展開も遅いし筆も遅いとか終わってるやんとお思いでしょうがどうか許して下さい。たまにニョキっと生えてたら珍しいキノコくらいな感じで見て頂けると幸いです。
ほわんほわんれんれん〜〜・・・・・・
それはまだまだ寒さの残る時期、ふと思い出した事で突然読みたくなったデルトラ○エストを求めて図書館に行った帰りだった・・・・・・。
「なんか昔見た時とは印象違ったな・・・面白かったけど」
かつて読んだ時よりも内容を理解できるようになってから見直すと思ってたより記憶と違ったり、こんな感じだったのか・・・と懐かしさと今の視点から見た面白さに読み込んでしまった。パッケージ詐欺と蔑んでてすみませんでした。
気がついたら図書館の閉館の時間となっており、空もすっかり暗くなってしまっていたのだ。
「随分遅くなっちゃったな・・・早く帰ろう」
スマホで時間を確認するともう21時を回っている。親からも心配と怒りを感じるメッセージが届いており、このままだと夕飯を無くされそうだ。謝罪と慈悲を求めるメッセージを送ってから小走りで帰路を辿る。
人通りもなく車も全く走らない静寂が広がる夜には自分の足音と民家からうっすらと漏れてくる話し声やテレビの音すらよく耳に入る。日中じゃあまり味わえないこの感覚が割と好きだった。
「ん?」
『・・・・・・!』
『・・・・・・ッ!』
そうして夜の街から何となく感じる非日常感にうきうきしているとこの夜に相応しくない喧騒が聞こえてきた。聞こえる限り何やらこの先の路地で男女二人が近隣住民に通報されそうな。くらいの声量で口論をしているらしい。
「なんだ?なんだ?こんな街中で喧嘩か?」
迷惑だなぁとフツフツと湧いてきた野次馬根性に従って声のする方へ近づいていくと段々と声がハッキリと聞こえ始め、その内容も分かってくる。
「離して下さい!」
「いいからさっさと乗れ!」
おっと、これは巫山戯てられる件じゃないな?とここに来て漸く気が付き始めた。あまりにも切羽詰まった女性の声はとても普通とは思えないもので、大学生グループの悪ふざけなどの線も直ぐに頭から消えていった。
「これ、もしかしなくてもやばいんじゃ・・・」
そう思ってしまった瞬間、背筋が冷えて足取りも重くなる。自分の手に余る事態だと分かるやいなや、ただの小市民である自分が向かっても仕方ないんじゃ?と少し躊躇いが生まれてしまう。
(俺が行ったところで・・・)
『我が身可愛さに見捨てるのか?』
(・・・・・・いや!そんなことはしない!)
心の中で湧き上がってきた疑問の声に即座に否を返し、聞かなかった事には出来ないと炎のように燃え盛った己の正義に従い声の先へと駆け足で向かっていった。
近づいていくにつれて揉め事の声は大きくなっていく。バクバクとうるさい胸を抑えながらも道を走っていくと道路で堂々と女性を車に連れ込もうとしている
「いや、やめて!放してください!」
「うるせぇ!さっさと車に乗れ!お前らのような無能な連中はな、黙って俺の舵取りに従っとけばいいんだよ!」
「だ、誰か・・・!」
現場を見て少し呆然としてた蓮だったがそこで女性と目が合い、助けを求めるその瞳にハッと意識を切りかえて女性の手を乱暴に掴む
「やめろ!その人の手を放せ!」
蓮が近づいてそう叫ぶとハゲは鬱陶しそうに顔を向け、その頭に見合うほどの強面で彼に凄んできた。
「ああ?なんだぁガキ・・・誰に口聞いてんだ!?」
「ッ・・・!お前が誰とか知るか!とにかく女性を解放しろ!」
「こんの生意気な・・・!黙っとけクソガキがっ!!」
「うわっ!」
「ガッ!?い、痛え・・・!?」
