ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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RESTART(その一)

 ──消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない消えたくない。

 

 肉体は完全に崩壊し、僅かな一欠片、仄かな残滓すら残ることなく。そうして、厄災の予言に記されし第一の滅び、『魔焉崩神』エンディニグルは消滅した────()()()()()()()()

 

 ──我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が我が。

 

 しかし、未だその魂だけは消滅してはいなかった。『魔焉崩神』エンディニグルは魂だけとなっても存在し、しぶとくこの世界に残留しようと足掻いていた。

 

 ──嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 けれど次第に、その魂までもが徐々に薄れていく。完全なる消滅が、すぐそこにまで近づいている。

 

 それを如実に感じ取りながら────そのことに確かな恐怖を味わいながら、エンディニグルの魂は宙を漂う。

 

 ──消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える。

 

 そんな時、エンディニグルは目の当たりにする。今し方、己の身体を滅ぼした張本人たるあの赤髪の男が、何故か地面に倒れている姿を。

 

 何も考えなかった。いや、考える余裕などもうなかった。無我夢中で、輪郭(そんざい)が綻び始めた魂を必死に、死に物狂いで動かし。地面に倒れたまま微動だにしない赤髪の男に迫る────と、その時。

 

 不意に、穢れなき純白の光が。赤髪の男の身体から解き放たれるようにして発せられたかと思えば。その光はそのまま広がって、男を包み込んでしまった。

 

 それでも構わず、エンディニグルの魂は────否、もはや魂とは程遠い、残留思念に近しい存在(モノ)零落(れいらく)したエンディニグルが、光に包まれた赤髪の男に迫る。

 

 そしてまたしても不意に、赤髪の男を包んでいたその光が淡く、儚く散り────そうしてその場には、()()()()()が残されるのだった。

 

 ──間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え。

 

 しかしエンディニグルにとってそんなことは些末事で、至極どうでもよかった。己の完全消滅まであと数秒僅かという瀬戸際に追い詰められたかの神にとって、今重要なのは存在できるかできないだけだったのだから。

 

 燃え盛る炎をそのまま流し入れたかのような、紅蓮の赤髪を。まるで絨毯のように地面に広げ、依然として倒れている────否、穏やかな寝顔を晒け出して眠り込む少女の元へと。

 

 遂に、エンディニグルは辿り着き。そして縋るように、手を伸ばす。

 

 ──入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる入れる。

 

 そしてとうとう、少女の小さく華奢な身体に触れる────その寸前で。

 

 

 

 

 

 バチンッ──エンディニグルの手は、弾かれた。

 

 

 

 

 

 エンディニグルの魂が(ほど)けていく。揺らぎ、崩れて、失せていく。そんな瀬戸際の最中で、何故弾かれただのと考えることなど、あるべくもない。

 

 そうして、『魔焉崩神』エンディニグルは(いよいよ)以て、魂までも含めた完全消滅を迎える────刹那。

 

 霧散する魔力と何ら変わらないまでに成り果てたエンディニグルは、少女の魔力に。辛うじて、しがみついた。

 

 ──…………やった、ぞ。

 

 最初こそ不安定極まりなく、まるで消えかけの蝋燭の火の如く、薄れ揺らいでいたエンディニグルだったが。やがてそれも安定し出す。

 

 こうしてどうにか危機を脱したエンディニグルが徐々に余裕を取り戻す最中、不意に背後から車輪が地面を擦り回す音が聴こえ始める。

 

「おい!誰か倒れてるぞ!」

 

 続けて、そう叫ぶ男の声がして。どんどん車輪の音が────馬車がこちらに近づいて来る。

 

 馬車は近くで停まり、中から二人の女性が降りる。彼女たちは少女のことを見るや否や、慌てた様子で駆け寄るのだった。

 

「ね、ねえ大丈夫?何でこんなところで、君みたいな子が……」

 

「ちょっと待って。……眠ってるだけよ、この子」

 

「え?あ……本当だわ。ていうか、男物じゃない。この服」

 

 抱き起こされ、心配そうに声をかけられても、尚。一向に目覚めないことや、明らかに身の丈に合っていない男装をしていることに対して、奇妙に思いながらも。その少女を抱き抱え、二人の女性は馬車へと戻る。

 

「どうだったんだ?」

 

「ご覧の通り。よくわからないけど、ただ眠ってるだけみたい。ねえ、何か羽織れるものとかなかったっけ?」

 

 そうして少女も乗せた馬車はまた動き出し、その場を離れていく────その間、誰にも気づかれることなく。少女の魔力と仮初の同化を果たしたエンディニグルは、不本意ながらも()()()()()()

 

 服を脱がされ、代わりに麻布のローブを羽織らされた少女の────否、今し方こちらを消滅まであと一歩追いやった男の記憶を、覗き見て。

 

 ──……ラグナ=アルティ=ブレイズ……。

 

 幾億何兆回この手で殺したとて殺し足らず、そして殺し飽きないだろう怨敵の名を。こうしてようやっと、エンディニグルは知ったのだった。

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