転生艦足柄と提督の秘密   作:D1198

16 / 16
受け継いだもの(最終話)

「世界の皆さん、こんにちは。日本海軍 第五艦隊 旗艦 足柄です。

 ベトナムのハイフォンを出航した私達は、南シナ海の西沙諸島から東へ三一海里〈五〇キロ〉の沖を、針路〇四五度方向つまり佐世保鎮守府に向かって航行中です。

 ご覧ください。空は青、海も青。のんびりと浮かぶ白い雲が無かったら、どこまでが海かどこからが空か、分からない程です。

 この広い大海原が私達艦娘の仕事場で、各国の大動脈であるシーレーンの治安維持に当たっています。かつてこの海域でも多発した海賊事件は、各国の経済が発展するにつれて減少していますが、まだまだ油断はできま――」

「ハァイ、アシガラ。東京オリンピック〈一九六四〉のリポーターは無事に務まりそうね!」

 

 

 

 

 

受け継いだもの

 

 

 

 

 

 くるりと海面で回れ右した私が見るのは、同じく海面に立つアイオワである。

 邪魔をするな・あっちに行け、と言う意図を籠めた苦々しい笑顔を向けてみたが、彼女はニコニコとした笑顔を絶やさない。

 なので強めにこう言ってみた。

 

「ええ、そうなの。だから邪魔をしないで頂けるかしら」

「No problem. アシガラはスイッチが入ると暴走するから私が協力するわ!」

 

 アイオワは、手に持つフォークを器用に使って、ベトナム名物である麺〈フォー〉を、実に美味しそうに食べていた。協力とはフォーを食べさせられる事か、それとも邪魔をする事か。

 戦争はとうの昔に終わったのだから、今更蒸し返すつもりは無いけれど、直接戦火を交えたアメリカの艦娘が相棒とは、世の中は優しくない。私のストレス的な意味で。

 あちらもあちらで、以下同文。

 

「もう一度言ってご覧なさいビスマルク! 妄言を二度と口に出来ない様、そのジャガイモ臭い口に砲弾を撃ち込んであげますから!」

「良いわね! 今まで見た中で一番いい顔だわ! ウォースパイト! 凋落国家に飲まされる煮え湯など物の数に入らないと言ったのよ!」

「「アシガラ! この艦娘〈おんな〉を何とかして!」」

「思う存分はき出しなさい。でも砲撃戦は駄目よ。戦時と違って、一発撃つだけでネチネチ言われるんだから。したら最新鋭の対艦ミサイルを撃ち込むわ」

 

 対艦ミサイルの方が非常に高価なのだが、それはそれだ。

 

「That will be great!」

「Danke!」

「Wow! あの二人はいつも仲良しね♪」

 

 イギリスとドイツは何時もの様に喧嘩を始め、アメリカはお構いなしにマイペースだ。

 どうして、こうなったのだろう。

 私は、左手の薬指にある指輪をそっと撫でた。

 

 

 この起こりは、アメリカと日本が講和条約を結んだ今から二〇年前に遡る。

 当時、組織されたばかりの国際連合の会議で、日本は艦娘の存在を明かす様に強く求められたのだ。

 私たち艦娘はミッドウェーで米軍の度肝を抜いたのだから当然と言えば当然だが、その結果として艦娘は全世界に知られる事になった。

 様々な懸念があったが、えーと、何というか、私にとっても予想外だったのだが、世界レベルで人気者になった。俗に言えば、艦娘は芸能人〈アイドル〉になったのである。

 

 アメリカで人気なのは、武蔵と愛宕だ。大きいのが好きだから仕方がない。

 フランスは夕立と那珂と時津風だ。三人が思いつきで開いたコンサートは、異様な盛り上がりになったらしい。ボーカルの那珂をセンターにして、夕立と時津風は舞台中を飛び跳ねた。クールジャパン?

