ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
「すぐには殺さんぞ、女。我を侮辱した罪は、泰山よりも重く、大海よりも深い。すぐに死なぬよう、その手足を斬り飛ばし、心臓以外の内臓を斬り抜き、最後にその脳天を貫いてくれる」
八本腕の異形——『剣戟極神』天元阿修羅は、それぞれ八つの得物を掲げて、こちらを呆然と見つめる女に言う。
「見よ、この我が剣の輝きを。この八振り全ての得物は、我らが偉大なる御方により
だが——と。天元阿修羅は再度その全ての得物——御剣の刃先を女の眼前にへと突きつける。
「それでもお前には使ってやろうではないか。誇れ、人の子風情が、この御剣の穢れとなれることを。そしてこの『剣戟極神』によって斬られることを」
「……………………」
しかし、依然として女は呆然としたままだった。恐怖している——という訳ではない。怯えているという訳でもない。
天元阿修羅は感じ取る————この女が、この絶体絶命の状況に対して、特に危機感らしい危機感を抱いていないことに。
そして気づいてしまう————この女が、この『剣戟極神』天元阿修羅に、大して関心を向けていないことを。
「…………死ねぇぇぇええええぃぃいいいいいいいッッッ!!!」
天元阿修羅は考えを改めた。先ほどはできる限り苦しめて殺すと言ったが、気が変わった。
もはや不快極まるこんな
だから、一思いに——一振りで塵に還すつもりで、得物を振るった。
キンッ——唐突に、金属同士で叩いたような、甲高い音が周囲に鳴り響いた。
「『剣戟極神』天元阿修羅」
そこでようやく、女が再び口を開いた————未だ得物を振り下ろしている途中の、天元阿修羅から、
「本音を言わせてもらうと、ほんの僅かばかり……期待はしたのだがな」
残念そうに。実に残念そうに。
不服そうに。実に不服そうに。
女は続ける。
「『剣戟極神』とは名ばかりの実力だった——恥を知れ」
「………………………………馬鹿、な」
女の背に、届くか届かないか。刃先が触れるか触れないか
そんな至近距離で、振り下ろそうとしていた得物を、静止させて。天元阿修羅が呟く。
「この我が、この『剣戟極神』天元阿修羅が」
ピシリ、ピシリ。奇妙な音が、微かに響く。
「あり、得ん」
ピシンッ——そして、静止していた得物の刃先が、欠けた。
「馬鹿なぁぁぁああ…………!!!」
天元阿修羅が手に持つ八振りの御剣全てに亀裂が走り——そして同時に全てが砕けた。パラパラと、破片が落下していく。
「お、おお……おおお……散ることを、お赦しください……我らが偉大なる、御方よ…………」
倒れていく。『剣戟極神』天元阿修羅が、身体を斜めに分断された滅びの一つが、倒れていく。
破片が粉となり、そして宙に霧散する御剣と共に————塵と化して風に流され、消えていった。
「…………さて。未だ遠いな、
まるで何事もなかったかのように、女は歩みを再開させた。
なお、余談ではあるが。
この荒野からさらに遠く、遠く離れた場所に、観光名所にもなっている巨大な山がある。
が、数分後、何故か突如としてその山頂付近が切断されてしまったらしい。