『俺様は才能ある人間、言わば選ばれし存在!!』』

 

 

鴨志田の脳内にかつての自分の発言が木霊する。それは浮かんでは消え、突きつけられる現実の前に泡のように弾けてゆく。まるで、まるで、走馬灯のように・・・・・・。

 

 

 

「綺麗な薔薇には・・・・・・」

 

 

 

『『俺様は』』

 

 

『俺様は・・・・・・』

 

 

『『他の人間共とは』』

 

 

『他の人間共とは・・・・・・』

 

 

 

『『違

 

 

「棘があんのッ!!」

 

 

 

ドゴシャアッッッ!!!

 

 

『ぶ・・・・・・』

 

 

凄まじい音を立てて鴨志田の顔面に突き刺さったパンサーとカルメンのアギを纏った拳は華奢な体からは想像も出来ない程の力で鴨志田の顔面を変形させ、悲鳴を上げる暇も与えずにぶっ飛ばした。

 

『ガフ・・・・・・!ゴハッ・・・・・・!』

 

何度もバウンドしながら吹き飛び、王冠の近くまで転がった鴨志田。完全に戦闘不能状態になった為かその悪魔のような巨躯はみるみるうちに萎んでいき、元の人間の姿に戻った。最初の姿とはかけ離れたボロボロの姿で痛みに呻いている。

 

それを見たパンサーは手に宿った炎を腕を振って消して鋭い目のまま、カツカツと音を立てながら奴に近づいていく。

 

そして奴の近くに落ちている王冠を拾おうとして、直後それを素早い動きで奪い取ってボールを取られまいとする子供のように腹に隠し、芋虫のように這いずって逃げるという威厳もくそもない手段を取った鴨志田がいた。

 

『ひ、ひぃ・・・ひぃ・・・』

 

「・・・・・・。」

 

それを先程の炎とは打って変わって氷のように冷たい目で見下しているパンサーはわざと大きく足音を立てて鴨志田の後を追っていく。それに心底怯えながら逃げていく鴨志田の行った先は、逃げ場も何も無いベランダであった。

 

慌てて右往左往するが、そんな事をしても逃げ場など出来るはずもなく、唯一の道は何も無いベランダの外だけ。酷く絶望した顔で追いかけてくるパンサーを見上げる。

 

「どうしたの?逃げないの?逃げたらいいじゃない。運動神経、バツグンなんでしょ?」

 

『う、うぅ・・・俺は、俺はみんなの期待に答えようと・・・昔からそうだ、ハイエナ共が期待という押し付けばかり・・・・・・俺だって必死だったんだ・・・!す、少しくらい見返りを求めたっていいだろ!?』

 

「ここまで来て言い訳かよ・・・!だからってお前がしてきた事が許される訳ねぇだろ!今までの分、全部償いやがれ!」

 

パンサーの隣まで来たスカルが言い訳を並べる鴨志田を正論で叩き伏せる。それに言葉を詰まらせた鴨志田。

 

「一か八か飛んでみる?それともここで・・・・・・死んでみる?」

 

依然として負けを認めない奴に対し、絶対零度の眼差しを向けたまま脅しでも何でもない、本気の殺意を覗かせながらアギを灯らせるパンサー。酷く危うい状況だが、モナとジョーカーはそれを静かに見守っていた。

 

『や、やめてくれ!!頼む!!やめてくれぇー!!』

 

そして、これまでの自分の行動を忘れたかのような恥の無い鴨志田の命乞いに我慢の限界を迎えたパンサーは一層炎を荒立たせ、その怒りを爆発させてしまった。

 

「皆、アンタにそう言ったんじゃないの!?けどっ!けどアンタは平気で奪ってったんだ!!」

 

「杏っ!?」

 

『う、うわぁぁぁぁぁ!!??』

 

彼女は本気で鴨志田を殺す気だと感じたスカルの静止も間に合わず、ゴウッと一気に巨大化したアギは一直線に奴へと飛んで行く。情けなく悲鳴をあげる鴨志田に無慈悲に怒りの炎が迫り・・・・・・

 

 

バチンッ・・・

 

 

『ひっ、あぁ・・・・・・?』

 