自身の威嚇に怯むことなく返してきた小僧に苛立ちを隠せなかったハゲ。歌に反応して揺れる陽キャ向日葵のようにふらついた結果、自分で縁石に頭を打って血を流すハゲ。
これには殴られると思って顔を庇っていた蓮と女性も引き気味である。引き攣った顔で自業自得ハゲに可哀想なものを見る目を向けた。
「え、えぇ・・・それはさすがにダサすぎる・・・」
「このガキっ・・・黙って殴られておけばいいものを・・・!」
「勝手に転んで勝手に流血してる人がなんか言ってる」
「訴えてやる!」
「ダサさの上限突破してるの自覚してます?」
しかも逆ギレもカマしてきた為、蓮も呆れ極め、最初の恐怖はどこへやらジト目を向けながらやれやれと肩をすくめた。これにはハゲも激おこ、タコのように真っ赤になって喚き散らし始める。み、みっともねぇ・・・。
「喧しい!おまえの人生はもう終わりだ!」
「や、やめてください!それ以上するならあのお金の事告発しますよ・・・いいんですか!?」
「そんなものお前がやったと言えば済む話だ・・・俺を誰だと思ってるんだ?」
「そ、そんな・・・」
しかもここに来てテンプレな三下悪役クソダサムーヴを追加してくるハゲ。蓮は顔を手で覆って天を仰ぎたい気持ちをグッと抑えて大人としても男としても最低点を更新してくるハゲに軽蔑の目を向ける。
「警察が来たらこう証言しろ、ガキがいきなり俺に乱暴をしてきたとな。ちょっとでも余計なことを言ったら、分かってるな?」
「さっきから何を言ってるんだ?頭を打って気がおかしくなったのか?元からっぽいが・・・頼むから大人がこれ以上醜態を晒さないでくれ。こっちが泣きたくなる。」
「黙ってろ!貴様こそ誰に口きいてると思ってやがる!」
「いや、あんたが誰か知らんし・・・・・・あれか、漁業が上手くいかなくてヤケ酒でもしたのか。辛いだろうが人生の舵取りを投げ出すもんじゃないぞ。」
「こんのガキが・・・!!!」
最早このまるでダメなおっさんハゲ、略してマダオの相手をするのが嫌になってきた蓮は対応が雑になり、とうとう権力を・・・いやこれは最初からか。子供のように自分の立場をブンブン振り回し、ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる酔っ払いの相手などこれ以上御免だと考えていると近所の人が通報していたのか警察がこちらにやってきていた。
ああ、やっとこの厄介な卵頭から開放されるとため息を吐いて肩の力を抜く蓮。しかし警察はこちらに話しかけるとハゲの顔を見て驚愕していた。
「すみませーん、このご近所から通報があったのですが何かありまし・・・って!あなたは!」
「ふん、ようやく来たか・・・おい、どういう状況だった?警察の方に説明してやってくれ」
「いや、なんかこの人が勝手に転んで───」
このマダオ、まさか常習犯か?と更に冷たい視線を向けた蓮は早速この男がしてきたこと・・・と言っても自爆しかしてないが、まぁとりあえず自分が知る事情を話そうとした瞬間。
横から震えた声で女性が話を遮ってきた。自分の代わりに詳細を知っている彼女が説明をしてくれるのかもしれない、そう思ったのも束の間。
「・・・・・・そ、そこの少年が突然殴りかかってきて、この人を強く突き飛ばしました。それで、怪我を・・・。」
しかしその内容は事実とは全く異なるもので、何故かこちらを悪者に仕立てたものである事に蓮の脳は少しの間思考を停止してしまう。
「───へ?いや、そんなグラ〇フみたいな事してな・・・」
「・・・分かりました」
そう言うと警察はガシッと掴んだ・・・・・・俺の肩と腕を。
なんで?
