ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか──   作:白糖黒鍵

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伝説のスライムを探せ(中編)

「……伝説のスライム、か」

 

 林の中を歩きながら、僕は呟く。七色に輝いている、と言われても、想像がつかないというのが正直な感想だ。

 

 ちなみに僕と先輩は二人一組でスライム探しをすることになった。理由としては単に僕が今の先輩を一人にしておけないのと、今の先輩では恐らく絶対に見つけられないと思ったからだ。

 

 ……だがまあ、当然と言えば当然なのだろうが、やはり七色に輝いているスライムなど全く見つからない。そもそも他の魔物すら見かけない。

 

 ——おかしいなあ……まさか、サクラさんとフィーリアさんがいるせいかな……?

 

 もしかすると、二人が放つ圧倒的強者の威圧(オーラ)に怯えてしまっているのかもしれない。……その可能性がないとは言い切れないのが、本当に怖いところだ。

 

 ——だとすると、伝説のスライムなんてますます見つからないんじゃ……。

 

 捕獲しようとしたらその場から一瞬で逃げ去ったというくらいだ。その伝説のスライムとやらは、かなり臆病な性格なのかもしれない。

 

 …………そういえば、あまり考えなかったが、二人共どういう方法で探しているのだろう?

 

 ——まあ、取り敢えず僕は僕で探すとしよう。

 

 一応こうして歩きながらも周囲には気を配っている。しかし先ほども言った通り魔物の気配はまるでしない。

 

「……参ったなあ」

 

 別に勝負には勝てなくてもいいのだが、それとは別になんの成果も出せないのは避けたい。ただでさえ、《SS》冒険者(ランカー)の二人にこんなことを手伝わせてしまっているのだから。

 

 そこまで考えて、ふと僕は思い出した。隣にいるはずの先輩の存在を。

 

「先輩。伝説のスライムって、一体どんなのか………」

 

 僕としては、ただ先輩が伝説のスライムに対して、一体どんな想像(イメージ)を抱いているのか、それが気になり訊こうと思って、先輩の方に顔を向けただけだった。

 

 それだけ、だったのだが。

 

 

 

「ん?どした、クラハ?」

 

 

 

 先輩が僕と顔を合わせる。その胸に、キラキラと七色色に輝く、(・・・・・・)スライムと酷似した(・・・・・・・・・)謎の魔物を抱きながら(・・・・・・・・・・)

 

「……………………」

 

「あ、こいつ?いやさあ、なんかさっきあそこら辺の茂みから俺に飛びついてきたんだ。そんでなんか懐かれたみたいでよ……って、なにそんな鳩が豆鉄砲食ったような顔してんだよ?クラハ」

 

 ガサガサッ——そこで、不意に周囲の茂みが騒めいて。

 

 

 

「直感が囁いている。ここに、私の求める存在(モノ)がある……と…?」

 

「ここですね!例のスライムがいる場所は!やっぱり私が一ば……ん…?」

 

 

 

 そして、そこからサクラさんとフィーリアさんが意気揚々と現れた。が、先輩——正確にはその胸の中にいる虹色のスライム——を見て、僕と全く同じような状態になった。

 

 固まってしまった僕たち三人に、先輩が困惑しながら声をかけてくる。

 

「な、なんだよ。お前ら全員そんな顔になって……こいつがそんなに珍しいか?まあ、確かに俺もこんなスライム初めて見たけど」

 

 先輩のその発言に対して、数秒後。僕らは————

 

 

 

 

 

「「「いたああああああああああああッッッ!?」」」

 

 

 

 

 

 ————というように、絶叫で返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 場を、沈黙が支配していた。こう、形容し難い沈黙だった。

 

 そんな中、僕とサクラさんとフィーリアさんに囲まれるようにして、先輩は座っている——その胸の中に、七色に輝く、スライムらしき魔物を抱えながら。

 

 ——……いや、これ……ええ……?

 

 恐らく、今先輩が抱きかかえているその魔物こそ、僕たちが探し求めていた存在——七色に輝いているという、伝説のスライム。

 

「……な、なんなんだよお前らさっきから…」

 

 なんとも言えない、僕たちの視線を受けて先輩がそのスライムを抱き締める。むにゅぐにゅと押し潰れる先輩の胸の上で、スライムが歪む。

 

「…………羨ましい」

 

 隣でサクラさんがなにか呟いた気がするが、スルーしよう。

 

 取り敢えず、そこで僕たち三人はそれぞれ視線を交わし、声なき心の会話?というものを始めた。

 

 ——どうしますか?サクラさん、ウインドアさん。

 

 ——どうしますかと、訊かれても……。

 

 ——ラグナ嬢の柔い果実にああも沈むことができるなんて……羨ましい、羨ましいぞスライム…!

 

 隣でサクラさんが全く関係ないことを心の中で呟いている気がするが、スルーしよう。

 

 ともあれ、僕たちは心での会話を続ける。

 

 ——正直な話、私欲しいです。あのスライムめっちゃ欲しいです。

 

 ——……えっと、それについて、ちょっとお願いしたいことがあるんですけど……。

 

 ——欲しい……私も、ラグナ嬢の果実……!

 

 視線だけを交わす僕たちを、最初こそ先輩は胡乱げに眺めていたが、やがて興味も薄れたらしく、今ではその胸に抱いているスライムを突っついたり、楽しそうに宙へ投げてはキャッチするのを繰り返していた。

 

 対して、スライムは特に逃げる様子も見せず、依然七色に輝いたまま、先輩に遊ばれるがままになっている。

 

 そんな、傍目から見れば和ましさしか感じられない光景を視界の隅に留めて、僕たち三人は視線を交わし続ける。

 

 ——お願い、ですか?あと関係ないですけどブレイズさん可愛い。

 

 ——はい。実はあのスライムに関してなんですけど……あと関係ないですけど先輩可愛い。

 

 ——ああ。それに関しては全面的に全力で肯定そして同意させてもらおう。嗚呼、ラグナ嬢は可愛いな全く!

 

 本当に、本当に言い難かったのだが……腹を切るつもりで僕はフィーリアさんに伝えた。

 

 ——あのスライム、先輩に倒させてくれませんか?

 

 ——…えー?……倒し、ちゃうんですか?……んー。

 

 少し気難しそうな表情を浮かべ、フィーリアさんは間を空けてから、仕方なさそうに返す。

 

 ——まあ、一番最初に見つけたのはウインドアさんたちですしね。わかりました。

 

 ——あ、ありがとうございます……本当にありがとうございます……!

 

 ——何故そんなにも可愛いんだ……ラグナ嬢……嗚呼……。

 

 そうして、僕たち三人の、心での会話は終了した。それと同時に、僕は再び先輩の方にへと顔を向けた。

 

「先輩。ちょっと「クラハ!俺さ、お前に頼みたいことがあるんだけど、いいか?」……頼み、たいこと?僕にですか?」

 

 プルプルと震えるスライムを抱き締めながら、やや上目遣いに先輩は、僕に言った。

 

 

 

こいつ(スライム)、飼わねえ?」


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