転生艦足柄と提督の秘密   作:D1198

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提督は17歳

 ちゃぷ。

 これは慣れ親しんだ水の音だ。

 目を開けなくても分るのは、私が船だからだ。

 

『――。』

 

 風は優しく、穏やかな凪の日らしい。

 暖かい日の光もあった。

 きっと、雲一つ無いに違いない。

 こんな海を、軽く巡航〈はしった〉ら、とても気持ちが良いだろう。

 

『――ら』

 

 大海原に描かれる曳き波は、遠く遠く、水平線の彼方にまで届くのだ。

 

『―がら』

 

 私の艦名〈なまえ〉を呼ぶ声で、ゆっくり目を開けると顔が三つ並んでいた。

 妙高・那智・羽黒 ――私の姉妹艦だ。

 

『―しがら』

 

 でもどうしたことだろう。

 妙高は深刻そうな顔をしている。

 羽黒など泣きそうだ。

 でも、那智が私の目の前で手の平を振っているのは、何故だろうか。

 挨拶と言うよりは、診断の様に見える。

 ……目を開ければ?

 あれ?

 姉妹艦が~しそうな顔?

 あら?

 艦艇に、顔? ……ちょっと待って。

 そもそも、那智姉さんと羽黒は沈んだ筈……

 

《お主の願いを叶えてやろう》

 

 って事は――突然暗くなったのは、那智が右手を高々と掲げているからである。

 何なのだろうか、その自信満々な顔は。

 まるで、壊れたおもちゃも叩けば直ると言わんばかりでは無いか。

 何なのだろうか。

 敬礼の亜種かと思えば、どう見ても手刀の打ち下ろしではないか。

 

「ちょ、まっ!」

 

 制止を促す私の声は、残念ながらほんの少しだけ遅かった。

 

「斜め四五度チョップ!」

「きゃーーーっ!」

 

 パッコーンという腹が立つ程心地よい音は、空と海の狭間に消えた。

 

 

 巨大な貨物を吊したりするガントリークレーン。

 船が接岸する為の岸壁・桟橋。

 姉妹らに連れられて歩くその場所は、見慣れた軍港だ。

 なのに違和を感じるのは、見慣れない大勢の陰陽師たちが居るからだ。

 木製の巨大な鳥居があれば、神社の雰囲気すら合った。

 

「いや、お疲れ様です。三度目の正直と言いますが大型艦は難しいですか?」

「金剛は素直でしたが、この船は実に手強かったですな」

 

 白い軍服を着た将校が、年老いた陰陽師をねぎらっていた。

 どういう事だろうか。

 

「もう駄目かと思ったわ。余り心配させないでね」

 

 軽く振り返りながら言うのは、長女らしく先頭を行く妙高姉さんだ。

 

「足柄は、二度艦娘への儀式に失敗している。羽黒より遅いのは、その為だ。三度目で駄目なら、中止に成る予定だった」

 

 私の右隣を歩く那智姉さんは、見るからに厳しそうだ。

 失敗……神の影響だろう。

 他に考えられないし。

 

「足柄姉さんは、人の体に戸惑いがないんですね。羽黒はビックリしました」

 

 最後は羽黒だ。

 控えめに一番最後を歩いていた。

 

「(そりゃぁ、経験済みだなんて、言えないし)」

「ごめんなさい。今なんて?」

「あ、ごめん。なんでもないのよ羽黒ちゃん」

「やっと会えたかと思えば、まだ寝ぼけているのか。この調子ではさい先不安だな」

「那智姉さんに叩かれた頭が痛いのよ」

 

 頭が痛いとは、妙な感じだ。

 

「ほう。そうか、そうか。姉のせいにする不誠実な妹はしっかり指導しないといけないな」

「皆。姉妹喧嘩は駄目よ」

「一番怖いのは妙高姉さんですよ」

「足柄も妙高〈あねうえ〉だけは怒らせるなよ」

「二人とも?」

「「なんでもありません」」

 

 穏やかな空気があった。

 鋼の船型だった頃には、無かった感覚だ。

 だが、人型に成るなんて良い事なのだろうか……いや、人型だろうと船型だろうと関係ない。

 開戦までにパワーアップして今度こそ勝利を!

 あんな結末なんて認めない!

 

 

「無事に妙高型が揃った様だな」

 

 その声は突然だった。

 将校が立っていた事に気づかなかったのは、思いにふけっていたからだろうが、戸惑ったのは、その姿が余りにもらしくなかったからだ。

 色白で、華奢、まるで女の子の様だ。

 年齢は……二〇代半ばだろうか。

 姉妹達が敬礼をしたので、私も流される様にしてしまった。

 うわ、目が合った。

 

「折角の再会に水を差す様で悪いが、これから軍令部に向かう。妙高と羽黒は足柄を案内してやれ。那智は同行しろ」

「かしこまりました」

「はい」

「ふむ。司令官の命では仕方ない」

 

 十分後に正門でと、逢い引きの約束の様な言葉を残して、その将校は去って行った。

 あんな人居たっけ?

 

「私たちの提督よ。少し前に着任されたの。若くして抜擢された逸材と言う話よ」

 

 妙高姉さんは、気が利くわね。

 疑問に気づいてくれるなんて、流石一番艦。

 

「それだけ優秀って事なんですよ」

 

 はて。

 羽黒ちゃんは、どこか誇らしげだ。

 

「羽黒は、あの少年提督の肩を持つのだな。ああいうのが良いのか」

 

 対する那智姉さんの物言いは、悪戯めいていた。

 

「え、や、やだ! 変な事を言わないでください!」

「だと良いがな」

「そう言う那智も、何時の頃からか提督に親身よね」

「冗談は困ります。海軍軍人たるもの、屈強で精悍でなくては――」

 

 賑やかな姉妹達をよそに、私は、徐々に小さくなる彼の後ろ姿から目を離せなかった。

 

「那智姉さん。随分若い様だけれど、あの提督は何歳なの?」

「十七歳だ」

「じゅうななっ!?」

 

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