ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
「それで、先輩は大丈夫なんですか!?なにか、重い病気でも患ってしまったんですか!?」
開口一番、掴みかかる勢いで僕は目の前の医者——メイシア=クローリットさんにそう尋ねた。
対し、顔を顰めさせながら、彼女もその口を開く。
「うるさい。騒がず、まずは落ち着きなさいこの馬鹿」
至極冷静に、だが確かな怒りを以てそう返されて、僕はぐうの音も出せず椅子に座る。
「す、すみません……」
「全く……まあ、そうなる気持ちは理解できなくもないけど」
あの後、伝説のスライム探しはまた後日とサクラさんとフィーリアさんに頭を下げ、己の体調不良を白状した先輩を背負い僕は急いで病院に駆け込んだ。
先輩は弱っていて、また酷い発熱もしていることがわかり、もう僕の心の中は先輩への申し訳なさと自分の配慮のなさ、後悔と罪悪感がごちゃごちゃになって積み重なり、率直に言って死にたくなった。
けれど嘆いている暇などほんの僅かだって用意されていない。メイシアさんを頼って、すぐさま先輩を診察してもらい、それが終わったのでこの場に呼ばれた訳だ。
「………そうね。どこから説明したものかしら……」
少し複雑そうな表情で、メイシアさんは思い悩んでいる。
——や、やっぱり先輩はなにか病気を……?
そう不安になりながらも、僕は彼女の言葉を待つ。そうして数分後、ようやく彼女はその口を再び開いた。
「まあ、あれね」
「……あ、あれ…ですか?」
「そう、あれ」
「…………あの、メイシアさん。あれとは一体……?」
そのなにかを濁すような、『あれ』発言に、僕は意味がわからずそう追求すると、メイシアさんは依然複雑そうな表情を保ったまま、僕に教えてくれた。
「
——…………へ?
「せ、せいり……?」
あまりにも予想外だった言葉に、思わず声に出してそう反芻させると、メイシアさんが至って冷静な口調で続ける。
「そう、生理。それともあれかしら?排ら「い、いやいや知ってます!知ってますからその先は言わなくていいですというか言わないでください!」……ならいいわ」
生理、という言葉だけでもだいぶアレなのに。あろうことかこの人はより生々しい言葉を使おうとした。危ないところだった……。
心の中でホッと安堵する僕をよそに、メイシアさんはさらに続ける。
「と言っても、まだ生理前の症状なのだけれどね。ただ彼女の場合は普通よりもちょっと重いわ。……それに」
「そ、それに?」
半ば信じられないような面持ちと声色で、彼女は言う。
「あの子、たぶんこれで初経になると思うんだけど……見たところ十七か十八よね?」
「え?あ、あー……はい。そうですね。そのくらいになりますね」
先輩の実年齢は恐らく二十六歳のはずだが……あの身体の場合、どうなるんだろう?こうしてメイシアさんに言われるまで、意識もしなかった。
——あまり詳しくないけど、普通は十歳から遅くても十四歳までには迎えるんだったか……?その、初経って。
とすると先輩の場合はかなり遅く、珍しいのだろう——まあ前まで男だったのだから、そうなるのは至極当然のことなのだろうが。
「…………いまいちはっきりしない答えだけど、まあいいわ。とにかく、命に別状とかはないから安心しなさいな」
「なら、いいんですけど……」
とにかく、僕としては複雑な心情である。というか、実感が湧いてこない。……その、先輩が、生理になったなんて。
なんだか気が抜け、脱力する僕に、淡々とメイシアさんが告げる。
「じゃあこっちからは痛み止めと頭痛薬、それと解熱剤を処方するから……そういえば、貴方とあの子ってどういう関係なのかしら?」
それを訊かれて、僕はギクリとした。
「ど、どういう、関係と……申されましても……」
思わず変な口調になりつつ、そう返すがメイシアさんはじっと僕の顔を見つめてくる。
「……………………」
場が、重苦しい沈黙に包まれ————堪え切れず、僕は苦しげに答えた。
「ど、同棲してる……か、彼女………です」
「そう、ならいいわ」
——すみません本当にすみません先輩勝手なこと言って本当に誠にすみません……!
心の中で必死に先輩にそう謝罪を繰り返す中、ふとした様子様子でメイシアさんが言う
「解熱剤なのだけれど、実は二種類あるのよ」
「……はい?」
さも当然のように、彼女は僕にこう尋ねた
「錠剤と座や「錠剤でお願いします!錠剤で!!」……わかったわ」
やっぱり、苦手だこの人……!
ともあれ、メイシアさんから薬を受け取り、僕はあの後すぐさま先輩を自宅まで送った。先輩はもうすっかり疲れ切っており、今は
そして僕といえば、夕食に使う食材の買い出しに出かけていた。メイシアさんから渡されたメモに書かれた、生理中に食べると良い食材を買えたことを確認しながら、僕は自宅の帰路に着く。
「………………はあ」
独りでにため息を吐いてしまう。まあ、先輩は元男だった先入観のせいで、そういう女の子特有のあれらについては完全に失念してしまっていた。
そのことを恥じながら歩きつつ——ふと、思った。
——そういえば、生理を迎えたってことは、先輩の身体はもう、完全に女の子の身体だってことが証明されたのか……。
そのことに関して先輩はあまり理解していなかったようだが……。
少し考えて、気づいた。
——あれ、てことは先輩……もう子供産めるんだ…………。
気づいて、数秒後。
「僕は馬鹿かあああぁぁっ!?」
ラグナ先輩に対して不敬極まり過ぎる考えを抱いた己を、律するために壁に向かって、何度か頭突きを繰り返した。