ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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厄災襲来(その六)

 一日目────第三(サドヴァ)大陸と第四(フォディナ)大陸の僻地(へきち)にて、突如として未知の魔物(モンスター)が出現。同時に周囲一帯の地形を大幅に変えると共に、生育する植物と生息する動物の大半を死滅させた。程なくして、移動を開始。

 

 二日目────出現した二体の魔物は依然移動を続ける。その行先(ルート)から目的地は第一(ファース)大陸であると予測。またこの移動に伴って出された被害は甚大であり、少なくとも両大陸の数十の村や町が壊滅。尚、確認の上では生存者は皆無であるとされる。

 

 三日目────この時点を以て、『世界冒険者組合(ギルド)』はこの二体の魔物を『厄災の予言』に記されし滅びの厄災、『剣戟極神』テンゲンアシュラ並びに『輝闇堕神』フォールンダウンであると認定。以降、二体を二柱と改める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バンッ──大円卓が乱暴に叩かれ、その音が部屋に響き渡る。直後、その暴音に勝るとも劣らない怒声が宙を貫いた。

 

「どう責任を取るつもりだッ!?GDM(グランドマスター)、オルテシア=ヴィムヘクシスッ!!!」

 

 怒声を浴びせてきたその男に対して、一見軍服と見紛う衣服に身を包む、白髪の女性────『世界冒険者組合』三代目GDM、オルテシア=ヴィムヘクシスは。

 

「……」

 

 と、至って冷静に、平然と。生の感情をこれ見よがしに剥き出しにする男とは対照的な、その()せた灰色の双眸から、実に冷ややかな視線を彼に送るだけであった。

 

 無論、そんな態度が火に油を注ぐ結果となるのは火を見るより明らかで。

 

第三(サドヴァ)大陸と第四(フォディナ)大陸の急激かつ歪極まる地形変化に伴う自然環境並びに生態系の破壊!進行上に存在していた町村の(ことごと)くが壊滅!このように『剣戟極神』と『輝闇堕神』による被害は枚挙に暇がないが、何よりも!!」

 

 バンッ──再度、先程よりも更に力を込めて。円卓を叩きつけた男は即座に椅子から立ち上がった。

 

「此度に失われた無数の、尊き人命……ッ!それに対する責任を取らないと決して言わせはしないぞ!!!」

 

 唾が飛ぶのも構わず────どころか、思い切り吐き散らしながら。怒りに身を任せ、委ねるその男を。

 

 オルテシアはやはりというべきか、冷淡な眼差しで以て見上げ。そうして数秒の間を置いた後、ようやく。

 

「ガルロッサ卿。貴方も既に認識済みのことであると思うが、こちらとしても()うに回せる手は回している。各地の復興支援、遺族らへの「金が全てだと思うんじゃあない!!!金などで、命は返らない!!!買えはしない!!!」

 

 満を持してその口を開き、放たれたオルテシアの言葉を。その男────第三大陸の中でも極めて広大な領地を持つ公爵、ガルロッサ=デア=ヴァンキッシュはまさに怒髪天を()く勢いの激情で以て、そう叫び遮った。

 

「第一ッ!そもそもッ!回せる手は回した?回したと言ったか?回したと、あくまでもそう言うのだなッ!?」

 

 ガルロッサはそれだけに留まらない。それだけでこの男は止まろうとしない。彼は殆ど間を置かずに言葉を続けさせ、血走った目を向けながら。

 

「であれば何故最初から『極剣聖』と『天魔王』を討伐に向かわせていないのだ!?ああ、そうか!向かわせようにも向かわせられないな!未だに二人の行方も()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 と、再び沈黙するオルテシアに対して、そう吐き捨てるのであった。

 

 そうまでしてようやく、ようやっと。激しい怒りの感情で真っ赤に染め上がった顔色のまま、肩を僅かに上下させ、息を乱れさせてはいるが。ガルロッサは口を閉ざし、一旦黙り込む。

 

 そうして数秒の静寂が、この大円卓会議室に流れ、漂った後。

 

