ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか──   作:白糖黒鍵

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DESIRE────昨晩はお楽しみ?

 翌日。寝不足気味の重く気怠い身体を引き摺りながら、僕は『Elizabeth(エリザベス)』の一階にある大食堂ホールにへと訪れていた。

 

「頭痛え……」

 

 僕の隣で、僕と同じように気怠そうにしながら先輩がそう呻く。元々お酒(アルコール)に強くないのに、ワインボトル一本を開けた報いというものだろう。

 

「頑張ってください、先輩」

 

 投げやりにそう励まして、僕は目の前にある白塗りの扉を押し開く──瞬間、飛び込んでくるいくつもの音。

 

「…………」

 

 大食堂ホール、というくらいだから、やはりそれなりに広いのだろうなとは思っていたが。思ってはいたのだが。

 

 ──まさかここまでとは……。

 

 軽く数百人は収められるだろう面積だった。頭上を見やれば高い天井に、無数のシャンデリアが吊り下げられている。

 

 食堂というよりかは、舞踏会(パーティー)にでも使うようなダンスホールである。用意されたテーブルに座り、それぞれ朝食を摂る宿泊客たちを眺め──向こうの方に、よく見知った二人の姿を見つけた。

 

 サクラさんとフィーリアさんである。先輩の手を引きながら、二人が座るテーブルにまで近づくと、そこで彼女たちも僕と先輩に気がついたのか、食事の手を止め皿の料理から、こちらの方に顔を向けてくれた。

 

「おはようございますお二人共……って、朝からだいぶお疲れのご様子ですね。どうしたんですか?」

 

「ふむ。特にウインドアは今すぐにでも倒れそうな顔をしているな。寝不足か?寝不足は健康に響くぞ」

 

 そう言って、サクラさんはおもむろに椅子から立ち上がったかと思うと、僕のすぐ側にまで身体を近づけて、色素の薄い、淡い桃色の唇をこちらの耳元にそっと寄せて、揶揄(からか)うように囁いてきた。

 

 

 

「昨晩は、お楽しみ(・・・・)だったのかな?」

 

 

 

 その声は彼女にしては珍しく意地が悪いもので、その言葉の意味を僕はすぐに理解することはできず、数秒遅れて理解した。

 

「しっ、してません断じてっ」

 

「む?そうなのか?駄目じゃないかウインドア。一つの寝所に二人の男女……私の故郷にはね、こんな言葉があるんだ——『据え膳食わぬは男の恥』。意味は「サクラさん?ウインドアさんを精神的に虐めるのはそこまでにしておきましょうね?」………仕方ないな」

 

 皿の上のオムレツにナイフを入れているフィーリアさんに窘められるようにそう言われて、渋々といったようにサクラさんはそう返す。

 

 …………顔が熱い。まあ、無理もないだろう。

 

 自分よりも身長の高い、性格こそ目を瞑ってしまえば、街中の誰もが振り返ってしまうだろう絶世の美女であることには変わりないサクラさんに、あんな無警戒に接近され、擽るように耳元で囁きかけられては、誰だって心臓の一つや二つ、嫌でも高鳴ってしまうというものだ。

 

 ──それに……サクラさんって……。

 

 見てはいけないとわかっていても、思わず極控えめに視線を注いでしまう。……い、意外とボリュームがあったというかなんというか……どこがとは言わないが。

 

「さて、フィーリアの言う通り冗談はここまでにして。ウインドア、ラグナ嬢。ここのホテルの朝食はびゅっふぇ?形式らしくてな。ほら、あそこに大皿が置かれてあるだろう?」

 

 そう言ってサクラさんは向こうを指差す。その方向に視線を送ると、確かに彼女の言う通り、巨大な長テーブルの上に無数の大皿が置かれてあり、それら全てに多種多様の料理があった。

 

「なるほど、わかりました。じゃあ先輩取ってきま……先輩?」

 

 丁度いい具合にお腹も空いてきたので、朝食を食べるため早速取りに行こうと声をかけながら先輩の方を向くと──何故か、先輩は少し不機嫌そうにしていた。

 

「……」

 

「えっと……ど、どうかしましたか?先輩」

 

 自分でも気づかない内になにか、先輩にとって不愉快な言動か行動でもしていたのかと、ここまでの道中を軽く振り返りながらそう尋ねると、依然不機嫌そうにしながら、

 

「…………別に」

 

 そう返して、繋いでいた自分の手を僕の手から離して、スタスタとやや早歩き気味に長テーブルの方に向かってしまった。

 

「え、ちょ、先輩っ?」

 

 急変した先輩の様子に困惑しながらも、慌てて僕もその背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

「……嫉妬(やきもち)とは、随分と可愛らしいじゃないかラグナ嬢」

 

「ほぼあなたが妬かせたんですけどね」


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