転生艦足柄と提督の秘密   作:D1198

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慣れないコト

 広さの割に圧迫感があるこの部屋で、姉妹達は手慣れた様に鉄製の箱〈ロッカー〉を開けた。

 頭の奥を刺激する妙な匂いは、姉妹達や艦娘の香りが混ざった匂いだった。

 人はこの部屋を艦娘〈じょし〉更衣室と言うらしい。

 内密の話を姉妹達に持ちかけたところ、案内された場所がこの部屋だったのである。

 妙高姉さんは、黒いベルトを緩め、ジャケットのボタンを外し始めていた。

 目が合った。

 

「着替えの仕方は分る?」

「楽勝」

 

 私は、壁に取り付けてある大きな鏡の前に、興味本位で立ってみた。

 上から順に、青紫色がジャケット・黒色がタイトスカート・白色がストッキングと言うらしい。

 艤装を取り外したその姿は、商社の会社員に見える。

 今の装備〈ふく〉から、汚れても良い動きやすいタイプに換装を行う訳なのだが、当然の事ながら初めてだ。

 

「えーと、腰に巻いてあるベルトの金属部分を外して……あら? 外れない」

「こうするんですよ」

 

 羽黒ちゃんは気が利くわね。

 お手本を真似たら、間もなくカチと音を立て留め具が開いた。

 

「外れたわ!」

「はい。おめでとう御座います」

 

 何故だろうか、少し恥ずかしい。

 つづけて、ジャケットを脱ぎ、タイトスカートのジッパーを下ろす……あら? 腰に引っかかって、スカートが抜けない。

 参考にさせて貰おうと羽黒〈いもうと〉の姿を見たら、妙な物に気がついた。

 

「ねぇ、羽黒ちゃん。ブラウスの下にあるピンク色でヒラヒラした装備は何?」

 

 頬を染めながら、後ろ手でブラウスの裾を引っ張り、その装備を隠す仕草は可愛らしい。

 

「これは下着です」

「下着?」

「最初に取り付ける衣類です。ショーツって言うんです」

「ふぅん」

 

 妙高姉さんは、華やかな刺繍をあしらった白だ。

 那智姉さんは、飾りっ気の無いシンプルなグレーだった。

 

「私にも付いてるの?」

「その筈です」

「何というか、手間が掛かるわね」

「それが良いんですよ」

「理解できないわー」

 

 船体の整備だと思えば、なんと言う事は無いのだが。

 

「それで話というのは何?」

 

 妙高姉さんは、既に着替え終わっていた。

 さすが長女。

 

「その事なんだけれど、どう考えてもオカシイわ。絶っ対なにか裏があるのよ」

「何の事?」

「提督よ、あの提督。提督って言ったら、艦艇がまとまる戦隊を、更にまとめる艦隊において、一番エライって事よ? 十代なんてあり得ない!」

 

 どう考えても妙なのだ、不可解なのだ、怪しいと言っても過言では無い。

 ところが、妙高と記されたロッカーの扉は、キィという金属の軋む音を立てるのみだ。

 なぜ困惑するのだろうか。

 結論などわかりきっているというのに。

 

「那智姉さんもそう思うわよね?!」

「その辺にしておけ」

「にゃんで!? 精悍で屈強であるべきって!?」

「上官批判は、士気に関わる」

「うぐ」

 

 運動しやすい格好に着替えていた那智姉さんは、側頭部で結った長い髪を、シャツの中から引き抜いた。

 その滑らかな髪の動きは、済んだ事を蒸し返すなと言わんばかりだ。

 

「私たちの指揮を執る提督が、少年だと知らされた時は、ちょっとした騒動になった」

「そうどう?」

「皆も、足柄と同じように、考えた」

 

 那智姉さんから聞くところによると、少年提督への接し方に関して、艦娘達は、三つの派閥に別れた。

 一つは、提督として敬う派である。ここは戦艦・空母など大型艦が多い。

 二つは、敬うかどうかはおいておいて取りあえず受け入れる派だ。ここは重巡・軽巡……様々な艦娘で構成される最大派閥となっている。

 三つは、隙あらば追い出す派だ。駆逐艦が多い。

 

 あー、良かった。そりゃそうよねー。このクズ! って浮かぶ様だわ。霞ってば頼もしー

 

「そうならそうと……だった?」

 

 継いだのは、妙高姉さんだった。

 

「あの提督はどこから来たと思う?」

「それは勿論、海軍兵学校?」

「軍令部」

「うぇっ!?」

 

 海軍は、海軍省と軍令部で構成されている。

 簡単に言うと、人事を行うのが海軍省、作戦を行うのが軍令部だ。

 妙高姉さんの言う事が事実ならば、あの提督の着任は、組織の垣根を越えている事になる。

 

「つまり、及びも付かない高位の意思が動いている、と言う事よ」

「でも、」

「あの提督は、それだけの人物と言う事。証拠無く不服を訴えても、良くて門前払い。下手をすれば上官侮辱罪。最悪の場合は、反逆罪で軍法会議にかけられる。足柄だけ船型に戻されるなんて、私は嫌よ。だから少し落ち着きなさい」

「(証拠、証拠か……)あら?」

 

 白い襟付きブラウスの隙間から、羽黒ちゃんが言うところのブラに、二つの膨らみが収まって居るのが見えたのである。

 なんだろ、あれ……あ、あー、アレだ。

 

《おっぱいじゃ》

 

 う、嫌なことを思い出してしまった。

 

「黒のレース……足柄姉さん……すごい”大人”っぽい」

「そうなの?」

「……」

 

 我が妹の視線が痛いのは、何故だろうか。

 ”見た目相応”で十分に可愛いのに。

 

 確認序でに全部脱いでみた。

 うなじ・首筋・鎖骨・胸元・おへそ・下腹部・ふともも・ふくらはぎ・足先。

 姿見に映る私の体は、流線形の船体を、確かに連想させる。

 だが、柔らかで華奢で、どうみても海戦に向いていない。

 

「ふむ」

 

 右手で髪を掻き上げて、左手は腰に置いて、ポーズも取ってみた。

 呼吸に合わせて、二つの膨らみが、ツンと弾ける様に揺れた。

 妙高型では一番大きい様だが、高雄型には一回り以上負けてる。

 なぜかしら、少し悔しい。

 

「あ・し・が・ら」

「何? 妙高姉さん」

「早く服を着なさい」

「いいじゃない。こんなモノ」

「言っておくけれど、殿方に見せては駄目よ。惑わしてしまうから」

「これが? ふぅん」

 

 惑わしたら馬脚を現すかしら、あの提督。

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