「は!?いやなんで!?ちょ、どこ触ってんでぃ!どこ触ってんでぇ!?」
「騒ぐな!話は署で聞く!というか肩と腕しか触ってないだろ!誤解を招くようなこと叫ぶな!」
「おかしいでしょちょっと!お姉さん!?なんで嘘つくんですか!あ、そうだ周辺住民の人達に話聞いてみてくださいよ!それなら・・・」
「いいから乗りなさい!くっ!力強いなこの子!抵抗しない!公務執行妨害になるよ!」
「いや拉致拉致拉致!!向こう拉致!なんなら暴行未遂に酒気帯び運転及び虚偽申告!!どう考えても向こうの方がやばいでしょ!ちょっ!?国家権力ぅ!!」
まさかの事態に思わず抵抗し拘束から逃れようとする蓮。当然、警察はそれを押さえ込むがあらぬ誤解が広まりそうな事を口にする蓮を慌ててパトカーの中へと引っ張りこんだ。
ガタガタと揺れるパトカー、これもこれで誤解が広まりそうだな。
無様に騒ぎながら捕まった蓮を見て少しは溜飲が下がったと鼻を鳴らすハゲ。どこまでも小物精神な奴は警察を軽く脅し口封じまでしていた。
「ふん・・・いい気味だ。それと俺の名前は一切出ないよう処置してくれたまえ、どういう意味か・・・分かるよな?」
「は、ハッ!そのように!」
「ちょっ、俺何もしてませんよ!?なんで!?そこの頭部が寂しい人が勝手に!ちょっとぉぉー!!」
そう叫ぶ蓮の言葉など誰も聞く耳を持たず、そのまま傷害を犯した非行少年としての烙印を押されてしまったのである・・・ちなみにこちら、かなりコミカルにして胸糞要素を薄めたものなので原液を摂取したい人は本家をプレイする事を強く推奨します。
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「って訳だ」
いやー、懐かしいね。いつ思い出しても腹立つな。しかもループの起点がその後なのであの出来事だけはどう足掻いても消せないっていうのが余計に。とはいえこれが無ければ皆と会う事も怪盗団になる事も無かったのだから、ともまぁそれも腹立たしいというかなんというか。
そうしみじみと考えていると話を聞いてい間ずっと苛立っていた竜司が机を殴り付け、かつて話を聞いた時と同じように納得がいかないと怒りを露わにする。
「くそ!何度聞いても腹立つハゲだな!警察も警察だ!なんだよ傷害って!」
「酷い・・・・・・」
「女の方もだんまりを決め込んだというわけか、理不尽な・・・」
「そういう奴の心こそ盗むべきだぜ!どこのどいつだよソイツ!」
「それが分からないんだ・・・暗がりだったからよく見えなくて」
だが地位だけはある人の上に立つには不相応なハゲだった気がする・・・
「まぁそんな訳で前科者の仲間入り、高校も退学になるわ故郷には居ずらくなるわでてんてこ舞い。何とか秀尽に入れたからこっちに来たって感じだ。」
「そうか・・・大変だったな」
モルガナから、というより全員から同情の目を向けられる。皆も同じくらい辛い目にあってるだろうに。
そう考えていると祐介がグッと握り拳を握って忌々しそうに机を睨みながら呟いた。
「悔しいがもう判決は出てしまっているから相手を特定しても『傷害』という前歴は消えない。なんて巫山戯た話だ・・・。」
そう言って握り拳を更に強く握る祐介。感性が鋭く正義感の強い彼は、自身が味わった権力を盾に他者を陥れるという行為に酷く怒りを抱いているようだ。それに同調するように竜司が勢いよく立ち上がり声を大にして言った。
「世の中間違ってるぜ!弱ってるヤツ助けねぇで身勝手な大人勝ち逃げさせてよ!・・・けどさ、俺達なら変えられるんじゃねぇか!?」
逸る気持ちを抑えられずに立ち上がって蓮達の目を見てそう力強く宣言する。青さや多分に残るが固い意思を籠った目で必死に訴えかけてくる彼に祐介はふっと笑って返した。彼もまた竜司と同じ思いだったようだ。
自身の手を見て、己に宿る
「俺達が正しい正義を見せ付けて世間の目を覚まさせてやればいい、か」
「ッ!そうだ!俺達なら出来るぜ!俺達が授かった力なら絶対!」
「うるさい、竜司。なに熱くなってんの。」
興奮して声を荒らげ始めた竜司だったが、今の今まで寝ていた杏がムクリと起きてそう言った。
「あ、わ、悪ぃ。起こしちまったか・・・?」
「ううん、別に。途中から起きてたし。」
自分のせいで疲れてるところを起こしてしまったかと焦っていた竜司だったが、どうやら途中から話は聞いていたらしい。眠りが浅く、皆が過去を話してる中起きるタイミングを失っていたようだ
