転生艦足柄と提督の秘密   作:D1198

12 / 16
【お断り】
アイオワは、ミッドウェー開戦時では、まだ就役してません。
アメリカ側現場司令は、フィレッチャー少将です。
史実とは、異なる点があります。


華蝶乱舞作戦〈バタフライエフェクト〉

 那智〈わたし〉達の司令官が立案した華蝶乱舞計画は、五つの段階を持つ。

 

『第一段階、開戦を回避すること』

『第二段階、来たるべき日に備えて対空改装を行うこと』

『第三段階、ミッドウェー海戦において第五艦隊が独自に行動すること』

『第四段階、海兵隊の設立及び敵兵器の鹵獲』

『第五段階、未来史料の抹消』

 

 海軍内での周知が第二段階までと成っているのは、第五段階の史料の秘匿にある。

 それは何故か。

 ”敗北する筈の海戦を書き換えた”と言う事実を、世界の為政者が知ればどう思うか、山本長官と司令官は、それを懸念したのである。

 その判断は正しかった様だ。

 事実、仲間内ですら争う事態となってしまった。

 南雲中将は、テーブルに身を乗り出す程だ。

 

「説明して頂きたい。山本長官。アリューシャン攻略を任とする第五艦隊がなぜ命令に背きミッドウェーに来たのか」

 

 腕を組む山口少将は冷静に見えたが、その放つ空気は厳しかった。

 

「第五艦隊による強襲の結果は認めます。ですが、前例があるからと誰もが追従し始めては、統率に支障が出かねません。山本長官はご存じだったのですか?」

 

 士官室の片隅で控える大和は、沈黙を保っていたが不愉快さを滲ませていた。

 そして、それは私も同じだ。

 全く、お咎め覚悟での事だというのに、南雲中将も山口少将も困ったお方だ。

 沈黙を保つ山本長官に割り込んだのは、直立不動を保っていた司令官だった。

 

「私から説明します」

 

 南雲中将は不愉快さを隠さない。

 

「君には聞いておらん。下がっていたまえ」

「私の独断専行です」

「君は、その意味を分っているのか?」

「勿論です。ですが海軍軍人としての本分だと確信しております」

 

 山口少将は、ようやく司令官を見た。

 

「君が発案した華蝶乱舞計画は、航空戦力の充実を図る空対艦・艦対空に留まっていた筈だが……それが何故、こうなる」

「敵秘密兵器の情報を入手したのが理由です。なにぶん急だったので報告が遅れました。こちらをご覧下さい」

 

 司令官が取り出した書類には『マンハッタン計画』と題されていた。

 

「最新理論物理学に基づく新型の爆弾です。それは大量破壊を可能とする戦略級のシロモノです。それは、一発で万人単位の殺傷能力を持ちます。私は、この爆弾の鹵獲が最重要だと判断しました」

 

 南雲中将は、半信半疑だ。

 

「それが、なぜ独断専行となるのかね?」

「ミッドウェー島とハワイ諸島での拮抗状態は、鹵獲の布石になるからです。

 ご存じの通りアメリカの国力は日本の十倍です。

 守りに入れば時間に比例して分が悪くなる。

 かと言って、総力をもって攻めたとしても、泥沼化している大陸の二の舞になるでしょう。

 MI作戦通りにハワイを攻略した場合――」

 

 司令官は、伺うかの様に山本長官をチラとみた。

 ハワイ攻略は、元々は山本長官の発案なのだった。

 

「メイフラワー号に乗った彼らがアメリカ大陸を開拓し始めたのが一六二〇年、西海岸に到達したのは一八五〇年、未だ開拓者である彼らにとって、自負を持っている領土を奪われる事は、許容できないでしょう。

 つまり、攻め手も、受け手も、現状維持も、ジリ貧です。

 ならば、

 ここからは戦略つまり政治的な手段を執る必要があります」

 

 南雲中将は、理解し始めた様だ。

 

「その為の切り札がコレだと言うのか」

「はい」

 

 司令官は『華蝶乱舞計画第四段階』と題打った紙の束を、二人に差し出した。

 

「我々は拮抗状態の維持の為に、ミッドウェーに戦力を集中させる訳ですが、嫌が応にも脇が甘くなります。

 そこで、逆手を取って彼らにそこをつけ込ませる。

 考えられるルートは北方か南方のどちらかですが、合理主義者の彼らは、天候の悪い日が多い北方を、選ばないでしょう。

 また新型爆弾の運用には大型爆撃機のB29が必要です。

 これは空母での運用ができないので滑走路を陸に作る必要があります。

 日本からB29の作戦航続距離内にある南方の島で、滑走路を作る為の騒がしい土木工事を行う ――これだけ条件があれば割り出しは現実的です。

 なお現場指揮官ですが、栗林忠道中将の了解を、秘密裏に得ております」

 

 その発言は、計画書を読んでいた山口少将だ。

 

「拮抗状態は相手に新型爆弾を完成させる時間猶予にも、なるか」

「はい」

「素晴らしい。全く以て卒の無い作戦だ。理論物理学といい陸軍とのパイプといい、君の戦略眼には感服するより他は無い。だが ――卒が無さ過ぎる。海軍の一将校が短期間で為し得る作戦では無いな。例え山本長官の懐刀と言われる君だとしてもだ。どの様に、これらの情報を得た」

「それは――」

「率直に言わせて貰えば、君の説明は後付け感が抜けない」

 