その炎は、鴨志田の目の前で四散し軽い火の粉だけが奴の周りに降り注いだ。死を確信していた鴨志田は呆然とパンサーを見つめる。彼女は息が荒くなっているものの、その目に宿るのは怒りではなく冷静さであり殺意もなりを潜めていた。

 

「廃人になられたら罪を証明出来なくなる、だから殺してなんかやらない・・・・・・!」

 

やはり、彼女は優しいなとジョーカーは頷く。彼女の立場ならば殺してもおかしくないというのに、その怒りを抑えて敢えて生かして罪を償わせる道を選んだ。傍から見れば当然と考えられるだろうが当事者の彼女がこの選択をするのは難しいだろう。

 

どこまでも人としての道を選べる彼女は自分とは違って真に優しい人と言えるだろう。そうジョーカーは1人考えていた。

 

「杏・・・・・・パンサーは優しいな」

 

モナの言葉に再び赤べこのようにコクコクと頷くジョーカー。感動が台無しである。

 

『俺は、負けた・・・負けたら終わりだ・・・俺は、どうすれば・・・・・・』

 

そう言って項垂れて涙を流す鴨志田。全くもって同情心など湧かないが、ここでずっと泣かれてても困るので答えを渡してやる。

 

「罪を償え、そして背負い続けろ」

 

ジョーカーがそう言うと鴨志田はピクリと反応し、涙を流しながら顔を上げる。その顔は涙でぐしゃぐしゃになり、酷い事になっていたが今までの中で1番スッキリとした、憑き物が落ちたかのような穏やか顔をしていた。人が変わるとはまさにこの事だなとジョーカーは考える。

 

『・・・・・・分かった、俺は現実の俺の中に帰ろう。そして、必ず積み重なった罪を償うよ・・・・・・そして、これも。』

 

傲慢さは欠片も感じられなくなり、人の心を思い出した悪魔は安らかな声でそう言ってオタカラをジョーカーに投げ渡すと淡い光となって宙に溶けるように消えていった。

 

過去に何があったなんて知らない、あいつがどんな思いをしてきたのかも知らない。どのようにして歪んだなんか知ったこっちゃない。人としての道を踏み外した奴だったが、ようやく人に戻れたのだ。これで、あの支配も終わる。それだけが確かだ。

 

「終わった・・・・・・のか?」

 

「ああ、オタカラも奪ったしな。これで現実の鴨志田も改心されている筈だ。」

 

「そうか、そうか・・・・・・なんか、実感湧かねぇな」

 

「そりゃ、直ぐに成果が分かる訳じゃないからな。なに、いずれ分かるさ。それよりも、早く脱出しないとまずいぞ?」

 

「え?なんで?」

 

「なんでってそりゃ・・・・・・」

 

改心され心が元の形となった事で歪みが消失した。しかし、ジョーカー達がいるのはその歪んだ心が形となった『パレス』。つまりこれから起こるのは・・・・・・

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

 

 

パレスの崩壊である。

 

 

「こうなるからな」

 

 

「・・・・・・それ早く言えやァァァァァ!!!」

 

「言わなかったか?」

 

「ちょちょちょ!!やばいって!早く逃げなきゃ!」

 

ガラガラとみるみるうちに崩壊が進んでいき、大きな瓦礫も降り始めている。完全に壊れるまでそうはかからないだろう。騒いでる内にも降り続けている瓦礫に押し潰される前に慌てて王の間から逃げ出すジョーカー達。

 

あちこちから破壊音が鳴り響き、どんどん亀裂が広がって全てが壊れていく。そんな中を追うように崩れる瓦礫から逃げながら走り続ける。

 

「死ぬ!死ぬってこれぇ〜ッ!」

 

「うおおぉぉぉおぉぉぉ!!」

 

「走れ風のようにホプキーンス!」

 

「誰!?誰なの!?怖いよぉ!」

 

「こんな時にコントしてんじゃねぇ!」

 

何故か変な電波を感じ取って謎のコントを繰り広げながら走るジョーカーとその頭にしがみつくモナに律儀に突っ込むスカル。そんなもんほっとけ。そのツッコミが足に響いたのか足をもつれさせて転んでしまうスカル。

 

「竜司!」

 

「問題ねぇ!久々だから足がもつれただけだ!」

 

