『厄災の予言』────数ヶ月前、
まあ、書物と呼ばれてはいるものの、たった一枚の紙でしかない。
どれだけ力を込めて引っ張ろうが千切れもせず、火にかけても燃えず、水に浸けてもふやけることがない────そんな紙である。
……もはや紙なのかすら疑わしくなるが、その質感は確かに紙のそれに違いない。
そして、この『厄災の予言』には、その名の通り予言と思わしき文が書かれており、五つの名前が記されていた。
第一の滅び────『魔焉崩神』エンディニグル。
第二の滅び────『剣戟極神』テンゲンアシュラ。
第三の滅び────『輝闇堕神』フォールンダウン。
第四の滅び────『理遠悠神』アルカディア。
第五の滅び────『真世偽神』ニュー。
この五つの滅びこそが厄災であり、世界に
まず、第一の滅びである『魔焉崩神』は既に降臨したが、ある一人の
そして残りの四つの内二つ。第二の滅び『剣戟極神』と第三の滅び『輝闇堕神』。
その二つの滅びもまた、二人の
それぞれ滅ぼした
「……」
三日。あれからもう、気がつけば三日が過ぎていた。
幸い、というべきなのだろう。かけがえのない日常をこうしてまた過ごせている現実に、その事実に。
他の人たちがそうしているように、
僕もまた、それを喜ぶべきなのだろう。
「…………」
けれど、とてもではないがそんな気分にはなれそうになかった。こうして三日過ぎても、それは変わらないでいた。
一体何様のつもりなのかという自覚はある。無論、この命を救われた感謝も。
……だが、しかし。
──死んでいた。僕は、死ぬ筈だった。あの日に、間違いなく。
死にたいは生きたい────その言葉に嘘偽りなどありはしない。本気で、僕はそう思っている。
けれど、それは気概だ。ただの虚勢で、意地を張っていただけの、無力な強がりでしかなかった。
滅びの厄災、それも二柱と相対して。僕なんかが、生き残れる訳がない。
そんな誰にでも、年端も行かない子供だってわかるだろう事実を。
二日前、変わり果てた西の荒野と東の森林を────確かな現実を目の当たりにして、僕は嫌という程思い知らされてしまった。
僕は、弱い。あまりにも、笑ってしまう程の弱者だ。
そして《SS》
そんな当たり前の事実。この
西の荒野と東の森林の惨状が、それを如実に物語り、肯定している。
「…………」
あの光景、あんな有様を。実際に目の当たりにした者が、殆どの者たちは語る────滅びの厄災が、如何に凄まじく、如何に恐ろしいのか、と。
無理もない。地形をああも
……そう。それは全て、
故にだからこそ、僕の頭の中で一つの疑問が浮かぶ────果たして、二柱は
もっと言えば、一体どんな攻撃を受けたのだろうか?
西の荒野と東の森林が受けた被害。それがあくまでも二柱の攻撃による余波であることは明白で、それは疑いようもない。
攻撃するだけで、その余波だけで壊滅的な被害を
だというのに。その筈で、そうなっても仕方ないというのに。
──……何もなかった。
そんな一撃を、滅びの厄災を滅ぼした一撃を。それを放ったことを示す痕跡は、どこにもなかった。少なくとも、僕には見つけることができなかった。
《SS》
その事実が、そんな現実が。大きく、重く、僕の両肩にのしかかってくる。
「……僕は」
僕は弱い。弱い僕は、果たして本当に────
「やあ。調子はどうかな、ウインドア君」
────そうして思考の大海に沈み、あわや疑念の海中で溺れようとしていた僕の意識を、突如としてその声が正気の海上へと引っ張り上げた。
「っえ、あ、は、はいっ?」
柔和で穏やかとしか言いようがないその声で、気さくに軽やかに背後から呼びかけられて。
完全に不意を突かれた僕は、堪らず動揺してしまい。それを少しも隠せていない上擦った声で、慌てて返事をすると同時に振り返る。
いつの間にか、こちらが全く気づかない内に。僕の背後にはこの
──ぁ……。
そして余裕ある微笑みを携える彼の隣には、『大翼の不死鳥』の受付嬢の制服に身を包んだ、先輩が立っていた。