 沈黙を破ったのは、山本長官だった。

 

「その辺で良いだろう。理由はどうあれ機動部隊を救ったのは確かだ。それ以上言えば我々の立場がなくなる」

 

 山本長官は、その場にいる将官達を、静かに睨み付けた。

 しばらくの沈黙の後、南雲中将は席を立った。

 

「少年提督の言う”華蝶乱舞作戦”の蝶は、航空機のみを指している訳では無さそうですな。我々は十七歳が立案した作戦の検討を行います。失礼」

 

 山本長官の次の言葉は、最後まで座って居た山口少将が、無言で立ち上がった時だ。

 

「我々の不始末をこの若者に押し付けた、それがまだ分ら無いのか」

 

 山口少将は、軍帽の収まりを整えていた手を、ピタリと止めた。

 南雲中将は、隠す事すら無く驚いていた。

 

「「「……」」」

 

 司令官は直立不動のまま山本長官の後ろで控えていたが、将官達は静かに睨み合っていた。

 この沈黙は、何度目だろうか。

 

「南雲中将。この若い提督の行いは認めなくては成りません」

「分っておる」

 

 沈黙には、多くの意思疎通があった様だが、残念ながらよく分らない。

 

 

◆◆

 

 

 パサリ、パサリ。

 その士官室には、テーブルに置かれた書類を、私たちが片付けている音のみが在った。

 それを破ったのは山本長官だ。

 直立不動と言って差し支えのないピンとした姿勢で、椅子に腰掛けていた。

 だが、

 自然体と感じないのは、膝の上に置いた握り拳に、軋み音を出しそうな程の力が、こもっていたからだ。

 事実その両目は、宙ではなく己を睨み付けている様にも見えた。

 

「列強の脅威に焦った我々は、」

「は?」

 

 司令官は、手を止めた。

 

「文民統制というシステムを取り入れそこない、軍部の暴走を許した。或いはこの行動も、お前の持ってきた歴史書の様に、軍部の暴走と評されるかもしれん。

 だが……広島四〇万、長崎二〇万、東京大空襲一〇万、累計三〇〇万。

 この惨事を知った以上、ただ見ている事は、我々にはいや私には許されんのだ。

 明治維新がせめて五〇年早ければ」

「気になさらないでください」

 

 司令官は、静かに笑っていた。

 はて、二人のこの温度差は何だろうか。

 

「私も得るものは得ますから」

 

 気がついたら、見つめられていた。

 体の収まりが悪いというか、地に足が付かないというか、急に落ち着かなくなった。

 涼しい顔をしてとんでもない事を言う司令官だ。

 私は、得るものだったらしい。

 

「では山本さん。俺は仕上げに戻ります。後はお願いします」

「……任せておけ」

 

 

「「「第五艦隊司令官官に敬礼!」」」

 

 部屋を出たら大勢の水兵らに迎えられた。

 十代提督という大出世への、辛らつな言葉と実力行使、我慢してきたこれらがようやく報われたのだ。

 司令官は、敬礼で返した。

 

「長かったな司令官」

「あぁ」

 

 私は赤城のエレベーターから身を投げると、海水面にある艤装を装備した。

 

「いいぞ」

 

 私の後に続く様に身を投げた司令官は、落ちきる前に、途中で姿を消した。

 

――全ての光景が反転する――

 

 私の周囲にあるのは、分身である重巡那智の艦橋だ。

 司令官は、那智〈わたし〉の艦橋にある椅子にドサリと腰掛けた。

 

「山口少将は流石に手強いな。山本さんの援護がなかったら、どうなってたか」

 

 艦橋の窓からは、船型赤城から微速で離れる船型大和を見る事が出来た。

 見えはしないが大和の中には、その山本長官が居る筈だ。

 恥ずべき事だが、私は少々感傷的になっているらしい。

 

「まったく。山本長官にも困ったモノだ」

「困った? 何故? ちゃんとフォローして貰っただろ」

「”私の”司令官に汚れ役をさせているのだからな」

「山本長官には戦後政治家となって戦後処理を率いて貰う。その為には、経歴に傷があっては困る。そう話したろ」

 

 気づかない、か。

 流石に遠回しすぎたか。

 

「戦後……戦争が終わったら我々はどうなるのだろうな」

「浮かれていないだろうな。それは、史実に於けるミッドウェー敗北の一因だぞ」

「未来を語るぐらい良いではないか。思えば、司令官とは堅苦しい話以外覚えが無い」

 

 司令官は、艦橋の窓越しに広がる夜の海を見ていた。

 まるで、吸い込まれる様な暗闇の中にある道標を、見つめ直しているかの様だ。

 

「――皆は予備役になる」

「予備役?」

「好きに生きて良い。有事の際はその限りではないだろうが、有事中に心配する事では無いから」

「好きにと言われても、困るな。正直なところ思い付かない」

「ニュースキャスターなんかどうだ。直にテレビが普及し始めるから、タイミング的には良い」

 

「司令官はどうする」

「俺は最後まで責務を貫く積もりだ」

「鎮守府が職場でも家は持てるのだろ?」

「何の事だ?」

「こちらの話だ」

 

 司令官の真意を知れば頑固な足柄も折れよう。

 羽黒は喜ぶはずだ。

 妙高〈あねうえ〉は、意思確認が必要だが、嫌とは言わないだろう。

 姉妹と共に静かに暮らす日々、か ――悪くないな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。