転生艦足柄と提督の秘密   作:D1198

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水着で改装

 私は走った。

 石畳の道、芝生の上、鎮守府の中を、力の限り駆け抜けた。

 足りない。

 攻撃力が足りない。

 私の直感が、あの提督相手では足りないと告げている。

 足りなければ、持って来るのみだ。

 つまりは改装である。

 重巡を上回る存在と言えば、ただ一つ。

 

 

 ドックに通じるハッチを開ければ、肌色率が大きい姿の隼鷹と出くわした。

 目が合った。

 

「私たちのスタイルならこの位がベストね。隼鷹もそう思うわない?」

「意外と私、やるからねぇ」

 

 何のこれしき。

 まだまだ二回目だ。

 隣のドックのハッチを開けたら、そう言う姿の潮が立っていた。

 

「駆逐艦でコレ? アリエナイわ……」

「すみません・……あまり、こちらを見ないで……」

 

 げんなりしつつも三回目。

 

「多摩って意外と……あるのね」

「ありがとにゃ。この白を使った迷彩、気に入ってるにゃ。にゃぁ……」

 

 疲労感を吹き飛ばす四回目。

 

「そうよね! 高雄型は、摩耶は、こうじゃ無いとね! 最早安心感すら有るわ!」

「当ったり前だろ? あたしは摩耶様だぜ?」

 

 そろそろ正解が欲しい五回目よ!

 

「さー、そろそろ今年も夏が来るでぇ~。うちもいつか、イケてる水着で砂浜ブイブイいわしちゃるで~、見とけよぉ~!」

「どこ! 大きいのはどこよ!?」

「あっかーん!ちょっちピンチすぎやー!」

「これだけ探してるのに! もう! 全く見つからないってどういう事よ!」

「って、そこの新入り重巡! うちはここにおるやないか! 軽とは言えこの龍驤は空母やで! なにが不満なん……あ、こらぁ!」

 

 やってきたのは、切削油の臭いが尽きない工廠である。

 バーンとシャッターを開けた。

 

「これでどうだの六回目! ってちょっと明石! 下着姿でナニやってるのよ!」

 

 計測器や工具など良く分らない機械が、雑多に置かれた狭苦しい部屋で、明石は、胸元を強調する前屈みのポーズを、鏡になるまで磨かれたアルミの大きな切れ端に、映していたのである。

 

「これは水着! って言うか突然入ってきて何!」

「戦艦を探してるのだけど……水着って海へ潜るときの衣類でしょ? 縁起悪くない?」

「ドイツ製の工具がほしいなーって、提督に予算の許可をもらうの。だから」

「それで水着?」

「そう」

 

 私は明石を見た。

 体を庇う様に巻かれた腕の間で、程よい大きさの膨らみが、自己主張していた。

 私は、自分のそれを外側から持ち上げてみた。

 服の中に収まる大きくて重いだけのコレの使い道を、私は常々模索している。

 

「コレって、やっぱりそう言う風に使うの?」

「まだ使ってないんだ」

「え?」

「え?」

 

「そんな事より改装よ! 改装!」

「そんな事?!」

「丁度良いわ! 戦艦の大和の主砲が欲しいの! ババーンとお願い! 明石大明神さま!」

「無茶!」

「無茶は承知! でも何とか借りてきて! 明石如来さま!」

「だから無茶! そもそも就役してないから!」

 

 指折り数えて、ひいふうみい。

 いっけない。

 戦艦大和の就役はまだ先だ。

 

 

 腕を組んで私を見る明石の顔は呆れだが、若干胡散臭さも混じっているかも知れない。

 

「意外と耳が早いのね。大和の建造は極秘なのに」

「噂話には事欠かないから」

 

 提督が、この明石と夕張と共に、ナニかをしていると言う噂は、有名だ。

 水着明石の後ろに置かれたお皿形状の何かも、恐らくそれ絡みだろう。

 余談だが、それがパラボラアンテナと知ったのは随分後の事になる。

 明石は白い布をアンテナにかぶせると、自身にはエプロンを巻いた。

 

「口外無用よ」

 

 機密ならば当然だろうが、水着にエプロンを巻くと、何かが悪化している気がする。

 

「就役前でも、図面はあるのよね?」

「あのねぇ。そもそも戦艦大和の主砲塔って一基で二五〇〇トンもあるのよ? 駆逐艦と同じ重さの砲塔なんて、重巡だって積めないって」

「頭ごなしの否定に、進歩は無いのよ」

「程度による」

「少しぐらい考えて――」

「くれない」

 