「言いたいことはそれで終わりか、ガルロッサ卿」

 

 やはりというべきか、依然として平然としているオルテシアは。歯に衣着せぬ調子のままに、ガルロッサに対してそう訊ねるのであった。

 

 数秒、十数秒と。決して短くはない沈黙を経て。徐に、立ち上がっていたガルロッサは椅子に腰を落とし。そして静かに、その口を開かせた。

 

(いささ)か、時期(タイミング)が良過ぎる」

 

 と、何の脈絡もなくそう言って、ガルロッサは更に言葉を続ける。

 

「情報が正確なのであれば、『剣戟極神』は得物の一振りで地も海も空も悉く、その全てを容易く両断し。『輝闇堕神』は人の身では到底、絶対に扱えはしない無数の魔法を縦横無尽に放つ。……そうなのだろう?GDM(グランドマスター)

 

 先程の激昂ぶりがまるで嘘だったかのような、実に落ち着きを払った声音と口調で。試すような眼差しを向けながら、ガルロッサはオルテシアに訊ねる。

 

「間違いない。己が命と引き換えに、得難い情報を遺してくれた斥候たちの魂と誇りに誓い、GDMとしてそれは保証しよう」

 

「そうか。……そう、か……」

 

 オルテシアの返答を受け、最初ガルロッサはそれだけ呟き、その顔を俯かせたかと思えば────小刻みに、肩を揺らし始め。

 

 次第にその勢いが増し、そうして。

 

「ふっ、ははははは!ははははははッ!!」

 

 とうとう、堪え切れなくなったように、ガルロッサは盛大に笑い出した。

 

「……急にどうしたのだ。ガルロッサ卿。気でも触れたか?」

 

 そんなガルロッサを見兼ねて、今の今まで静観を決め込んでいたこの場の一人────ボルバノ=ベットヴェル侯爵(こうしゃく)が、愈々(いよいよ)以てその口を開かせ、彼に訊ねた。

 

「失礼。いやなに、我々が如何(いか)に滑稽だったのかと、改めて実感させられてしまって、ついな」

 

「我々が滑稽とは、藪から棒ではないかガルロッサ。何を以てそう言うのか、貴殿は」

 

 笑っていたのも束の間、ある程度落ち着きを取り戻したガルロッサから放たれたその言葉に、透かさず反応したのは彼と同じく、第四(フォディナ)大陸でも有数の貴族である公爵、ディロ=ミトロ=パシバロで。

 

 その声に僅かな苛立ちをちらつかせるディロに、ガルロッサは少しも彼に顔を向けることなく────

 

 

 

「滑稽も滑稽だろう。何故ならば、最初から、とっくの()うに。すぐ側、どころか懐に入り込んでいた滅びの厄災らに勘づけず、まんまと泳がされていたのだからな」

 

 

 

 ────それがまるで歴とした公然の事実であるかのように、平然とそう言い切った。

 

 瞬間、大円卓会議室が静寂に包まれる。

 

「…………は?いや何言って……」

 

 その決して短くはない静寂を開口して破ったのは、扉のすぐ側に立っていた、護衛の冒険者(ランカー)で。彼は意味不明という心情を(おくび)にも隠さず、その顔と声に表し、思わずといった風にそう呟いていた。

 

 直後、しまったと言わんばかりの焦燥を浮かべ、すぐさま開いた口を閉じた冒険者を睥睨していたディロは。それからゆっくりと、ガルロッサの方へと視線を戻した。

 

「さて。その言について、詳しい話を聞かせてもらいたいな……ガルロッサ=デア=ヴァンキッシュ」

 

 そうして改まった様子で頼むディロに対して────否、この場に集まった十数名の、最低でも伯爵以上の貴族らに聞こえるように。

 

 至極真面目な表情で以て、ガルロッサは話し出す。

 

「同じではないか。得物の一振りで地も海も空も断ち、人の身では扱えない数々の魔法を縦横無尽に放つ。これではまるで、同じではないか……そうとは、思わなかったか?」

 

