ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
「それで、お前らはどうやって
スッ──すっかり恐慌状態に陥り、ただただその身を竦ませ、路地裏の壁を背にこの場から逃げ出すこともできない男の額へ。クライドは何の感慨もなく事務的に、そう一方的に訊ねるや否や、ぬらぬらと血で生々しく濡れた
「さもなければ殺す。今すぐにでも殺す。絶対に殺す。何が何でも殺す。ああ、安心するといい。お前が独り寂しい思いをしないように、そこらに転がってる
「まッ、待ってくれ!ちょ、調子に乗ってた!……乗ってましたぁ!!ただそれだけなんですよぉ!!」
「
「本当にすみませんでしたァ!申し訳ありませんでしたァ!」
「……煩いな、愚図が」
瞬く間に自分以外の仲間を刺突剣で突かれ、斬り刻まれ。しかし死にはしない程度までの出血に止め、けれど出来得る限りの苦痛を可能な限り引き摺り出し、それを余すことなく最大限に与えられる、その様子をまざまざと目の前で、見せしめのように見せつけられては。
この男に限らず、大抵の人間がこうなる。そしてそれをクライドとて理解している。きちんと理解した、その上で。
グッ──彼は不快極まった声音でそう吐き捨て、男の額に突きつけている刺突剣の切先を、深く沈める。
「わわわかった!言う!今!言うから!だから俺を殺さないでくれぇえええ!!」
切先の硬い感触が直に伝わり、直後男は情けない声音でそう喚き散らした。
瞬間、堪らずクライドは刺突剣を根元まで一息に押し込みたくなったが。その本能と言っても差し支えのない衝動を、鉄の理性で抑え込み。彼は徐々にゆっくりと、刺突剣を押し出す。
一秒ずつ、着実に。刺突剣の切先が額の肌を圧迫し、血の
思わず上げそうになった悲鳴を無理矢理に腹の奥底に押し込んで、その代わりと言わんばかりに口早に説明を始めた。
「魔石!魔石だよ!昨日、誰だかわかんねえけど広場でばら撒いてたんだよ!百個二百個、節操なく!こ、これだよッ!」
そう言うや否や、男は乱雑に懐へ手を突き入れ、そこから一個の、手の平に収まる程の大きさしかない、薄黄色の石を取り出し。それをクライドの目前に晒した。
「お、俺ぁ最初金になるかと思って拾ったんだ。きっと、あの場にいた大半がそうだったろうさ……でも、あの時拾った誰かが、興味本位か何かでこの魔石を砕いたんだよ」
魔石────それはこの
その名の通り、この鉱石は一定の魔力を蓄えている。というより、この性質を持つ鉱石全てが、総じて魔石と呼ばれている。
とりわけ高値で取引される魔石だが、その中でも魔力をただ蓄えるだけでなく、込める────つまり魔法を封じ込められる類のものは群を抜いて大変貴重であり、その大体に想像を絶する程の価値を持っている。それこそ、下級貴族やクライドのような中級貴族ではおいそれと手が出せない程の価値が。
そんなたったの一個で一攫千金を担える、込められる魔石。当然、込められた魔法を使うことだってできる。実質、魔力を消費せずとも使える魔法を持ち歩いているようなものだ。
どうやって中に込められた魔法を発動させるのか────その方法は至って簡単。先程男が言っていたように、砕けばそれでいい。砕くことによって、内包されている魔法を発動────というよりかは、解放するのだ。
きっとその魔石を砕いたものは、これが通常の魔石なのか込められる魔石なのかを判断したかったのだろう。そこに一つだけあったものではなく、無数にばら撒かれたその内の一つであるなら、クライドもそうしていた。そうして確認した後は、無論独り占めである。
──惜しいことをしたな……。
その場に自分がいなかったことを若干、少し、仄かに後悔しながらも。クライドは男が見せびらかすその魔石を平然と奪い取り。
「あ」
呆けた声を漏らす男の目の前で、彼から奪い取った魔石を何の躊躇いもなく、地面に叩きつけ砕いた。
「……そうか。そうか、そうか。そういうことだったのか」
と、
「そ、そういうことだ。街中は今この話題で持ち切りだぜ?あの剣聖、《閃瞬》のクライド=シエスタが。全く無名の《E》
クライドは何も言わず。男の額に若干突き刺さり始めていた
直後、透かさず刺突剣の切先で以て。男の両目をほぼ同時に、突いた。
「……え」
一拍遅れて、男の両目が真っ赤に染まり。次の瞬間、大量の血涙が溢れ零れて。
「いっぎ、ぃ、っでぇええええッ?!」
堪らず両目を手で押さえ、その口から痛々しい絶叫を迸らせる男。彼はその場に崩れ落ち、両目から絶え間なく、止め処なく流れ出す、どろりと濁った血涙で。その手を赤く汚しながら、想像を絶する激痛にのたうち回った。
「目、がぁああぁあああッ!?俺、俺のっ!目があああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
もはやクライドに
クライドの足取りに迷いはない。当然だ、今の彼に寄り道をするという選択肢はなく。今は一刻も早く、早急に。その場所へ向かわなければならないのだから。
そう、この街の
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
今回の事態、その全てに於ける、元凶を。究極的なまでに徹底的に、己の心に後腐れが巣食わぬよう。出来得る限り気分良く、可能な限り心地悦く惨殺する為に。