ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか── 作:白糖黒鍵
青く澄み渡る空に、燦々と輝き浮かぶ太陽。少し暑く感じてしまう陽射しの下、僕ことクラハ=ウインドアは住民たちの心地良い喧騒を聞きながら、オールティアの街道を歩いていた。
あのラディウスでの一件から、早くも一週間が過ぎていた。三日間という短い期間ではあったが、凄まじく濃密な出来事の連続だった。しかし、今思い返せば遠い昔のことのように感じる。
オールティアに戻ってきてからも、忙しい日々が少しばかり続いた。
そうしてようやっと昨日落ち着き、こうしてゆっくりと街道を歩いていられるようになったのだ。……まあ、この後もちょっとした予定があって、集合場所に向かっているだけなのだが。
それはさておき、ギルザに関しての結末も語ろうと思う。結果を先に述べるなら──ギルザ=ヴェディスという男は死んだ。
彼が抱えていた
そして当の本人であるギルザ=ヴェディスだが、『世界
しかし実際には彼が死刑判決を受けることはなかった。何故ならば──そもそもギルザが裁判などにかけられることがなかったからだ。
『たす、たすけっ、助けてくれぇええっ!怖いんだ!怖いんだぁぁっ』
『
『ああ殺されるっ、小僧が来るっ、小僧が殺しに来るぅううぅうううっ!』
……このように、僕に殴り飛ばされ失神し確保された後、意識を取り戻した彼は精神が崩壊していた。常に極度の恐怖を抱え、特に冒険者と聞くと狂ったように喚き回る。誰がどうしようとも、彼は恐慌し続けた。
そんな彼が裁判など到底できる訳もなく、最終的に彼は精神病棟に送られることになった。
そして病棟に送られてから二日後、ギルザは着ていた服を縄代わりに首を吊って自殺した──これがギルザ=ヴェディスという男の、結末だ。
正直に言ってしまえば、こんな結末など僕は受け入れたくない。ギルザには法で裁かれ、正しい方法で罪を償う義務があった。あの男が犯した罪は、あの男の薄汚い穢れた命一つなどで清算できるほど、軽いものではないのだから。
しかし、同時に僕は彼に対して後悔も感じていた。理由はどうであれ、最終的に彼をあんな風にしてしまった原因は、僕に変わりない。自分の行動が間違っていたとは決して思わないが──それでも、複雑な心境だった。
だがもうギルザ=ヴェディスはいない。彼は死んだ──もう、過ぎた話になってしまった。変えようのない過去に対して、今さらどうこう言っても意味はない。
──忘れよう。それでいい。それで、いいんだ……。
そこでギルザに関して考えることに区切りをつけて、僕は街道を歩く。するとしばらくして中央広場にへと出た。
噴水の近く──その場所で、サクラさんとフィーリアさん、そして先輩の三人が待っていた。僕が近づくと、真っ先に先輩が気づいた。
「クラハ!お前遅いぞ!」
内容こそ僕を咎めているが、声音は明るく楽しそうで、その表情は嬉しそうな笑顔である。僕の方へ駆け寄ってくる先輩に続いて、サクラさんとフィーリアさんも歩み寄ってくる。
「おはよう……と言うには少しばかり遅いか。やあウインドア、身体の調子はどうだい?」
「こんにちはですウインドアさん。今日はわざわざ付き合ってくれてありがとうございます」
それぞれ声をかけてくれる二人に、僕は笑顔で応する。
「お久しぶりです、サクラさん。フィーリアさん。僕はこの通り至って元気ですよ。今日はよろしくお願いします」
合流し、一通りの挨拶を終えた僕たちは、このまま街の外──ヴィブロ平原に向かった。
──
風が吹き渡るヴィブロ平原。揺れる足元の草や遠方の木々を眺めて、僕はふと足を止めた。
僕が足を止めたことに気づかず、先を歩く先輩たちの背中を見て、唐突に考えてしまう。
ギルザ=ヴェディス──彼は非常に優れた《S》冒険者であり、少なくともあのような凶行に走る人物とは考えられなかった。しかし彼には周囲の期待に応え続けられる度量が、なかった。その精神も脆く、最後には折れ曲がり歪んで狂ってしまった。
自分が所属していた
冒険者を辞めた彼は裏社会にへと沈み、そしてラディウスにて怪物となってしまった。人の道を外れた、ただの怪物に。
僕はそんな彼と────己を、重ね見た。もし僕も、彼と同じような環境に身を置いていたら、彼と同じような
我ながら馬鹿らしい考えだとは思う。つまらない杞憂だと思う。……それでも、少しは考えてしまうのだ。
ギルザ=ヴェディス。一体どうすれば、彼は救われたのだろう。彼は──折れ曲がらず、歪むことも狂うこともなかったのだろう。
あくまでも、これは僕の憶測に過ぎない。過ぎないが、敢えて言うなら────
「……む?どうしたウインドア。そんなところに立ち止まって」
「そうですよ。早く来ないと置いて行っちゃいますよー?」
「早くこっち来いクラハ!」
僕が立ち止まっていたことに気づき、三人とも振り返ってこちらを急かす。慌てて、僕も駆け出した。
「す、すみません!今行きます!」
…………もう、このことについて考えることも、止めにしよう。何故ならば────
──この人たちがいる限り、僕は歪まないだろうから。