「おぉ、そか。良かったぁ、てっきり起こして怒りの鉄拳でも飛んでくるものかとォッ!?」
ほっと胸を撫で下ろした竜司の手元にいつの間にか取り出していた鞭が叩きつけられる。無論、外してるし加減はされてるが当たったらかなり痛いだろう(小並感)
パンッていったよパンッて。あれ当たったら跡になるやつだよ・・・とモルガナと蓮は身を寄せあってビビり散らかしていた。
「お望みのものはこれ?全く、人をなんだと思ってんだか・・・。」
「女豹・・・」
「ふんっ!!」
「ヘブァッ!?」
今度は強めにスナップを効かせてケツにスパンキングされる竜司。残念だが、相手が女王様であると知った上で煽ったのだから残当である。ケツを抑えながら声を殺してのたうつ愚者を無視して祐介が志帆へ声をかける。
「話の流れで聞いてしまうんだがそういえば志帆は過去に何があったんだ?」
「え?ああ、私はみんなと違ってそんなに重くないというか・・・部活で体罰受けてたくらいだし・・・」
「・・・ん?いや十分重いが・・・?」
謎の謙遜でそう返してきた志帆に困惑する祐介。他の奴らが軒並みぶっ飛んで重いだけで志帆の受けた仕打ちも十分に酷いものだ。もしも正史通りに行っていれば間違いなく胸糞ランキングトップだ。だから麻痺しないで。
「そうだよ!!それに蓮がいなかったら、もしかしたら・・・!!」
「・・・・・・これ以上深堀するのはよしておこう」
決して古くは無い記憶、抗えないという恐怖と戦っていた日々を思い返して志帆の手が少しずつ震えてくる。それは正史となる筈だったIFを想像し・・・そうしてデリケートな話だと察した祐介が自ら話を切ってくれた。
「・・・・・・うん、ありがとう祐介。でも私だけ話さないなんてフェアじゃないもんね。ちょっとヤな話になるけど・・・」
しかし、それは己を曝け出してくれた皆への裏切りだと考えた志帆はトラウマを抑えて自らに起きた事を祐介に話した。
「・・・・・・志帆、君の勇気と覚悟に敬意と感謝を。君も辛い日々を乗り越えて来たんだな。」
「どうだろう・・・私はペルソナが目覚めてないし、乗り越えては無いかも・・・でも、もう逃げないで向き合うって決めたから。」
そう言って、痛みに震える竜司のケツに傷薬*1を塗る蓮を見つめる志帆。そんな彼女を見てこれ以上の同情は無粋か、と考えそれはそれとしていい表情をする彼女を軽くスケッチする祐介。しまらない。
互いの過去を赤裸々に語った彼らの間には心を隔てるものは無い、今まで以上に絆が深まるのを感じる。
「・・・なんか、皆の話聞いてたらさ。私達ってホントに似た者同士だなって思った。勝手な大人に振り回されて、居場所を失って・・・なんか、皆のこと昔から知ってるみたいな気持ちになっちゃうよ。」
「確かにな、似たよーな経験してるからか実は?って思う時はあるぜ。まっ!似た者同士っつってもろくなもんじゃないけどな!」
「ふっ、違いない。」
全員が大人達の最低なエゴに振り回された子供達。劇的な経験の中で互いが互いの傷を見つめ、それを支えられる仲にまで急速に発展した彼らだったがただ一人それに疎外感を覚えている者がいた。
そう、唯一『過去』を持たないモルガナである。
「・・・・・・吾輩だけ、違うな」
「あん?」
「吾輩には振り返れる過去が無い・・・お前らのような『何か』が」
シュン、と何時もの偉そうな態度を潜めて寂しそうに呟くモルガナ。その姿に覇気は無くいつぞやに言った迷子の子猫ちゃんのようだ。余りにもらしくない姿に竜司はプッと小さく吹いてからその頭を乱暴にガシガシと撫で回す。
ボサボサになった頭で「あにすんだぁっ!」とキレるモルガナに竜司はピッと指さして笑いかける。
「んだよ、仲間外れってか?バーカ、お前は俺達の創、創・・・創造者?」
「創始者」
「そうそう、創始者なんだぜ?お前がいたから俺達はこうして怪盗団出来てるんじゃねぇか。」
蓮に付け加えられながらそう真っ直ぐに告げる。かつての出会い、摩訶不思議過ぎる出会い。あれが無ければ俺達はここにいねぇと胸を張って言ってのける。
怪盗団の中心はお前だろ、と心から思っている竜司にそんな事を思われてるとは考えもしなかったモルガナは思わず顔を赤らめてそっぽを向く。分かりやすい照れ隠しだった。
「それに、きっとその過去も俺達同様ろくでもないものだろうさ」
