ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね」
完全な闇とまではいかないまでも、視界を働かせるには少し無理をする必要がある薄暗い、その部屋で。ただひたすらに聴こえてくるのは、そんな憎悪と怨嗟がこれでもかとあらん限りに、異常なまでに込められた、一単語で。
それが何回も、何十回も、何百回も。延々とずっと。永遠に、ずっと。繰り返し繰り返し、何度も幾重にも呟かれている。
ダンッダンッダンッダンッダンッ──その呟きと同時に、凄まじい力で何かが突き刺さっては引き抜かれ、そしてまた突き刺さっては引き抜かれる、明らかに普通ではない異様な物音。
一体誰が、この部屋にいるのか。そんな異常で正気の沙汰とは思えない言動と行為を、誰がしているのか────
「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね」
────それは他の誰でもない、クライド。『
クライドは目を見開いたまま。ドス黒く血走った目で、この部屋に備え付けられた机の上を。そこに置かれた一枚の紙────青年らしき人物が描かれた紙を見ていた。瞬きも一切せずに、睨めつけていた。
その青年が一体誰なのかはわからない。青年らしいという曖昧な情報も、服装が男物で。そして背格好などから感じ取れる雰囲気が、まあ比較的青年のそれに近いという憶測から立てられているだけで。実際その紙に描かれている人物が本当に青年なのかどうかはわからない。
それは一体どうしてか。理由は簡単だ────何故ならば、それを判断する一番の情報である、その顔が。もはや復元すらもほぼ不可能な程に、
それに穴だらけとは言ったが、正しくは穴だ。とっくのとうにその部分の紙は細切れをとっくのとうに通り越し、微塵までも通り超えてしまっていて。もはやただの穴となって、その下が見えている。
一体何がその紙をそうまでしたのか。その原因を手にしたまま、クライドは宙へと振り上げ────
「死ね」
────振り下ろす。またしても突き刺さる音が────刺突音が部屋に響いた。
紙に穴を開け広げ、その下の机すらも穴だらけにした代物。それは、ペンだった。これといって特に言うこともない、至って普通のペンで。もっと言えばそのペン先で以て、クライドは紙と机の上を穴だらけにしていたのだ。
普通、そんなことをすれば大抵のペン先は砕けて使い物にならなくなり。それでも使い続ければペン自体が真っ二つに割れるか折れる。しかし、クライドが振り上げては振り下ろすことをただひたすらに繰り返し続けていたはずのペンは。その先も含めて全くと言っていい程に無事だった。
「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。し……」
そうして数分の間、同じことを変わらずに続けていたクライドだったが。不意に、まるで時間が止まったかのように固まって。かと思えば、今机の上に広げたその紙を、徐に払って。すぐさま、自分が腰掛けている椅子の横に。無造作に積み上げられ、山の体を成す紙束の、一番上を手に取り。
バァンッ──机を粉砕するかのような勢いで、手に取ったその紙を机上に叩きつけた。
そして透かさず、ペンを頭上高くまで振り上げ。
「死ね」
と、低く静かに呟き。今し方机上に叩きつけ、広げたその紙に──────────クラハ=ウインドアの全身象が描かれた、その紙に。何処か困ったような笑顔を浮かべる彼の顔に、寸分の違いもない狙いを定めて、ペンを振り下ろし。
ダンッッッ──未だ鋭く尖った光を放つそのペン先で、クラハの顔を突くのだった。
「潰す」
と、言われ。ただの幻想に過ぎず、何のことはない錯覚でしかない。しかしこれ以上にない程に確かな現実味を帯びた、あまりにも生々しい己の最期を。その過程と結果の全てを包み隠さず見せつけられたクライドは、声にならない悲鳴を。まるで喉奥から絞り出すように、しかしそれでも掠れた、引き攣ったような悲鳴を。それしか、漏らせず。
意志を挫かれ、精神を折られ、心までも砕かれたクライドは。もはや用無しと言わんばかりに掴まれていた頭を、乱雑にラグナから手放され、解放されたが。
目を虚ろにさせ、蹲り。しばらくの間、その場に留まって放心し。そんな有様のクライドを、ラグナは。一瞥することもなく、身を翻し、その場から歩き出す。
「にしても扉どうすっかな……あー、クソ。
などと若干憂鬱そうに呟くその様から、ラグナにとってクライドなど、もう気に留める必要がない、もうどうだっていい存在になったことが窺える。まあ、事実そうなのだが。
ともあれ、ラグナは突然この場に現れたかと思えば、あっという間に去ってしまった。まるで、嵐のように。その天災じみた彼の気紛れさに、誰しもが呆気に取られる最中。
「……ぁ、ぁ…………あ」
まるで死んでしまったかのように────いや、実は本当に死んでしまって。けれど何かしらの奇跡が起こり、息を吹き返した────という訳があるでもなく。
数分の間、その場に蹲っていたクライドが。恐る恐ると、顔を上げ。まるで捕食寸前にまで追い詰められた小動物のような顔つきで、周囲を見渡す。
「あ、ああ……ああああ…………」
そんなクライドが、周囲の視線を集めないはずもなく。だがそれが、他でもない人々の視線が。彼を限界以上に追い込んでしまった。
「ああああああああ……!」
涙を流しながらに、クライドは情けなく呻き。突如、バッと彼は地面から立ち上がって。
「ああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」
と、こちらの耳を
それから数日の間は、誰もクライドの姿を目にすることはなかった。