 イタリアは榛名と扶桑だ。陸奥系かと思えば意外である。ヴァチカンのお膝元だからかしらね。

 ドイツは蒼龍と伊勢だ。質実剛健と言いたいのだが、大きいのが地味に気になる。

 ロシアは那智姉さんと隼鷹だ。恐らくお酒。

 日本を初めとするアジア勢は駆逐艦が多い。陽炎型よりも吹雪型、吹雪型よりも夕雲型。一番人気は暁型と朝潮型だ。もうやだこの国々。

 極めつけはイギリスである。親善訪問していた翔鶴に、皇太子様が突然求婚して大騒ぎになった。阻止しようとした瑞鶴が暴れて、更に大変になったりもした。

 今にして思えば思い当たる節はあるのだが、艦娘は男の人にとって非常に魅力的に見えるらしい。

 これらに危機感を抱いたのは、各国の為政者だ。

 

『『『他国の艦艇を持て囃すなどけしからん』』』

 

 アイオワとビスマルクとウォースパイトが、試験運用という名目で、南方海域での治安維持を任とする我が第五艦隊に居るのは、そう言う理由である。

 それは良いのだが、何故第五艦隊なのだろう。

 序でに言えば、この編成は誰がしたのだ。

 ウォースパイトとビスマルクの遺恨は未だ酷くて「Fire! Fire!! Fire!!!」許可しておいてなんだけれども「Feuer! Feuer!! Feuer!!!」こうも頻繁だと目眩がする。

 撃つなって言ったのに。

 

「もう良いわよね? 練習を続けるから」

 

 旗艦の苦労、戦艦知らず。

 アイオワはやっぱりニコニコしていた。

 

「チチチ。本題はここからよ」

 

 指を指揮棒の様に振るそのジェスチャーは、とても苛立つわ。

 

「南沙諸島の一つで人らしき複数の影を見つけたんだけど、どうする?」

「島の住人じゃなくて?」

「記録では無人の筈だけれど」

 

 ふむと考えた。遭難者なら海の掟に従い助けねばならないだろう。そうでなくてもこの海域を預かる者として調査は必要である。距離も目と鼻の先ならば、直に調査するのが適当だ。

 

「とにかく調べましょ」

「OK! Boss!」

 

 英独艦はドゴンドゴンと未だ撃ち合っていたので、一言だけ告げて置いて行く事にした。

 

 

◆◆

 

 

 目的地までズズズと一〇ノット航進していたら、併走するアイオワが、私を伺う様に回り込んだ。

 

「ネェ、アシガラ。その指輪のこと、そろそろ教えてくれない?」

 

 興味津々、瞳は爛々。それでいて夢見がちだ。

 

「しつこいわねぇ。何度目?」

「だって。ヒトと結婚するって、とても不思議〈アメイジング〉で神秘的〈ミステリアス〉に思うの!」

 

 英独は居ないから、まぁいいか。

 

「どんな人? 今どこに居るの? どうして公表しないの?」

「終戦からずっと同じ場所に居るからよ」

「終戦からずっと?」

「都内の神社で眠ってる」

 

「眠っている?」

「アイオワ達にとって仇敵なヒトで、アイオワ達が躍起になって探した人の、唯一の遺品」

「ミッドウェーで第五艦隊を指揮した――」

「そう。あの人」

 

 戦後アメリカは、第五艦隊司令官の痕跡を執拗に探し続けた。

 ミッドウェーでの奇襲・レーダーの単独開発・核情報の入手、如何に優秀とは言え一〇代のなしえる事では無い。かつて山口少将が指摘した通り彼は異質すぎたのだ。

 だが、処刑されてしまっていたならば全ては闇の中だ。

 山本提督すらあずかり知らぬ独断行動、遺留品は一切無し、これが彼が立てた華蝶乱舞作戦の筋書きだ。

 そんな中で、唯一残ったモノがこの指輪だった。

 

 那智姉さんから譲り受けるのに十年、私が実際に指に付けるまで更に十年掛かった。

 実を言えば、この指輪を身につける資格が、私にあるのか自信が無い。

 どうすればあの人に報いる事が出来るのか。

 船も、船乗りと運命を共にするべきでは無いのか。

 そう何度も考えたけれど、それではあの人の願いをふいにしてしまう。

 思い切りだけはあると思ったのだけれど、我ながら呆れる。

 

「ごめんね。アイオワ。余り楽しい話じゃ無いのよ」

 

 だと言うのに、天気だけは腹の立つ程に良い。

 

「アシガラ」

「なに? ――うぷっ!」

 

 突然抱きしめられた。

 と言うよりは胸に顔を埋めさせられた。

 おっぱいが凶器ってこう言う意味!?

 

「I'm sorry. Thank you. A men. Good luck……どんな言葉もアシガラの傷ついた心を癒やす事は出来ない。けれど願わくば、時がアシガラに幸せな思い出のみを残し、それ以上の幸せを運ばん事を」

「わかった! わかったから! I'm Happy! So Happy!」

「Really?」

「リアリィーーーッ!」

「Good!」

 

 く、くるしいいいい!!!!

