ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか──   作:白糖黒鍵

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DESIRE────燕尾服とパーティードレスと?

「さて、どうかな?ウインドア。君の目から見て、私のこの格好は似合っているかい?」

 

 そう僕に訊いてくる燕尾服姿のサクラさん。普段は下ろしている髪も、今は一本に結ってまとめた、所謂(いわゆる)ポニーテールと呼ばれる髪型になっていた。

 

「え、えっと……そう、ですね」

 

 その問いかけに対して答えるため、困惑しながらも僕はやや遠慮気味にサクラさんの全身を眺める。

 

 先ほども言った通り、サクラさんが着ている燕尾服自体は僕と全く同じものである。そう、彼女は今、男物である服装なのだ。

 

 ……しかし、情けないのやら悲しいのやら。燕尾服(それ)はこれ以上にないほどにサクラさんに似合っており、男であるはずの僕よりも、間違いなく彼女は見事に着こなしていた。もし彼女の性別を知らぬ者が見たのなら、彼女のことを美青年だと勘違いすることだろう。

 

 ──いや、でも流石にそれはないか。

 

 だがその考えを僕は即座に否定した。確かに、遠目から見る分には、今のサクラさんは誰の目に映ろうと燕尾服姿の美青年と思うだろう。……ささやかにもその存在を主張する、二つの胸元の膨らみから気づかなければの話だが。

 

 悪いと思いつつも、僕とて立派な一人の男だ。男としての性には逆らえず、その部分に視線を流してしまう。

 

 華のような可憐さからはほど遠く、刃のような美麗さを纏うサクラさんの、女性的特徴。普段のキモノ姿では近づいて見なければ気にすることのない、だがそれでもそれ相応の大きさを予想させる胸元。やはりあの服が目立たせなくさせるのか、それともサクラさん自身が相当着痩せする体質なのだろうか。

 

 今の燕尾服姿では──それが実に窮屈そうに見える。まるで入り切らない大きさの果実を、無理矢理袋の中に押し込んでいるような、そんな窮屈さを。そして心なしかサクラさんの表情も若干苦しそうに思える。

 

 ──やっぱり、サクラさんって……。

 

 否が応にも浮かび上がってくる一つの推察。しかしそれはサクラさんに対して無礼極まる邪推であり、僕はそれを即座に頭の中から消し去った。

 

「似合ってる……と、思います。違和感とか全くないですし」

 

「なら良かった。……ふむ。しかしあれだな。男物の服が似合っていると言われると、それはそれで複雑な気持ちになるな」

 

「あ、た、確かに……すみません」

 

 と、そんな会話の最中、不意に向こうの方から聞き覚えのある声と足音が響いてきた。

 

「お待たせしましたー!」

 

 僕とサクラさんが揃ってそちらに視線を向ける──向こうからこちらにやって来ていたのは、フィーリアさんである。しかし、普段とは一味違った姿となっていた。

 

「ほら、どうですかサクラさん?ウインドアさん?」

 

 パーティードレスと呼ぶのだろうか。白を基調としたその衣装姿のフィーリアさんは、普段のような幼い雰囲気とは打って変わって、静かで落ち着きのある、大人びた雰囲気を纏っていた。

 

「私は良いと思うぞ。その格好だと普段のあどけなさが抜けて、新鮮に見える」

 

「……なるほど。つまりいつもの私は子供っぽいって言いたいんですね?」

 

「……………まあ、そうだな」

 

「せめて言い訳の一つくらいしてくださいよっ!」

 

 どうやらフィーリアさんは自分が子供っぽく思われるのは心外だったらしい。正直僕もサクラさんとほとんど同じような感想を抱いていたので、ばつが悪い。

 

 ──えっとどうしよう。僕はなんて言ったらいいんだ。

 

 他の感想を絞り出そうと慌てて思考を巡らす──が、

 

「もういいです。じゃあウインドアさんはどうなんですか?まさかサクラさんと同じような感想じゃないですよね?……ねぇ?」

 

 呆れた表情をサクラさんに送ってから、そう言いながら僕の方には不気味なくらいまでにニコニコとした満面の笑顔を向けて、フィーリアさんが訊いてきてしまった。

 

「え、いや、その…!」

 

 返答に詰まった時点でもう手遅れな気がするが、それでもなんとか考えようとして、しかしその前にフィーリアさんに嘆息された。

 

「いいです。もういいですよどうせ私は子供体形ですよ少女(ロリータ)ですよ。……はあ」

 

 そう言って、今度は僕ににまっとした、なにか意味ありげな笑みを彼女は向けた。

 

「それに、ウインドアさんにはもっと別の感想を言ってもらいますからね」

 

「え?」

 

 別の感想──それはどういうことなのかと僕が訊く前に、フィーリアさんは奥の方に向かって呼びかけた。

 

ブレイズさーーん(・・・・・・・・)!もうそろそろこっちに来てくださいよー!」

 

 その呼びかけに対して、僕は即座に思い出して硬直する。そうだ、ここには、四人で来ていたのだ。

 

 サクラさん、フィーリアさん、僕──そして、ラグナ先輩の四人で。

 

 燕尾服に着替えたサクラさん。パーティードレスに着替えたフィーリアさん。この二人がそれぞれの衣装に着替えているのだから、当然先輩も同じくなにか別の衣装に着替えているはず。

 

 ──ほ、本当に……先輩も……。

 

 あれほど頑なに女物の衣服を拒んでいた先輩が、まさか──言い様のない、胸の内がざわつく感情に脳内が埋め尽くされる。

 

 …………しかし。数分経っても、向こうから誰かが来る気配はなかった。

 

 ──あれ……?

 

 僕が不思議に思う最中、痺れを切らしたフィーリアさんがやれやれと首を振って、仕方なさそうにまた向こうにへと歩いて行った。

 

 それから数秒後、

 

「なにやってるんですかブレイズさん!せっかく着替えたんですから、ウインドアさんに見せましょうよその姿を!」

 

「ふざ、ふざけんなっ!こんな格好クラハに見せれる訳ねえだろ!?絶対行かな「問答無用!観念しやがれ、ですっ!」はっ?ちょ、んなっ…は、離せぇ!!」

 

 そんな会話が聞こえたかと思えば、すぐさま向こうから再びフィーリアさんと、彼女に腕を掴まれ無理矢理連れられて──この場に、ようやくラグナ先輩も現れた。


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