ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか──   作:白糖黒鍵

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DESIRE────前戦準備

「えー、それでは作戦会議を始めるとしましょう」

 

 朝。場所はホテル『Elizabeth(エリザベス)』一階、大食堂。テーブルの上に肘をつき、両手を口の前で組みながらフィーリアさんはそう言った。

 

「……作戦会議、ですか」

 

「はい。作戦会議です」

 

 こほん、とそこで一旦息を整えて、フィーリアさんが続ける。

 

「まず、私たちがこの街に来てから、今日で二日目です」

 

「そうですね……」

 

 そう、僕たちがこの街に訪れてから、既にもう二日目である。つまり今回の依頼(クエスト)──ギルザ=ヴェディスの身柄確保に残された期間は、今日を含めてあと一日しかない。

 

 ──なのに、僕はなんの情報も掴めてない……。

 

 その事実に対して、打ちひしがれる僕に、フィーリアさんが言葉をかけてくる。

 

「そう気に病む必要はありませんよ。ギルザ=ヴェディスに関しての情報は、私が粗方集め終わっているんですから」

 

「そ、そうですね……はい……」

 

 恐らく僕のこの様子を見かねての言葉だったのだろうが、残念ながら逆効果である。

 

 無力感と劣等感に苛まれる僕を、少し気の毒そうに眺めて、それから先輩やサクラさんにも視線を送って、フィーリアは口を開いた。

 

「まず、ギルザ=ヴェディスに関してですが──当然、相当用心深い性格で、表舞台に出てくることはまずないでしょう」

 

「…………」

 

 まあ、裏社会の住人が進んで表舞台に顔を出す訳がない。つまりそれが意味することは──標的(ギルザ)の確保が困難であるということ。

 

 ──間に合うのか?僕たちは……。

 

 だが、そんな僕の不安を見透かすように、フィーリアさんは不敵に、小さく笑った。

 

「ですが明日──奴は間違いなく、表に出てきます」

 

「え?」

 

 得意げにしながら、フィーリアさんは懐に手を差し入れ──そこから三枚の小さな封筒を取り出した。

 

 そしてその封筒を軽く宙にへと放り投げる。無造作にも放たれたその封筒らは、散らばることはなく、それぞれが僕たちの前に着地した。

 

「……あの、フィーリアさん。これは?」

 

 未だに得意げにして、「フッ」という台詞が付くような微笑を携える彼女に、僕は尋ねる。

 

「これですか?これは、招待状です」

 

「招待、状……?」

 

 困惑しているのは、僕だけではない。フィーリアさんを除いた二人──先輩とサクラさんも、恐らく僕と同じような表情を浮かべていた。

 

 そんな僕らに、やはり得意げにしてフィーリアさんが喋り出した。

 

「実は明日、この街の──まあ、俗に言う富裕層(VIP)を集めた舞踏会(パーティー)が開かれるんですよ」

 

「ほう。舞踏会か」

 

 サクラさんの相槌にフィーリアは得意げなその表情を少しも崩すことなく、さらに続ける。

 

「ええ。それでこういった催し物には広告主(スポンサー)が付きものじゃないですか──ここまで言えば、あとはもうおわかりですね?」

 

 そう言って、ふふんと得意げな表情を、今度は挑戦的なものに変えてフィーリアさんは僕らに差し向けた。

 

 彼女の言葉に、頭を回転させる。

 

 ──広告主……ああ、なるほど。

 

 結論を出すのに、さほど時間はかからなかったが──

 

「ギルザ=ヴェディスが広告主、ということか」

 

 ──僕よりも先に、サクラさんが結論(それ)を口に出して述べた。

 

「その通りです、サクラさん。それとウインドアもわかっていたみたいですね」

 

 そこでカップを持ち、静かに珈琲(コーヒー)を飲むフィーリアさん。意外なことに、彼女はブラックを飲めるのだ。

 

 ……ちなみに、言うまでもないというか、言うことではないこともないかもしれないが、先輩は特に考える素振りも見せず、ただただ目の前にあるケーキを食べていた。実に美味しそうに。

 

 まあそれはともかく。ごくんと珈琲を喉奥に流し込んで、フィーリアさんが口を再度開く。

 

「ですので、今日はその殴り込み(カチコミ)の下準備をしましょう」

 

「え?」


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