 

「ぜーぜー、はーはー」

 

 天国で手招きしてるゴッドが見えたわよ。

 来るかと聞かれたので、ふざけんなって答えてやったけれど……そうか、拒否したのか、私は。

 

『Feuer! Feuer!! Feuer!!!』

『Fire! Fire!! Fire!!!』

 

 無線越しでも悪いと分るビスマルクとウォースパイトの仲だが、際どいところでちゃんと加減をしているし。

 

「Oh, great! 賑やかでいいわねぇ!」

 

 アイオワはかつての敵にも分け隔て無い。

 仕方が無いか。

 旅は道連れ世は情け、袖振り合うも多生の縁、とも言うし。

 振るのは袖じゃなくて砲塔だが、どうやら私の航海はまだ――

 

「……Hey。これ」

 

 アイオワが見つけた海域に、やってきた私たちを待ち受けていたモノは、予想を超えるモノだった。

 

「ええ、大きいわね」

 

 地図通りに在る島は、地図と異なり大きかった。

 陸と海の境は絶壁部分が多かったが、砂浜も多少はある様だった。

 砲台などの軍事施設は見当たらなかったが、港という人工物は備えていた。

 

「極秘裏に埋め立てた、それ以外に考えられないけれど。アイオワはどう思う?」

「俄には信じられないけれど、アシガラに同意する」

「なんてこと。私の担当海域〈にわ〉で、勝手に島を作るなんて言い度胸してるじゃない」

「それで、どうするの?」

「本国に連絡して追加調査を――」

 

――未確認航行体発見!――

 

 陰ったと思う間もなく、太陽は消え失せた。

 海風は墓場の様に生暖かくなった。

 盛り上がった海面は羊膜のように裂けた。

 現れたのは異形の人型たちだった。

 

 一体、また一体。

 次々と深海から産まれていった。

 どれもなにも、禍々しかった。

 その様な中に在って、特に大きな気配が在った。

 

 黒いワンピースドレス、陶器の様な無機質な白い肌。

 額で別れる長い黒髪の間からは、赤く光る双眸と二つのツノが、その存在を誇示していた。

 その姿は、妖艶と呼ぶのが相応しい。

 

『Kaaaah!』

 

 それは突然、牙を剥いた。

 何海里と離れているのに目が合った。

 一目見て分った。

 こいつらは敵だ。

 私たちの。

 そして、人々の。

 また、戦争が始まる。

 

 飛翔音が鳴ったと思ったら飛沫が飛んだ。

 どうやらアレは戦艦級らしいが、挨拶替わりの砲撃なんてやってくれるじゃない。

 

「アシガラ、指示を」

 

 アイオワは先程までの陽気さを消し去っていた。

 飛び掛からんばかりの前傾姿勢は、臨戦態勢だ。

 はは。

 かつて散々手を焼かされた敵が、これほど頼もしいとは思わなかった。

 

「ビスマルク、この銘を覚えておきなさい。あの世への手土産になるから」

 

 軍帽の鍔を摘まむビスマルクは、涼しげだ。

 

「不愉快です。その姿は不愉快極まりない」

 

 長い髪を背に凪がすウォースパイトは、優雅だ。

 ビスマルクとウォースパイトも、いつの間にか戦列に加わっていた。

 だが二人の、皆の決意溢れる眼差しは私と同じ物だ。

 そうか。

 私たちは、今、想いを一つにしている。

 ならば、私がすべき事はただ一つだ。

 

「未確認敵性体を深海棲艦と呼称。本国に通達。『ワレ敵と交戦ス』第二戦闘速度。総員配置につけ」

 

 この世が調和的でないことぐらいは分っている。

 どの国も叩けば埃が出るならば、勝ったモノ勝ちになるのは当然だ。

 この世の中に聞き心地の良い正義は無い。

 だが、それでも生きなければならない人々は、戦いの傷を癒やそうと必死だ。

 その邪魔はさせない。

 ここからは、私たちが闘う。

 守る為に傷つけ合う、その矛盾は艦娘〈わたしたち〉が、背負う。

 それが、彼に助けられて、彼から命を受け継いだ私たちの務めだ。

 

――戦闘準備良シ!――

 

 指にある指輪が燃えるように熱い。

 あれほど重かったのが嘘の様だ ――そうね。

 うん、そうする。

 やる事が出来たから、私はまだこっちで頑張るわ。

 

「撃ち方 ――始め!」

 

 

 

 

 




お付き合いありがとうございました。

また、引き続き外伝を投稿します。
よろしければそちらもどうぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。