「その過去を取り戻す為にもメメントス探索も頑張んないとな」
祐介と蓮も優しい笑みを浮かべながらそうモルガナへと声をかける。自分を包む慈愛にむず痒くなり、声を大にして見栄を張った。
「ふ、ふん!どうかな!吾輩は紳士で教養もあるからな!さぞ凄い過去だろうぜ!楽しみにしてろよ!」
そう言いながら顔はニヤけててめっちゃ嬉しそうである。可愛い。
完全にいつもの調子に戻ったモルガナを愛でていると杏が真剣な顔で切り出す。
「ねぇ、やろうよ。私、行けるとこまで行ってみたい!ダメな大人を懲らしめて困ってる人達を勇気付けたい!それって私達にしか出来ないことだよね・・・!」
グッと手を握りながら自身の思いを吐露する杏に竜司達も賛同して笑みを返した。
「へへっ、だな!」
「怪盗団を続けていれば俺も成長できる、絵描きとしても人としてもな。」
「私も私に出来ることをするよ!」
「吾輩が直々に鍛えてやるんだ、この怪盗団で出来ないことは無い!」
「ってことで、改めてよろしくね!リーダー!」
全員のモチベーションが高まった所で杏がそう声を振ると、他のメンバーからも視線が集中する。これはリーダーとしてパシッと決めなければと察した蓮は華麗に全員分のジュースを入れて配るとそれを掲げてここに宣言する。
「ふっ、怪盗団『ザ・ファントム』全会一致により活動継続だ!やってやろう!」
「「「「「おーっ!!」」」」」
カンッとコップを合わせて意思を合わせた彼らはその後もわいきゃいと話しながら終電ギリギリまで楽しく盛り上がり続けたのであった。
「その為には知名度を上げてかないとな!」
「怪チャンとかを見て色んな依頼とか・・・」
「他にもさ・・・・・・」
「・・・・・・。」
「・・・。」
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ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聞こえ始める早朝からギシギシと音を立てながらまだ薄暗いルブランの2階から荷物を纏めた祐介が降りてくる。まだ膨らんでいる蓮のベットを一瞥してから極力音を立てないようにしていた彼はゆっくりと店から去ろうとするが、既に店の準備を始めていた惣治郎と蓮が彼を出迎えた。ちなみにベットの膨らみはモルガナと枕で作られたものであった。
「おはよう」 「おはようさん」
「おはよう、ございます。随分早いんですね。」
「ん?そうか?何時もこんなもんだよ」
嘘である、実は祐介がここに住むことを相談されていたので朝飯でも作ってやろうと何時もよりも早く起きて来ていた。昨日の食器を洗っていた蓮は裏でニヤニヤである。
「随分早いじゃないの」
「ええ、長居するのも悪いと思いまして。泊めて頂きありがとうございました。」
ペコリと頭を下げる祐介の手に荷物があるのを見てこの家に留まらない事を察する。
「荷物纏めてるって事は出てくんだな?住むとこ決まるまでここにいていいんだぞ?こいつと一緒じゃむさ苦しいだろうがな。」
具材の仕込みをしている蓮の頭を包丁を持っていないタイミングでぐわんぐわんと回す惣治郎。されるがままの蓮は無表情で食器の準備をして、スルリと抜け出すとカレーの味を確認する。構うと嬉しそうにするがやり過ぎると逃げる、本格的にモルガナのようになってきたなと笑う。
そんな様子を見ていた祐介は無意識に手元に出していたスケッチブックにラフを描いていた事に気が付き、惜しみながらも今は・・・と考えながら手はちゃっかり絵を描き続けてる。画家のサガ。
「皆と昨日一晩話して考えたんです。俺は絵の世界に閉じこもってたせいか外の・・・世間を、人を知らなすぎたと。」
思い返すのは狭い部屋とかつての師、そして教え子達。それ以外でのコミュニティには思い返す限りそこまで属した事など無かった。他者とは関わらず、ただ絵と向き合い続けた日々。別に人嫌いな訳では無い、ただ師達がいれば良いと思っていただけ。
それでは感性にも限界がある、必ずどこかで頭打ちになる。蓮達と心が跳ね上がるような体験を通してそう思ったのだ。
「人間を描くのならもっと知らなければならない。蓮達を通じて色んな人と触れ合うべきだと考えたんです。だから学校の寮に戻ろうかと思って。」
「ほぉ、その若さでよく気づいたもんだ。大したもんだよ。」
「いえ、そんな・・・」
