ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
「全く。ブレイズさんったら緊張し過ぎですよ」
ある程度挨拶を終え、独りフィーリアはそう呟く。そうして片手にあるワイングラスを口元に近づけ、傾けた。
「…………」
──あんまり美味しくないですね……。
そんな感想を抱きながら、彼女は自然体を装いながら、周囲を軽く見渡す。
ラグナが少し外の空気を吸いたいと言ってから数分経ったのだが、未だ戻る様子がない。やはり一人で行動させるべきではなかったかと、少しだけフィーリアは後悔する。
──気がついたらサクラさんもウインドアさんもどっかに消えちゃいましたし……協調性ないなあこの
しかし既に過ぎたこと。まあ最悪自分一人でギルザを捕まえればいいと、フィーリアはそう結論づけた。
チラリ、と。やたら豪華で巨大な振り子時計に視線をやる。
──さて、そろそろ気合い入れますか。
心の中でそう呟いて、フィーリアは中央にへと歩き出した。
「皆さん、お忙しい中わざわざ集まってくれてありがとうございます」
舞踏会開始二分前。大広間の中央にて声高らかに、派手な服に身を包んだ男が参加者全員に向けてそう言う。彼こそこの屋敷の主人にして今回の舞踏会の主催者である、フォルネ=クリフコスィであった。
そんなフォルネの姿を、フィーリアは遠目から静かに眺めていた。
──フォルネ=クリフコスィ……ラディウスの中でも随一の資産家で、その界隈では『投資王』という異名で通っている人物。
そして黒い噂も聞く人物である。具体的には──裏社会に通じている、らしい。まああくまでも噂の範疇に過ぎないが。
──仮に噂が本当だとすれば、十中八九ギルザとの繋がりもあるはず。この街で
社交辞令めいた挨拶を続けるフォルネ。それもやがて終盤に迫った時だった。
「それではご紹介しましょう。この舞踏会を開くに至って、私が力を借りたビジネスパートナー──クライヴ=ネスクト君です」
フォルネの言葉と共に、大広間の扉がゆっくりと開かれる。大広間に入ってきたのは──黒スーツに身を包んだ、若い男だった。
やや鋭い目つきに、微かに吊り上げられた口元。お世辞にも好青年とは言えず、無表情ではあるが、何処か凶暴性を感じさせる顔つきである。
その男を見て────フィーリアは確信した。
──いた。
瞬間脳内にて想起される記憶。一週間前、『
その写真に写された、男の横顔を。
──ギルザ=ヴェディス……!
表舞台には決してその姿を現さないと言われた男が、遂に現れた。流石に偽名を使っているが、間違いない。
一歩、一歩と。自然を装いながら、フィーリアは前に進む。そんな中、フォルネから紹介を受けたクライヴ──いや、ギルザが口を開く。
「いやあ、今日はお集まり頂けて、誠にありがとうございます。このクライヴ、感謝のあまり涙が溢れてしまいそうです」
と、大袈裟な口調と身振り手振りで話すギルザ。しかしフィーリアの目には、それは上っ面だけのものにしか見えない。
──よくもまあ、思ってもないことを。
そして、ギルザとの距離をある程度詰めた、その時だった。
「とまあ、まだ話したいことは山ほどあるのですが、舞踏会まであと三十秒しかありません。ですので、この一言で締めさせてもらいます」
そう言ってギルザは────にやり、と。口元を歪ませた。
「とりあえず死ね」
ババババッ──それは、連なった銃声だった。遅れて、彼の隣に立っていたフォルネの口から血が垂れ、なにが起こったのか全く理解できていない表情のまま、床に崩れ落ちる。その背後には、いつの間にか黒スーツの男が立っており、長い筒のような形状の銃を構えていた。
穴だらけとなったその身体から血が溢れ、瞬く間に血溜まりを広げる。数秒後、参加者である一人の女性が、絹を裂くような悲鳴を上げた。
「…………え、な」
フィーリアが困惑の声を漏らす。それと同時に囲むようにして、一斉に周囲からなにかを構えるような音が鳴る。
そして────────
ダダダダダダダダダッ──先ほどと同じような銃声が、喧しい大合唱を奏でた。
「…………ハハッ、見つけたぜぇ」
宙に静止する数百の弾丸。その光景の最中にいる、こちらに苦虫を噛み潰したかのような表情を向ける白髪の少女を──フィーリアの姿を見ながら、嘲るようにギルザはそう言った。