ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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厄災襲来(その八)

「すぐには殺さんぞ、女。我を侮辱した罪は、泰山よりも重く、大海よりも深い。すぐに死なぬよう、その手足を斬り飛ばし、心臓以外の臓物を斬り抜き、最後にその脳天を貫いてくれる」

 

 八本腕の異形────『剣戟極神』テンゲンアシュラは、それぞれ八つの得物を掲げて、目の前に突っ立つ女を見下ろしながらに言う。

 

「見よ、この我が剣の輝きを。この八振り全ての得物は、我らが偉大なる御方により創造(つく)られた、神々しき御剣(みつるぎ)。人の子の血で穢すには全く惜しい代物よ」

 

 だが、と。テンゲンアシュラは再度その全ての得物を、神々しいと自負するその御剣の切先を、女の眼前に突きつける。

 

「それでもお前には使ってやろうではないか。誇れ、人の子風情が、この御剣の穢れとなれることを。そしてこの『剣戟極神』テンゲンアシュラの手によって、欠片程の価値もないその命を摘み取られることを」

 

「……」

 

 しかし、依然として女は呆然としたままだった。

 

 恐怖している────という訳ではない。怯えているという訳でもない。

 

 その瞬間、テンゲンアシュラは感じ取る────この女が、この絶体絶命の状況に対して、特に危機感らしい危機感を抱いていないことに。

 

 そうして気づいてしまう────この女が、この『剣戟極神』テンゲンアシュラに。世界(オヴィーリス)を滅ぼす厄災に、大した関心を向けていないことを。

 

「……散華せよォオオオオオッ!!!」

 

 テンゲンアシュラは考えを改めた。先程、できる限り苦しめて殺すと言ったが、気が変わった。

 

 もはや不快極まるこんな人間(ゴミ)を、一秒でも、一瞬でも、刹那たりともこの視界に収めていたくない。

 

 だから、一思いに────一振りで塵に還すつもりで、八つの得物を振るった。

 

 

 

 

 

 それを見やった女もまたゆっくりと、ぶら下げていた己が腕を振り上げた。

 

 

 

 

 

「『剣戟極神』テンゲンアシュラ」

 

 そこでようやく、今し方宙を薙いだその腕を下ろしながら、女が再び口を開き、八つの得物を()()()()()()()()()()固まっているテンゲンアシュラに告げる。

 

「本音を言わせてもらうと……期待はしたのだがな」

 

 残念そうに。実に残念そうに。

 

 不服そうに。実に不服そうに。

 

 女はこう続ける。

 

「『剣戟極神』とは名ばかりの実力だった」

 

 あと少しで、あとほんの僅かで届く、至近距離で。女の眼前で振り下ろそうとしていた得物を、静止させて。

 

「……な、んだ、と……」

 

 信じられないように。信じ難いように。信じたくないように。

 

「馬鹿な、あり、得ん、こんな、ことは……ことが……!!」

 

 そう、テンゲンアシュラが呟く。その傍らで、まるで硝子(ガラス)(ヒビ)が徐々に走るような、そんな奇妙な音が微かに響く。

 

 

 

 

 

 ピシンッ──そして、静止していた八つの内一つの得物の刃先が、とうとう欠けた。

 

 

 

 

 

 テンゲンアシュラが手に持つ八つの御剣全てに亀裂が走り────そして同時に全てが砕けた。

 

「お、おお……おおお……おおおぉぉおおおおぉぉぉぉぉォォォォォ…………」

 

 倒れていく。『剣戟極神』テンゲンアシュラが、身体を斜めに分断された滅びの一つが、倒れていく。

 

 破片が粉となり、そして宙に霧散する全ての御剣と共に。手足の先から塵となって、風に流されゆく────その光景を最後まで見届けることなく、その女は背を向けて。

 

「……さて。未だ遠いな、目的地(オールティア)は」

 

 と、静かに呟き。そうして何事もなかったかのように、その歩みを再開させるのだった。

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