「明石って頑固ね。工具みたいにガチガチだわ」

「ユルユルよりはマシ」

「誰がユルユルよ。失礼ね」

「んで、何で改装になるわけ?」

 

「演習をする事になったのだけれど、どうしても負けられないから」

「演習なら艦隊戦〈チーム戦〉でしょ? 強いメンバーを募れば?」

「強いメンバー……戦艦って誰が居る?」

「戦艦は余り居ないというか、艦娘になってるのは金剛だけ」

「は?」

 

 工廠の壁の向こう側にあるのは、二つの気配である。

 恐る恐る、窓から覗いてみると、提督と金剛だった。

 

『Hey! 提督ぅ! 提督の旗艦が那智と聞いたネ! 高速戦艦たる私をどうしてのけ者にするんデスカ!』

『金剛は強すぎるからだ。加わったチームが必ず勝ってしまう』

『だったら仕方が無いデスネー♪』

 

 あらいやだ、金剛ったら可愛い娘。

 私が窓を閉めたら明石は肩を軽くすぼめて見せた。

 

「正規空母もそうだけど大型艦の艦娘化は、暫く無いって話。ほら、ワシントン海軍軍縮条約」

 

 列強各国は、国が傾く程に膨張した軍事費を押さえる為に、皆で仲良く軍縮する事にした。

 大雑把に言えば、保有軍艦数を制限する事にしたのである。

 それがワシントン海軍軍縮条約だ。

 ただ、全ての艦艇を艦娘にするとこの国から艦艇が消えてしまい、そうすると怪しいどころの話では無いので、重巡以下を中心とした施術に留まっている。

 金剛が艦娘になったのは例外で、その理由は艦齢だと言うのがもっぱらの噂だ。

 明石は、艦娘名簿をペラリとめくる。

 

「お召艦の比叡に至っては予定すら無いからね。戦艦も大変だわ」

「なるほどね。でも、それって良いの?」

「良い奴ってのは死んだ奴だって提督が」

「どういう意味?」

「正直が美徳とされるのは、日常生活レベルのみなんだって」

 

 遺憾な事に、そのセリフを発したシーンが、明瞭に脳内で再現された。

 目眩どころか頭痛すらする。

 

「……どういう育ちをしたら、あぁいう十七歳になるのかしら。親の顔が見てみたいモノだわ」

「年齢以上のモノを知ってしまったんじゃない? 頭が良すぎるのも大変よねー」

「なによ。その目は」

「別にぃー。大和の主砲を欲しがる重巡ってどうよ? ってー」

 

 まったく。

 頭脳派というのはどうして行動の前に決めつけてしまうのだ。

 この世の中が計算式で出来ている訳でもあるまいに。

 

「あら?」

 

 駆逐艦の響がトテトテと歩いていたのである。

 大和の主砲塔と駆逐艦は同じ重さ、か。

 ふむ。

 

「響、少し良い?」

「足柄、なんだい?」

「高いたかーい」

 

 両脇を掴んで挟んで、響を持ち上げた。

 多少重いがどうと言う事は無い。

 

「見なさい明石! ほら持てる!」

「マジなのかネタなのか微妙なのは止めて! 技艦的に困るから!」

「明石の頭の固さはダイヤモンド級ね。細かい事に気にしすぎると、早くふけるわよ」

「本当にネタなんでしょうねー。嘘だったら修理するわよ。このおバカ」

 

 私は響をゆっくりと下ろした。

 ところが響は、熱い眼差しで私を見ていたのである。

 

「足柄。もう一回頼めるだろうか」

「これを気に入ったの?」

「うん」

「ほら、高い高いー」

「ハラショー」

 

 視線を感じた。

 いつの間にか駆逐艦達の熱い眼差しを一身に浴びていた。

 

 最初は電で「響ちゃんは楽しそうです」、次は暁で「レディは、して欲しいなんて思ってないんだからね!」、最後は雷だった「私たちもよろしく頼むわね!」。

 

「こうなったら鎮守府の駆逐艦を全員連れてらっしゃい! 重巡足柄の底力をみせてあげる!」

「浜風です。足柄が嬉しい事をしてくれる、と聞きました」

「浦風〈うち〉らもよろしゅうね」

「でも陽炎型〈ねんちょう〉は遠慮するべきよね!?」

 

 私の呼びかけに集った仲間は、摩耶・龍驤・木曾そして不知火・雷・暁ほか駆逐艦たちだ。

 こうして足柄〈わたし〉を旗艦とする足柄艦隊は、那智艦隊と闘う事になったのである。

 

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