ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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加筆修正しました。


厄災襲来(その五)

 海は涸れ、地は砕け、空は割れ、命は絶え。

 

 そうして、世は滅ぶ。

 

 滅びを齎すは滅び。等しい五の滅び。

 

 第一の滅び────『魔焉崩神』エンディニグル。

 

 第二の滅び────『剣戟極神』テンゲンアシュラ。

 

 第三の滅び────『輝闇堕神』フォールンダウン。

 

 第四の滅び────『理遠悠神』アルカディア。

 

 第五の滅び────『真世偽神』ニュー。

 

 ()れに記そう、()の厄災らを。

 

 

 

 

 

 以上、『厄災の予言』より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一(ファース)大陸、貿易都市オールティアに続く、西の荒野にて。今、この荒野を進む、一つの影があった。

 

 人間ではない。その影を人間とするなら巨大過ぎるし、そもそも────その影には、()()の腕があった。

 

 左右にそれぞれ四つ。そしてその全ての手に、形や長さや大きさの違う剣を握っていた。

 

「……近い」

 

 影────八本腕の異形が呟く。まるで奈落の底から響いてくるような、恐ろしく低い声だった。

 

「近い、近い。気配が近い」

 

 進む。進む。進む。前へ。前へ。前へ。

 

 ただひたすらに、前へ進む。

 

 目指すは先。遠き、(オールティア)。其処に、その場所に、求める存在(モノ)がいる。

 

 だから、この異形はその歩みを止めない。

 

「我らが主。我らの(はは)────今、御迎えに参ります。我らを創造(つく)りし偉大なる御方よ」

 

 八本の手に持つ、得物を揺らして。異形は進む────と。

 

「……む」

 

 女が。眼前を、一人の女が歩いていた。

 

 軽装、という訳ではないが生地の薄い衣服。さらりと流れるように伸びる、濡羽色の髪。

 

 そして、背負う一本の得物────一振りの、()

 

「おい。そこの、人の子よ。止まれ」

 

 八つの得物の刃先を向けて、異形が声をかける。すると少し遅れて、その女は立ち止まった。

 

「……何か?」

 

 美しい、貌だった。底冷えするかのように、酷く冷たい美貌が、そこにはあった。

 

 それを形容するならば────(さなが)ら、抜身の刃。

 

 小首を傾げるその女に対して、異形が不快そうに言葉をぶつける。

 

退()け。愚劣なる人の子の分際で、我の前を歩くな。せめてもの慈悲に、その命だけは取らないでやろう」

 

「……」

 

 女は、無言で異形を見つめる。その黒曜石のような瞳で、じいっと。

 

 異形が、腹を立てるように八つの得物の刃先を、更に近づける。

 

「我の言葉が聞こえていないのか?退けと言っているのだ。人の子よ」

 

「……一つ」

 

 そこでようやく、女は再び口を開いた。

 

「貴殿に対して一つ、尋ねたいことがあるのだが……よろしいか?」

 

「…………なん、だと?人の子の分際で、我に、物を尋ねたいだと?そんなこと許す訳が「もしだ」

 

 異形の言葉を遮って、女は尋ねる。

 

「その提案を拒否した場合、私はどうなるのかな?」

 

 異形は、なにも答えない。ただ女に突きつけていた得物を遠ざけ、それからゆっくりと、口を開いた。

 

「もういい」

 

 

 

 ブンッ──そして、言うが早いか、八つある腕の一本を振り下ろした。

 

 

 

「愚劣にして矮小なる人の子よ」

 

 

 

 ザンッッッ──数秒遅れて、女のすぐ側の地面が、両断された。

 

 

 

 一瞬にして無数の地層が露出し、永遠に続くのではないかという程に斬撃の傷跡ができていく。

 

「決して許しはしない。決して赦されはしない。我が慈悲を拒絶したこと、後悔するがいい。その最中で、ただ死ね」

 

 八つの得物全てを振り上げ、異形は宣告する。

 

 

 

 

 

「我は『剣戟極神』テンゲンアシュラ。厄災の予言に記されし、滅びの一つ()り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一(ファース)大陸、貿易都市オールティアに続く、東の大森林。今、その上空を飛行する、一つの影があった。

 

 巨大な歯車を背負い、周囲にそれぞれ七色に輝く球体(スフィア)を漂わせ、飛行しながら影は先を進む。

 

嗚呼(ああ)、嗚呼……お待ちください我らが主。尊き主。今、今御迎え致します」

 

 不気味に蠢く外套(ローブ)を揺らして、影は進む。

 

「全てを創造せし御方。全てを生みし御方。今馳せ参じましょう偉大なる我がお「あの」……ん?」

 

 不意に、影は背後から声をかけられ、その場に止まった。

 

 依然周囲の球体を漂わせながら、振り向くと────そこには、一人の少女が立っていた。

 

 不愉快そうな表情を少しも隠そうともしていない、少女だった。

 

 相当上質な素材を使用しているだろう白の外套。そしてその外套と全く同じ、真白の髪。

 

 だがこちらを睨めつける瞳は違い、かなり奇異なものだった。

 

 何せ、驚くことに────()()()()()()()()()()()()()

 

 時に赤だったり、または青だったり。とにかく、その少女の瞳は、複数の色を内包していた。

 

 そんな、他に二つとない瞳を有した少女が、その可愛らしい表情を歪めて、口を開く。

 

「ちょっと邪魔なんで、退()いてくれません?そこ」

 

「……ほう。ほう、ほう」

 

 

 

 瞬間、外套(ローブ)の影が放つ雰囲気が、一変した。

 

 

 

「年端もいかない小娘風情が、この我に対し、物を言う?」

 

 

 

 徐々に、ゆっくりと。周囲の大気が────震え出す。

 

 

 

「面白い、実に面白く……実に愚かで甚だしい。そして酷く傲慢で不遜で、何処までも無謀だ」

 

 

 

 大気の振動の度合いが増すにつれ、歯車を背負った影の周囲に浮かぶ、球体(スフィア)の輝きも増していく。

 

 七色の光を浴びながら、影が激怒のままに喋る。

 

 

 

「不愉快。不愉快、不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快────不愉快だァアアァアァァアァアッッッッ!!!!」

 

 

 

 そして、弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喜べ、不幸なる薄幸の少女よ」

 

 背には、七つの後光。頭上には、銀の輪。

 

 左に純白を。右に漆黒を。四つに対する八枚の翼。

 

 その姿を見た者は、総じてこう呟くだろう────堕天使、と。

 

「その特異なる双眸にて刻むがいい、この姿を。尊き我らが主が創造せしこの、完璧なる姿を」

 

 まるで謳うかのように、影────いや、堕天使は少女に語りかける。

 

「そして聞くがいい。我らが主に賜うた、この名を」

 

 絶大に過ぎる魔力を解き放ち、堕天使は宣告する。

 

 

 

 

 

「我こそは『輝闇堕神』フォールンダウン。厄災の予言に記されし、滅びの一つ形り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、三日前にまで(さかのぼ)る。

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