転生艦足柄と提督の秘密   作:D1198

14 / 16
艦娘、三艦寄ればカシマしい

 旗艦たる鹿島〈わたし〉の第四艦隊は、南方海域の海上交通維持を任としている。

 

「魚雷接近! 目測三! 足柄より全艦へ! 我、敵潜水艦を発見す! きゃ! 痛いじゃない!」

 

 東南アジアから南方諸島に至る担当海域は広大で、常々戦力不足に悩まされてきた。

 幾度となく繰り返した増援要請は、中々受け入れられなかったのだ。

 やっと来たと思えば、足柄だった。

 それからと言うもの、気の休まる日が無くなってしまった。

 何故かというと。

 

「私に魚雷を撃っておいて逃げられると思ったのかしら! 第一・第三砲塔回せ! 方位角修正プラス四! 仰角修正……"マイナス"一〇度! 撃ぇー!!!」

 

 足柄が全て倒してしまうからである。

 助かるのだけれど、頼もしいのだけれど、隊の練度不足は困るのだ。

 

「撃ぇー! 撃ぇー! 撃ぇー!!!」

 

 足柄の“単”装砲から撃ち出されたズングリした砲弾は、それなりな飛沫と共に海面にめり込み、そして程なくして爆発した。

 海面が盛り上がると、噴火の様な水柱が立った。

 海面が落ち着く前に現れたのは、敵潜水艦である。

 隠密活動が前提の潜水艦が浮上する事の意味は、投降だ。

 形から英のT級の様だけれど、足柄の嬉しそうなこと。

 

「当然の結果よね! 大勝利!」

 

 潜水艦の魚雷発射深度は艦種にも因るが大凡二〇メートルなので、指定の深度で爆発するようにセットしておく。

 潜望鏡を見つけたら、そこに向けて砲撃をする。

 砲弾だから魚雷と違って潜行する時間余裕は無い。

 直撃せずとも至近距離の爆発は、気密力を喪失させるには十分だ。

 足柄ご自慢の新兵器らしい。

 

「この橋渡るべからず? だったら真ん中通れば良いって寸法よ!」

「作ったのは明石じゃなかった?」

「失敬ね。発想が最初であり全てなんだから」

 

 敵潜水艦のハッチが、パカリと開いた。

 出てきたのは風格漂う艦長さんだ。

 歴戦の海の男が、少々といえども戸惑っているのは、艦娘〈わたし〉達とのファーストコンタクトだからだろう。

 ここは旗艦らしく奮わねば、と思ったが私は英語を話せなかった。

 なので足柄に譲った。

 

『はぁーい♪ 英国海軍〈ロイヤルネイビー〉のオジサマ方。私は日本海軍第四艦隊所属 重巡足柄です♪ こちらのあざといのが旗艦鹿島。非常に申し上げにくいのですが、あなた様方は捕虜になりました。なので、このまま最寄りの基地まで連れて行きます。で、す、が。大人しくしてて下さいね♪ 待遇が悪いとか言って暴れたら即座に海の藻屑にしますからぁ♪ どちらかというとぉー、藻屑の口実ができるからぁー、私としてはありがたいのですけれどぉーー』

 

 曲げた膝に両手をおいて前屈み。

 私に背を向ける足柄はどの様な顔をしているのだろう。

 素敵なオジサマが少し引いている。

 

「ねぇ、足柄。ひょっとして、品性に問題あるコト言ってない?」

「あちらじゃひっどい目にあわされたからこれ位いいのよ!」

「あちら?」

「こちらの話」

「提督さんとの話?」

 

 私がそう言うやいなや、足柄の挑発的表情が瞬く間に陰った。

 これは重傷だわ。

 泣くのを堪える女の子みたい。

 

「あの人の話は止めて」

「いい加減に素直になるべきだと思うけど」

 

「なによ。如月を沈ませたと知った時は、鹿島だって怒ってたのに」

「足柄が余りにも怒るから、冷静になっちゃった」

 

「私をお呼びかしら?」

「「え?」」

 

 黒く長い髪に、紫の髪飾り。

 駆逐艦には貴重なおっとりお嬢様型。

 間違えたくても間違えられない如月が、直ぐそこに立っていたのである。

 足柄の顔は引きつっていた。

 

「だから如月がー」

「ええ。如月〈わたし〉ならここに居ます」

 

 私のも引きつっているだろう。

 なぜなら、沈んだ筈の艦娘が現れるなんて、幽霊以外あり得ない。

 

「「で、でたーーーーーっ!」」

 

 南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏!

 

「か、鹿島! 出た! お化けが出た!」

「いちいち言わなくても見れば分るわよ!」

 

「きゃーーっ!」

「きゃーーっ!」

「きゃーーっ!」

 

「練習艦だったら何とかしなさいよ!」

「足柄だって重巡でしょう!?」

 

「きゃーーっ!」

「きゃーーっ!」

「きゃーーっ!」

 

「そうだ! 塩! 鹿島塩! 塩には清めの効果があるわ!」

「なるほど! って塩なんて無い!」

「塩なら輸送船団にありますわ!」

 

「きゃーーっ!」

「きゃーーっ!」

「きゃーーっ!」

 

「輸送船団なんて何所にあるのよ! 初耳よ!」

「私だって知らないんだから!」

「ここが集合ポイントですから直に到着します!」

 

 ピュルリと風が吹いたら、静かになった。

 

「「「……」」」

 

 私の後ろには如月が居て、如月の後ろには足柄が居て、足柄の後ろには私が居た。

 私たちは、同じ所をグルグル回っていたらしい。

 その様を思い浮かべれば悲しい限りだが、この如月お化けは何かが変だ。

 

「ウェーク島の戦いで沈没したならしたで早く成仏しなさい! 海難法師なんて冗談じゃ無いわ!」

 

 涙目でビシリビシリと何度も指を指す足柄は、まだ変に気づいていないらしい。

 

「アレは偽装なのよ! 偽装! 私は死んでませんから!」

「騙そうったってそうはいかないわ! 撃つわよ! 撃つからね!」

 

 足柄の砲塔がグルリと回った。

 重巡だけあって威圧は十分である。

 

「やーめーてーっ! 偽装装備〈ハリボテ〉を使って沈んだように見せかけたのよ! この足を見なさい! この足!」

 

 確かに、この如月には足があった。

 幽霊には足が無い筈だ。

 なら如月は、幽霊では無い。

 この推理に自信が無いし、足柄もフリーズしてるので、私が恐る恐る聞いてみた。

 

「本当?」

「本当!」

「だったら、どうして突然消えたりしたの。皆悲しんだのに」

「暫く静かにしてろって言われたからです」

「誰に?」

「提督に」

 

 そう言う事か。

 あの人は、本当に、もぅ……。

 

『おい! あれ!』

 

 歓声が聞こえた。

 それは輸送船団に乗っていた人々のモノだった。

 

『あれが艦娘か!? 俺始めて見た!』

『すっげー! 本当に海面に立ってる!』

『おーい! おーい!』

 

 私は手を振って応えた。

 その輸送船団は大規模なモノで、軍人から一般人まで多くの人を見る事が出来た。

 どうやら戦況が変わっているらしい。

 

「如月の任務は?」

「本国までの護衛です。撤退命令が出ましたの」

 

 偽装の意味が理解出来ず立ち尽くしていた足柄も、陽気に手を振り始めた。

 

「話ぐらい聞いてあげる、そう思っただけ」

「そうね。それが良いわ。ふふっ♪」

「あの。話が見えないのですが」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。