ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
──今まで、今の今まで……今こうして再び君の前に立つまで。クラハ!クラハ=ウインドアッ!僕は捨てなかった!君に対する憎悪!怨恨!殺意ッ!!僕は決して捨てはしなかったぁ!!!
クラハの姿を視界に捉えてから。彼の姿を己が視界に映してから。クライドの脳裏で次々と目紛しく呼び起こされる、その
それら全てが鮮烈で鮮明で、故にクライドのただひたすらに暗澹とした意志を掻き立て、漆黒の殺意を過剰なまでに煽り立て。そして、早く早くと苛むように、彼を急がせる。
──君を殺す。君を殺す、君を殺す!君を!君を!!君を!!君をッ!!!殺す!、殺す!!殺す!!殺すッ!!!その為だけに……今この
華々しく輝く、数々の栄光────
使用人、幼少の頃から付き従ってくれていた者、自分にとって唯一無二たる
それだけは。それだけは、捨てられなかった。他の全部を捨てられても、たった一つのそれだけは捨てられなかった。捨てられる訳がなかった。
何故ならば、もはやそれがクライドにとっての生存意義。存在理由。自己証明────己にとっての、絶対の価値。そうにまで、成った。成れ果てた。
故にだからこそ、クライドはそれを捨てない。捨てることなく、今まで。今の今まで。今の今までに至る、この今の為まで。彼は、絶対に捨てなかった。
そうして今、今こそクライドは──────────
──これは君の為だけに。ただ君という一つの存在の為だけに、他の
シエスタ家の邸宅、大食堂にて。自らが呼び寄せた無数の魔狼が、屋敷の
足に施した【
無論、ただ魔力を放つだけではない。【放出】はその勢いを爆発的に高め、常人は当然として並大抵の
それをクライドは最後の後押しの加速として利用し。結果、従来の【閃瞬刺突】のそれとは比較にもならない程の速度を得た。それも
どのような状況下にあっても平然と繰り出せるようになるまで、半ば死人と化すまでに無茶で無謀な鍛錬を寝ずに積み重ねたクライドの。病的で狂気の沙汰の執念、そしてクラハへの憎悪と怨恨と殺意が可能にし、そして実現させた
【閃瞬刺突】を超える【閃瞬刺突】────即ち、【閃瞬刺突《フラッシュスラスト》・
そして今からクライドが見せるのは、
魔法士にとっての外法。魔の道から外れし、禁忌であるように。剣士にとって、あるべくもない技。恥ずべき技。剣を愚弄し、剣を冒涜する技。
そして、クラハを殺す為の技。他の誰でもない、クラハ=ウインドアただ一人を殺す為だけの、技。
両の足、その踵内部に魔石を仕込み。【放出】の際にその魔石が反応し、
【
それを得る代償にクライドの足は。皮は裂け、肉は爆ぜ、骨は砕け────結果、彼の足は使い物にならなくなるだろう。それも現存する汎用の治癒魔法では治癒することが不可能なまでに、致命的なまでに。
そしてそれはクライドの剣士生命を絶たれることに他ならない────が、それでもよかった。そうなろうとも、彼は構わなかった。
己の剣士としての人生を生贄に、クラハ=ウインドアを殺せるならば────それだけで、クライドには十二分に過ぎたのだ。
──殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
【放出】に反応して、クライドの踵に仕込まれた魔石が輝き。直後、爆発する。
──死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
抉れる地面。弾けるクライドの足。宙を飛ぶ彼の身体。
──クラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドアクラハ=ウインドア。
瞬間、クライドの視界に映る全てが溶ける。溶けて、視界の端に流れて、
──殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ。
一秒よりも速く、秒が経つよりも速く、刹那と並び。
── 殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハ殺す死ねクラハッ!
並んで──────────そして
「殺すッ!死ねッ!!クラハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
この時この瞬間。この時の為に、この瞬間の為に。クラハを殺すという、その為だけに。クライドが放った、その技────【閃瞬刺突《フラッシュスラスト》・超過刹那《オーバーアクセル》】は。
そのようにクラハに直撃しても尚、クライドの生涯に於ける正真正銘最後の一撃となった【閃瞬刺突・超過刹那】の勢いは死なず、そのままクラハと共にクライドは宙を飛び続け。そして遂には彼諸共壁に激突する。
直後、
「…………は、は」
数秒、目と鼻の先に見える、クラハの。訳もわからず困惑と呆然が
ドサ──
「ははは……やった……やった、ぞ。僕は……この僕はぁ、やったんだ!遂に、やったんだぁああああアアアアッ!!!」
足の感覚が全くと言っていい程になく、立てない為に。クライドは身を捩り、仰向けになると。満面の邪悪な
「僕はあああああああァアッ!殺したアアアアアアアアアアアッ!!遂に遂に遂に殺したッ!殺した殺した殺した殺した殺した殺したァァァアアアッッッ!クラハ!クラハクラハクラハクラハァアアアッ!!クラハ=ウインドアをォォォォオッ!!!アハハハハハハハァアアアアッッッ!!!!!」
喉が裂け、血を吐こうとも。構わずに、クライドはそう叫ぶ。
「アハハハハハ!ハハハハハァ!!こ、これはぁ……凄いな、凄いぞぉ……!?
そうして、叫び続けながら────刺突剣で壁に
そして今や、自分が路地裏にではなく。周囲には何もない、何も存在しない。一寸先はおろか、その果てすらも暗澹たる闇の最中にいることにさえも、気づかず。
気づけないままに、独りクライドは嗤い。自らに闇が迫り、闇に呑まれ始めても、それでも彼は嗤い続け。
やがて、クライドの身体は崩れ出し。闇へと混ざり、溶けて。