ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がただのクソ雑魚美少女になった話── 作:白糖黒鍵
「すみません。
「あいよ」
僕の注文を受けた屋台の店主が気さくにそう返して、背後にあった籠から手のひら大の、桃の一種である甘蜜桃を二個手に取る。
それから果物ナイフを握り、手慣れた様子でその皮を剥いていく。そうしてあっという間に──
「甘蜜桃のジュース、お待ちどう」
──僕の目の前にジュースが用意されていた。
──なんという早業……。
「ありがとうございます」
言いながら、カウンターの上にジュースの代金を置いて、店主からそれを受け取った。
朝──とはもう呼べない、昼のラディウス。流石にこの時間帯にもなると、あの忙しなかった人混みもなくなり、いくらか余裕を得ることができた人たちが増えていた。
仕事の休憩中だろう者。また午後の時間を優雅に過ごすため、喫茶店などに訪れている者──そして、
──………気のせい、かな。何故か、やけに若い男女が多い気がするぞ……この辺り。
そう、恐らく僕と同年代だろう男女のペアが、そこらかしこを歩いている。……これは、どう鑑みても、アレだろう。
──デート…………だよな。
男女二人が一組になって、あははうふふと互いに微笑みながら、非常に仲睦まじく街路を一緒に歩いている。中には手を繋いでいたり、腕を組んでいたり。
まさしくこれは──デートである。いやこれをデートと呼ばずして何をデートと呼ぶのだろうか。
──まあ、僕には縁のないことだ。ここは気にせず、適当に…………。
そう思いながら、何気なく、隣にいる先輩の方を向いた。
「んく、ん……」
先ほど僕が手渡した甘蜜桃のジュースを、これまた実に美味しそうに飲んでいる。相当お気に召したようで、その顔を幸せそうに蕩けさせ、頬を緩めさせていた。
「………………」
そんな様子の先輩を見やって──ふと、一つの疑問を抱く。
僕と先輩。他の人からは────
「…………」
改めて、周囲を見渡す。カップルらしき男女たちの姿がそこにはある。
そして改めて、思い出す。今、先輩は女の子になっていることを。そして、僕は男であるということを。
つまり、今僕ら二人は、傍目から見ればお揃いのジュースを飲んでいる男女に見える訳で。つまりそれが意味をすることは──
──…………デート真っ最中の……カップル……?
そこまで考えて、即座に僕は己の頭を激しく振り回した。
──いや!いやいやいや!違う!これは違う!!そもそも僕と先輩は男同士で!今先輩が女の子でも!その中身は男で……!
客観的な事実に気づいてしまい、動揺のあまり、危うく手元にあるジュースを落とすところだった。しかしそれに一旦気づいてしまうと、否が応でも意識してしまう──隣の、先輩を。
「…………」
再度見やると、美味しそうにまだジュースを先輩は飲んでいる。ゴクゴクと、白く細い首が、喉が上下し、生物的に、艶めかしく蠢く。その様が、僕には少し────
──って、なにをまじまじと見てるんだ僕は……!
そう自分に言いながら、慌てて先輩の喉から目を逸らす。……駄目だ。やはり、変に意識してしまっている自分がいる。僕と先輩は、あくまでも男同士だというのに。
──先輩は、特になんとも思っていないんだろうな……。
僕が知るラグナ=アルティ=ブレイズという男は、色恋沙汰というものに疎い。というか、若干心配になるくらいに、そういった話題に関心がない。
──別に俺だって
以前──まだ男だった時──に、パフェを食べながらそう言われたのだが、実際のところ疑わしい。
まあそれはともかく。僕が言いたいことはつまるところあれだ。今、この状況に対してこの人は、そういった意識はしていないのだろう。
──……そう考えると、なんか僕だけ変に意識してて、馬鹿みたいだな……。
そう思うと、動揺していた僕の心も次第に落ち着きを取り戻してくれた。そうだ、これは決してデートなどではない…………はず。
──……僕もジュース飲もう。
そうして手元のそれを喉に流し込もうとした時だった。唐突に、くいくいと服の裾を掴まれた。当然、掴んだ主は先輩である。
「なあ、クラハ」
「はい。なんですか?先輩」
返しながら、先輩の方に目線を戻す。すると、先輩は奇妙そうにある一点を指差しながら、僕に尋ねた。
「ありゃなんだ?あれも店……か?」
言われて、僕もその指が指し示す方へ顔を向けると──そこには、麻のような大布を広げ、その上に色取り取りの