一々(いちいち)はぐらかすな。言いたいことだけさっさと口に出してくれればそれでいい」

 

 と、顔や声にこそ出さずにはいたものの、苛立ちが如実に感じられる様子で急かすディロに。

 

「それはすまない。ならば単刀直入に言わせてもらおう。『極剣聖』と『天魔王』の二人こそ、『剣戟極神』と『輝闇堕神』だったのだ」

 

 躊躇うこともなければ言い淀むことなく、ガルロッサはそう宣うのであった。

 

「何故第三(サドヴァ)大陸と第四(フォディナ)大陸に姿を現したのか。何故この二柱の出現に差し合わせたように『極者』の二人が行方を(くら)ませたのか。何故我々の総力を以てしても二人を見つけられないのか。何故あの二人はああも人域を逸脱しているのか。……二人の正体が二柱であるのならば、これら全ての疑問に説明がつく」

 

 と、ガルロッサは依然として大真面目に。そのあまりにも飛躍した、お世辞にも論理的とは評せない推論を、この場にいる全員に聞かせた訳だが。

 

 一人は戸惑い。一人は呆れ。一人は痛ましい────各々、大体がそういった表情を浮かべ。しかし、誰一人として口を開こうとはしないでいる最中。

 

「……ガルロッサ。此度の件で妻と娘を失った貴殿の心中は察するに余りあるが、それは「黙れェッッッ!!!!!」

 

 唯一、沈黙を挟んでから口を開き、話し出したディロの言葉を。ガルロッサは先程の激情がぶり返したように怒号を放って遮り、その言葉通りに彼を黙らせた。

 

 瞬く間に血走らせた目を零れ落ちてしまいそうな程見開かせたまま、数秒の間ディロを凝視していたガルロッサだったが。

 

 徐にその目を閉じ、組んだ手の上に額を乗せるようにして俯いた後、ガルロッサは消え入りそうな声を絞り出す。

 

「そうなのか、そうでないのか。この際、このどちらかだけでいい。私はもう、お前の秘密主義にはほとほと疲れ果てた。だから、せめてこれくらいにはきちんと答えてくれ、GDM(グランドマスター)オルテシア=ヴィムヘクシス」

 

 そうして意気消沈、すっかり憔悴し切った様子で訊ねるガルロッサに。

 

「それはない」

 

 質問通り、そうとだけオルテシアは答えるのだった。彼女の返答に対して、ガルロッサが何かしらの返事をすることはなく、彼は顔を俯かせたまま微動だにしなくなってしまう。

 

 そんなガルロッサを見やったまま、徐にオルテシアが呟く。

 

「仮にもしそうなのだとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その発言に対して、数秒遅れてガルロッサは俯かせていた顔を再度上げ、堪らずといった風にその口を開かせる────

 

 

 

「緊急!緊急!!」

 

 

 

 ────直前、その言葉に似つかわしい忙しさと慌ただしさで。叩き(ノック)もせずに大円卓会議室の扉がやや乱暴気味に押し開けられ。続けて、一人の冒険者(ランカー)が中に飛び込んできた。

 

「御無礼を働くこと、お許しください。罰せられるのも承知の上です。しかし、この一報だけは何としてでも……」

 

「気にするな。それでその一報というのは?」

 

 他の貴族らが揃いも揃って非難の眼差しを差し向ける最中、オルテシアだけはそのようなことはせず、あくまでも淡々と事務的に、自ら進んで罰を受け入れる覚悟と共に己が使命を全うしようとする冒険者に対して訊ねる。

 

「たった今、連絡が……『威光の熾天(ゴッドセラフ)GM(ギルドマスター)、ルミナ=ゼニス=エインへリア様から連絡がありました」

 

 と、そこで冒険者は一呼吸を挟んで。それから彼女はこう続けるのだった。

 

「『極剣聖』サクラ=アザミヤ様と『剣戟極神』テンゲンアシュラ、『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミア様と『輝闇堕神』フォールダウン。各々、会敵したとのことです」

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