ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
「少しだけ本気を見せてあげますよ」
そう言って、にいっと可愛らしくも、凶悪的に口端を歪めながら、フィーリアは両腕を振り上げる。
すると彼女の周囲を浮遊していた色鮮やかで、強き輝きを見せていた
空を裂きながら、こちらに向かってくるそれをサクラは冷静に見つめる。
——あれは、少しまずいな。
そう察した瞬間、その場から彼女は跳び退いた。直後、球体がそこに着弾する。
ゴォッ——着弾した球体が爆ぜ、天を貫く光の柱を築き上げた。
「…………ふむ」
その柱に貫かれた雲が、欠片も残さず消滅する。地面は穿たれており、断面はまるで研磨された硝子のように、ゾッとするほど綺麗だった。
残りの球体がサクラを追う。そのどれもが常軌を逸した速度であり、また信じられないことに秒が経過するごとに著しくその速度を増していた。
だが——いやだからこそ。サクラ=アザミヤという
疾い。途轍もなく、とんでもなく、疾過ぎる。
人の常識から完全に逸脱した疾さを以て、サクラは荒野を駆ける。跳ねる。
その度に蹴りつけられた大地が、悲鳴を上げて爆ぜ割れる。
砕け散った破片が、一瞬にして粉にへと分解されていく。
サクラと球体の追いかけっこが続く。いつまでも、どこまでも。
そんな中、フィーリアはただ己の魔力を練り上げていた。
「【
彼女が右手を掲げる。瞬間、天を突く業火の剣が顕現し、大気を熱し焼き焦がす。
「【
彼女が左手を掲げる。瞬間、天を突く氷獄の剣が顕現し、大気を冷し凍てつかせる。
「さあて。御覧に入れましょう『極剣聖』様——私の、剣を」
にたり、と。口元を吊り上げ————フィーリア=レリウ=クロミアは、高く高く掲げたその両手を、ゆっくりと合わせた。
業火の剣と氷獄の剣。相反する二つの剣身が、反発し合いながらも溶け合い、絡み合い————やがて一つの新たな剣にへと融合を果たした。
それを、フィーリアは、
「焼かれて凍えろ————【
遠く、球体と戯れるサクラの元にへと振り下ろした。
「むっ」
唐突に、サクラの目の前で、彼女を必死に追いかけ回していた球体が、光の粒子となって崩れ去り、霧散した。
それと同時に————遠方からこちらに、なにか凄まじい
その瞬間、
「これは本当にまずいな」
そう言って、すかさずサクラは——己の得物の柄に手をかける。
キン——澄んだ音色を立てて、鈍く光を漏らす刀身がその姿を見せた。
「ふっ——」
鞘から抜き放った刀を、サクラは己の前にへと翳す。
直後、遥か彼方から——全てを焼き尽くし凍てつかせる魔の剣の刃が振り下ろされた。
「ぐっ……うぅ……!!」
凄まじい熱気。凄まじい氷気。凄まじい威力。
ギリリリッ——炎氷の刃と鉄刀の刃が激しく競り合う。過剰なほどの火花を、その間に咲かし散らす。
拮抗。サクラの膂力と、魔の剣が、拮抗する。
そして————ほんの僅かばかり、サクラが押された瞬間であった。
「ぉぉ、おおおおおおッッッ!!!」
ガキンィンッッッ——サクラの腕が振り上げられ、魔の剣が弾かれ一瞬にして霧散した。