僕は乗り切った。どうにか、乗り切ってみせた。乗り切り、無事に……とは決して言えないものの。
しかし、今こうして、
「………………」
そして、数多く用意されたテーブルの一つに突っ伏していた。
そんな僕に対して、他の
「一体何があって、貴方はそんな風になってるのかしら」
が、それでも一人はいた。こんな僕の身を案じて────いるのかは正直微妙なところだが。とにかく、声をかけてくれる人間が、一人はいたのだった。
「……自業自得と言いますか、身から出た錆と言いますか……まあ、その、気にしないでください。メルネさん」
と、憔悴し切った声で僕が言葉を返した相手────首筋が薄く隠れる程度にまで水色の髪を伸ばした、その女性の名はメルネ。メルネ=クリスタさん。
『
「貴方がそう言うのなら、私はそれで構わないけれど……」
言いながら、メルネさんは僕のすぐ隣にまで歩み寄り────
「おいそれと守れもしない約束をすると、どうなるのか……これで貴方
────と、心胆寒からしめる声音で、こちらの耳元にそう囁きかけるのだった。
「これに懲りたら、次からは気をつけなさいよー」
まるで首筋に刃を押し当てられたような戦慄に、堪らず硬直を余儀なくされる僕など尻目に。自分の言いたいことを言い終えたメルネさんはひらひらと手を振って、そそくさとこの場から離れる。
早々に遠去かっていくメルネさんの背中を、僕は黙って見送ることしかできない。返事をしたくても、そうするだけの気力が、もう皆無だった。
三週間前、
それから気怠く重い首を少し上げ、
そこに今立ってるのは、一人の受付嬢────そして僕の先輩。その名は、ラグナ。ラグナ=アルティ=ブレイズ。
燃え盛る炎をそのまま流し入れたような、鮮やかな赤髪。
可憐にして美麗、
誰がどう見ても、今の先輩は女の子だ。文句のつけようがないまでに、ぐうの音も出ない程に、女の子である。
何の
先輩が、ラグナ=アルティ=ブレイズが────
今から二ヶ月程前、この街────オールティアを。ある
その存在────予言に記されし、
そんな滅びの厄災を、一人の男が斃してしまった────その男こそ、ラグナ。ラグナ=アルティ=ブレイズ。
世界最強と謳われる三人の
『世界
『極剣聖』────サクラ=アザミヤ。
『天魔王』────フィーリア=レリウ=クロミア。
『炎鬼神』────ラグナ=アルティ=ブレイズ。
だが、しかし。ある日突然、ラグナ=アルティ=ブレイズは────僕の先輩は、女の子になってしまった。
世界最強、《SS》冒険者、極者────それらがまるで嘘だったかのような。それ程までにか弱い、最弱の
それからの日々は……まあ。説明しようにも、色々あり過ぎて、正直なところ面倒だ。死にもしたし。
とにかく、気がつけば二ヶ月経って。最初は非日常だったのが、いつの間にか日常になっていて。新しい
「おいおいしっかりしろよな、クラハ。先輩として情けねえぞ、その有様」
「……逆に先輩は凄いですね。一体いつの間に、そんなに体力つけてたんですか……?」
「まあな。あんまし俺のこと舐めんなよ?」
「わかってますよ。僕だって、そこまで馬鹿じゃありませんって」
「……どの口が言ってんだか」
だが、この時は考えもしなかった。
この新しい日常通りの日々が────またしても、壊されてしまうことなど。