惣治郎の賞賛にそんな高尚なものではと謙遜していると彼の前にコトリと何かが置かれる。それは普段粗食な祐介の鼻腔を蹂躙と言っていいほど刺激する至高の香りを発する全人類の味方、カレーであった。勿論、最高の相棒であるルブランコーヒーもセットだ。
こ、これは・・・!?と動揺する祐介に蓮はウィンクを返し、総治郎は静かな笑みを浮かべた。
「なに、気にすんな。未来ある若者への投資ってとこかな。遠慮せず食えよ。」
「祐介、ここのカレーはコーヒーと最高に合うぞ。楽しんでくれ。」
「・・・痛み入ります、では早速」
二人の粋に涙を流して感謝を告げるとスプーンを手に取り、ゆっくりとカレーをすくい上げ、ゴクリッと喉を鳴らしてから意を決して頬張り込んだ。
その瞬間、カッ!と目を見開き数秒固まったかと思うとあまりの美味さに感涙し始める。
「美味すぎる・・・!!」
泣きながらも食べる手は止めず、しかしひと口ひと口味わいながら食べ進める祐介。五臓六腑に染み渡る美味さだと感動しながら、そうだ、コーヒーも味合わねばと考えカップを手に取る。
このカレーに抜群に合うと言われたコーヒー、一体どれほどの・・・?
高まる期待に胸を踊らせながらカップを傾け、香りと共に余りにも滑らかに口内に広がり・・・・・・
「ッッ!?こ、これは・・・!!??」
訪れる衝撃、これまでに味わったことの無い味覚のハーモニー。どちらかが引き立て役になってる訳ではない、カレーがコーヒーを、コーヒーがカレーを!互いが互いの美味さを引き立てている!言うなれば舌で奏でる味の
祐介は、静かに涙を流しこの出会いに感謝した。新たな解釈を、芸術の道を見せてくれたこの最高のコンビへ最大の賛美を。祐介はこの日、確かに人生のステージを一つ超えたことを確信した。
驚愕したり泣いたりと忙しい彼を見て、苦笑いを浮かべながらも余りにも美味しそうに食べる姿に満更でもない顔をして見守る惣治郎。
「口に合ったようで何よりだよ。焦らず食いな。」
たらふく食いねぇ・・・とニコニコしながら見ていた蓮は掃除や仕込みが終わったので箒を持って外の掃除に取り掛かる。
「じゃあ俺、店前の掃除してきます」
「おう、頼むわ」
鈴の音を鳴らしながら店の外へ出た蓮、鼻歌*2を奏でながら箒で砂を払い、取り出した布で窓や入口、看板などを綺麗に拭き、屋根から砂埃払う。これを徹底して行い、朝日に照らされて煌びやかに見えるほどに仕上げる。うん、と満足気に頷いているとご近所さんが話しかけてきてくれた。
ここに来てまだ2ヶ月ほど、そんな短期間で既に強い信頼関係を築いており今みたいに店前の掃除をしていたり買い出しの為に出かけていると話しかけられることが増えていた。お年寄りが多い影響か、皆の孫のように見られておりかなり可愛がられているようだ。
ほらもう世間話ついでに肩まで揉んじゃって。そうこうしていると周りからどんどん集まって早起きなお話大好き老人会が開催、お年寄りのお話を聞き上手EXで捌いていきポケットがお菓子でパンパンになっている頃。ルブラン店内では総治郎と祐介が話をしていた。
「・・・昨日、彼の過去の話を聞きました。大変な思いをして・・・その、お聞きしたいんですが、マスターはなぜ彼を引き取ったんですか?血の繋がりがあった訳ではないんですよね?」
「ん?なぜって・・・理由、ね。んー・・・・・・」
手馴れた手つきで蓮の分のコーヒーと朝食のカレー・・・と見せかけてサンドイッチを用意しながら少し考え、小さく微笑みながら答える。
「似てるからかね、昔の自分に。」
雰囲気だけは似つかないが境遇や環境など、どこか過去の自分を想起させる、様な感じがするから。まぁ昔の俺はもっとイけてたが、と冗談交じりに付け加える惣治郎に祐介は目を丸くする。
「それだけの理由で?世間的に見れば彼の境遇は厄介なものだ、なのに」
「ふっ、世の中そんなもんさ。誰かが誰かを気にかけるってのは、割と単純なもんだ。お前んとこの・・・元師匠?その人だって才能を盗む以外にお前に何か思うとこがあったんだろうよ。」
そう言われて、かつての日々を思い返す祐介。あれら全てが嘘と演技で飾られたものかと聞かれると・・・分からないというのが本音だ。決めつけようにもそうするには過ごした時間と触れ合った記憶が長すぎる。
そも、パレスというのも悪意や欲望を強調したものだと聞いた。ならばあそこで聞いた本音も歪められた出力がされていただけでそれ以外にもあるのではないか?