そう言って直ぐに立ち上がるスカル。だが崩壊は割とシャレにならんくらい近くまで迫ってきていた。後ろを振り向き、雪崩のように崩れる天井を目にして再び猛ダッシュで逃げ始める。

 

「出口!出口はまだかァ!?」

 

「もうひと踏ん張りだ!降り絞れ!」

 

「ひぃぃ〜!!」

 

全員が必死に走る中*5、廊下の先に眩い光が見え始める。どう考えてもあれが出口だろう。疲れる体に鞭を打ってラストスパートを駆ける。がんがん迫る崩壊にあと少しで追いつかれるという所まで来て、ギリギリ光の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

鴨志田パレス 攻略完了!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・キッツゥ・・・・・・!」

 

「だっはぁ・・・!し"ぬ"か"と"思"っ"た"ぁ"〜"!」

 

「うわ、声汚ったな」

 

「るせ〜・・・久々に全力走ったんだからしょーがねーだろ・・・」

 

 

パレスが崩壊し、現実世界に戻ってきた4人。息たえだえになっている杏と竜司に比べ、巫山戯た走り方をしてたにも関わらずケロッとした顔をしてる蓮。あと走らずに蓮の頭に乗ってたモルガナが竜司をディスったがそれに返せる余裕が無い竜司は息を整えながらそう返した。

 

ようやく息が戻ってきた竜司がハッとしてスマホを取り出し、ナビを確認する。

 

「おい!ナビ見てみろよ!」

 

そう言われて杏と蓮はスマホを取り出し、ナビを見てみるとそこには来る前にはあった鴨志田パレスの表示が消え、そしてそれを伝える音声も流れてきた。

 

『目的地が、消去されました』

 

「行けなくなってる・・・ホントに無くなったんだね」

 

「それより!オタカラは!?」

 

皆してナビを見てるとモルガナがそう声を上げたので蓮はポケットに入れて置いたオタカラをスッと取り出して見せた。

 

「あ?んだこりゃ?メダル?」

 

「あれ?王冠はどうなったの?」

 

そう、蓮が手に持っているのはどこからどう見ても王冠では無く、似ても似つかないメダルになっていたのだ。杏と竜司が?を上げているとモルガナが説明に入る。

 

「鴨志田にとって欲望の源がそれだったって事だ。奴にとっちゃこのメダルがパレスで見た王冠くらいの価値ってことだろ。」

 

やや疲れ気味にそう説明したモルガナはピョンと蓮の肩に乗って頭にぐでっとのしかかった。お疲れ、と顎辺りを撫でるとされるがままにして気持ち良さそうに目を細める。可愛い。

 

「それ、オリンピックのだろ。あの野郎、過去の栄光にしがみついてただけって事か・・・・・・なんつーか、一周回って憐れに思えてきたぜ。」

 

「でもこれで鴨志田の心も変わった・・・て事なんだよね」

 

「多分な、まぁ大丈夫だろ。鴨志田のシャドウ、現実の自分に還るって言ってたろ?シャドウが自分からそう選択したんだ。きっと改心してるだろうぜ。でも今は鴨志田の出方を待つしかねぇな。」

 

「どっちみち、待つしかねーって事か。モヤモヤすっけど仕方ねぇか・・・。」

 

そう言ってため息を吐いた竜司は次いで出てきた欠伸を噛み殺す事もなくデカい口を開ける。それにジト目を向ける杏だったが彼女も竜司の欠伸を見て連鎖するように登ってきたそれを無理矢理噛み殺す。やはりパレスの主との戦闘は相当な疲労になっている様だ。

 

「とりあえず、今日は帰ろう。どうやら外はもう放課後の様だし。」

 

「んぁ?放課後?って!マジかよ!ホントに放課後じゃん!」

 

慌てて携帯で時間を見て、そしてもう日の落ち始めている空を見て驚愕した竜司。パレス内部の時間と現実世界の時間のズレ、今回は割と大きくズレていたようだ。一日丸ごと授業をバックれた事になった訳だが、まぁ些細なことだろうと蓮は全く気にしていなかった。

 

「あ、皆!!」

 

