ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
【
故に【絶壊拳】を人間が脳天に受けようものなら、
ましてや今のクラハのように、何の防御もせずに受けたのなら、それは決して覆しようのない絶対的で決定的な
「……あぁ……?」
路地裏に轟音が響き渡った。それは人の拳が人の頭を殴った音というには、あまりにも大き過ぎた。大きく、分厚く、重く。そして、大雑把過ぎた。
それは正に、轟音であった。
「お、おお……おぉぉ……」
ヴェッチャが震えた呻き声を漏らす。少し遅れて、一分程遅れて。そうしてようやっと、彼は今自分が目にしている光景が、決して見間違いなどではなく。ましてや幻覚でもないことを、にじり寄ってくるその痛みと共に理解する。してしまう。
先程の轟音は確かに人体と人体が衝突した際に発せられた音。何かが爆発した訳でも、巨大な
そしてその轟音の発生源の一つ────即ち、ヴェッチャの拳。【
「ぉぉぉぉおおおおおおおおッ!?ひょおおおおおおおおッ!?」
それはもう、酷い有様であった。まるで内側から爆発でも起こしたかのように。皮の殆どが裂け破れ、肉も骨もほぼ全てが吹き飛んでいる。ヴェッチャの拳は、もはや原型を留めていないまでに、破壊し尽くされていた。
そしてヴェッチャと対峙し、彼の〝絶滅級〟魔物すらも屠る、恐るべき【絶壊拳】の一撃を。自殺行為宛らに【
想像を絶する────などという範疇に収まる訳もなく。今まで生きてきた中で初めて味わう、激痛を超えるその痛みに。どうすることもできず、ただ情けなく悲鳴を撒き散らしながら、ヴェッチャは地面に落下する────直前。
ゴッ──何ということもない、特に腰も入っていないクラハの拳によってヴェッチャは顔面を殴られた。
「ぺ」
クラハの拳を顔面で受け止め、ヴェッチャは刹那の一言を最後に漏らし。地面に身体を叩きつけられ、まるでボールのように跳ね。それからまた地面に叩きつけられるが、跳ねることはなくそのまま転がり、やがて独りでに止まる。最初こそ数回身体を痙攣させていたが、その後は微動だにすることもなく。そうして、ヴェッチャ=クーゲルフライデーは完全に沈黙した。
「はっはっは……はぁっはっはっはっはははッ!いやあ流石はブレイズさんの威を借る《S》
少し遅れて、今の今まで黙り込んでいたのがまるで嘘だったかのように。完全に怯えて身を竦ませ、真っ青な顔色を晒す
「ガローやクライド、ヴェッチャみてえな、
喉に
「感謝するぜ、クラハ。おかげで奴らを始末するのが楽になった。お礼と言っちゃなんだが……俺に殺されて先に死んでろ、お前」
ゆっくりと歩き、クラハの目の前に立ち。ロンベルはそう言うや否や、腰に下げた得物────
「早速バッサリ逝っとけやああああああああァアアアアアアッ!!!!!」
そして躊躇いなく、遠慮容赦なく。クラハの脳天にその刃を振り下ろす。その速度はクライドの【
バキンッ──まるで目の前を遮った木の枝でも振り払うかのように。半ば投げやりに振るった裏拳で以て、剣身を叩き折るのだった。