分からない、心というのはあまりにも複雑だ。理解したいのに考えれば考えるほど遠のいていく。最も身近であった人ですら、その根底は謎だらけだ。
「・・・俺も、心の底からは憎めません。間違いなく悪党であり許せない筈なのに・・・俺は、俺の心を知りたいのかもしれない。」
父であり、師であり、親であった男。子であり、弟子であり、家族であった自分。ぐちゃぐちゃに書き殴ったキャンバスのように混沌に入り交じり、真実が見えなくなっていく。これもまた、自分が未熟故だろうかと祐介は苦悩する。
それを見て惣治郎はナイスな髭を撫でながら余裕のある大人としての考えを答える。
「ま、若いうちは存分に迷って周りに頼ればいい。それに急がば回れっていうだろ。直ぐに出る答えじゃなくて遠回りしてこそ見れるものもあるさ。」
焦らず世間を知り見聞を深めろ、そう伝えると祐介も貴方ほどの人が言うのならばと納得の頷きを見せ、丁度カレーを食べ終え静かにコーヒーを味蕾を最大限稼働させ味わい尽くしながら飲み干すとカップをソーサーに戻し、深々と頭を下げた。
「・・・ええ、そうします。では、そろそろ・・・」
「あいよ、っとそうだ。ホントにいいのか?あの
礼儀の深い若者に気分を良くしていた惣治郎は最後にそう確認する。チラリと入口近くの壁に視線を移すとそこには新たな色が飾られていた。温かな陽光に照らされ、目を惹き付ける魅力で静かに煌めくそれを見て、祐介は笑みを浮かべて肯定する。
「寮で俺だけが抱えているのも、好奇の目に晒されるのも嫌でしょうから。何の変哲もない日々をほんの少しだけ彩る。母もきっと、同じ選択をするはずです。」
「・・・そうか、なら預かっといてやるよ」
無粋な事は言わない、いつか取りに来な、そうでなくても何時でも見に来いよと穏やかな顔で告げる惣治郎。その優しさに、また心が温まる。穏やかな気持ちのまま、祐介はドアへと手をかけた。
「お世話になりました。また来ます。」
「あいよ」
微笑む祐介に背を向けて手を振る惣治郎。最後までかっこいい大人としての背中を示した彼に最大限の敬意を抱きながら優しい朝日が照らす世界へと歩み出した。
尚、この後店の前で行われていた老集会に巻き込まれ、その美男子ぶりにおば様たちの心を鷲掴みにしおじ様達から目の敵にされ、なんだかんだ皆の似顔絵や集合絵を描いたことで全員に気に入られるという珍事があったとか無かったとか。
その日、四茶皆の孫が二人爆誕したとさ。
主人公が冤罪を受けた時期ってどんなもんなんですかね。服装から見て秋か冬辺りだと思うんですけど。冬だと長袖一枚は終わりがけでも寒いだろうし、なんかこう冤罪確定するまでの時間とか転校手続きとかなんやかんやを考えると秋終盤の10月とか11月とか?でもそれだと4ヶ月近く空くし・・・分からん。もしかしたらめちゃくちゃ寒さに強いタイプで1月でも長袖一枚で平気なタイプかもしれないしね。
結論 : 適当に脳内補完しとこう!!