とにかく、これ以上はする事も無いので解散しようという所で校門からパタパタと鈴井が走ってきた。どうやら丁度下校するタイミングだったようで不安げな顔で慌てて駆け寄り、杏の体をポンポンと叩き怪我がないか確認し始める。

 

「大丈夫!?どこも怪我してない!?雨宮君も坂本君も!それにモルガナちゃんも!」

 

ワタワタと皆の安否を確認して「はいこれ!飲み物!」とカバンの中からスポーツドリンクを出して全員に素早く手渡して更にエナジーバーも渡していく。その勢いに身を逸らしてやや引き気味にそれを受け取る竜司と杏。

 

「お、おぉ・・・サンキュ、鈴井・・・・・・」

 

「あ、ありがとう志帆・・・・・・」

 

「ありがとう鈴井さん」

 

全く動じずにエナジーバーを一瞬で平らげモルガナに少しだけ分けてからスポーツドリンクを飲み干した蓮。彼女はこうやってパレスから帰還すると疲労してる皆を労わって色々と献身的にサポートをしてくれるのだ。

 

「ホントに大丈夫なの!?もしダメなら任せて!私これでもスポーツ選手だから杏を背負いながら帰宅するのも楽勝だよ!」

 

「いや大丈夫だから!流石にそんなの悪いって!ていうか普通に恥ずかしいからやめて!」

 

「心配しないで!杏は軽いから!」

 

「そういう問題じゃなくてー!」

 

「な、なんかキャラ変わってねぇ?」

 

「それだけ心配だったんだろ、いいじゃねぇか。少しくらい。にゃぁふ・・・・・・眠ぃ・・・・・・」

 

そうして心配からやや暴走気味になっている鈴井を宥めながら帰宅しようとして、ふと、蓮が周りを見渡す。

 

「?どうしたんだ蓮?急にキョロキョロして。」

 

「・・・・・・いや、なんでもない。帰ろうか、マイホームへ」

 

「なんか、変な意味に捉えられそうだから止めてくんね?」

 

そう言って、帰路に着く蓮にマジレスをする竜司。だが時すでに遅し、ならぬお寿司。遠くない未来BL業界を震撼させる革命児になる例の女子生徒がそれを目撃し、謎の衝撃波に吹き飛ばされヤムチャポーズでぶっ倒れた。「スパダリ × ヤンキーツンデレ、私の好きな言葉です・・・」と言いながら保健室に運ばれていっている事など知らずに蓮達は帰宅していく。

 

 

「確かに視線を感じたんだが・・・・・・一体誰だ?」

 

 

最後に感じた視線、その先へ目を向けたのだがいつの間にかその気配は消失し、どこにも感じ取れなくなってしまっていた。

 

(あの一瞬で気配を消すなんて、何者だ?立て続けにイレギュラーか・・・・・・これはまたしばらく警戒が必要だな)

 

その視線に未だかつて無い違和感を感じながら、蓮はモルガナと共に我が家に帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・。』

 

 

 

そんな彼を、静かに見つめる1つの影が踵を返しゆっくりと彼らとは逆方向の道へ消えていく事に気づかずに。

 

 

 

 

 

世界はここから確かな分岐を果たしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ヤバイという意味

*2
ダメです

*3
仙道の画像

*4
例の画像

*5
ジョーカーは十傑集走り





BGM:Blooming Villain

うおぉぉぉ!!鴨志田編、完結!長かった!いやほんとに。自業自得だけど。変態は綺麗な変態になって現実へ還りました。すね毛は汚いままだけど。

補助魔術の重ね掛け、ゲームでは効果持続しか出来ませんがジョーカーの手にかかればあら不思議。謎の超変態高等技術で倍くらいの効果が出ます。破っ格〜(IKKO並感)デメリットは少しでもタイミングをミスると効果が1回分以下になる。デメリットにしては軽すぎる。ゲームにも欲しい。

鈴井は裏方係、こんな感じに異世界から帰ってきたら過保護なおばあちゃんみたいに色々もやってくれます。怪盗団がでかくなるにつれてそのサポートが手広く過激になっていく。

ちなみに今回、長くなり過ぎたのでゴリゴリ削ってます。毎回短めとか言ってるのにそこそこ長くなるのなんとかしなくては・・・。

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