ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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『極剣聖』VS『天魔王』(その八)

 ──……()()()()

 

 薄々、それは自分でも気づいてはいた。

 

 寝台(ベッド)の上、特にこれといって変わりもない普通の天井を見上げながら。

 

 ラグナは独り、まだ酔いが残る頭で、ぼんやりと思い返す。

 

 

 

『であればいっそのこと『影顎の巨竜(シウスドラ)』で受付嬢をやればいいだろうに』

 

『君はもう、元には戻れないのだから』

 

『そもそも、君は元に戻りたいのか?』

 

 

 

 ──……この前までの俺だったら、間違いなくプッツンいってた。

 

 それが今や、()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

 なくなってしまった、と。本来であればそう悔やみ、焦るべきなのだろう────だが、そんな後悔も焦燥も、ラグナは感じていなかった。

 

 あり得ない、あってはならないだろう自分の変化に。流石に困惑はすれど、自分でもどうかと思う程至極冷静に、ラグナは向き合う。

 

 ──俺、どうしちまったのかな。

 

 と、心の中で呟く反面────その答えは出ていた。

 

 

 

『どっちも同じ。同じ、ラグナ=アルティ=ブレイズ』

 

 

 

 その答えが、その全てだ。

 

「……はぁ」

 

 そこまで考え込んで、小休止代わりにラグナは息を吐く。正直、自分だけの問題であればそこまで思い悩む必要はないのだが……。

 

 

 

『先輩を元に戻してみせます』

 

 

 

「クラハにどう言やいいんだっつうの……」

 

 けれど、クラハのことだ。自慢の後輩は、きっと気づいている。この意識の変化を、気取っている。

 

 ただ、クラハはそれを口にしないというだけで。

 

 が、それに対してどう思っているのか、どう思われているのか……そこまでは流石にわからない。

 

「……どう思われてる、か……」

 

 そう呟く傍らで、ラグナは呆然と振り返る。

 

『それに今の俺になら……』

 

 クラハがこちらの変化に気づいているとして。果たして、あの意外にも朴念仁(ぼくねんじん)な後輩は、この言葉の意味も理解しているのだろうか。

 

「…………」

 

 顔が熱い。頭の中も火照(ほて)っている────ラグナとて、これが決して酒気(アルコール)によるもの()()()()()()ことは、流石にわかっている。

 

 ──自分(てめぇ)の言葉に恥ずくなってりゃ世話ねえよなぁ……。

 

 だが、しかし。クラハにとっては必要なことだ。()()()()今のクラハには、絶対に必要なことなのだ。

 

 だからこそ、ラグナはとっくのとうに準備を済ませていた。必要な知識も頭に叩き込んだし、教会にも行った。

 

 後はもう、クラハ次第────こればかりは、クラハが自分でどうにかしなければならない。

 

 そうでなければ、意味がない。

 

 ──……てか。まさかこんな形で、女の身体になっちまったことをありがたがる日が来るとは、夢にも思ってなかったぜ。

 

 と、それを心の中で呟いたのを最後に、ラグナは静かに瞳を閉じ。そうして、己が意識を闇の最中に放るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──……最近、先輩は()()()()

 

 今の今まで、その事実から目を逸らしていた。この現実から、僕は目を背けていた。

 

 だが、それももう限界だ。ここいらで、潮時だ。

 

 

 

 

 

『助けに来てくれて、あんがと。……じゃあな』

 

『……はい。さようなら、ラグナさん』

 

 

 

 

 

 あんな二の舞を踏むのは、二度とごめんだ。

 

 故に受け止め、受け入れる。そうすることで初めて、考えることができる。

 

 ここ最近、先輩は変わった。先輩の意識に、変化が生じていた────そうであると、当人から直接打ち明けられた訳ではないが、あの人の後輩だからこそわかる。わかってしまう。

 

 女の子になってしまったという悔恨も、早く男に戻らなければという焦燥も。今の先輩からは、()()()()()()()()()

 

 その証拠の一つとして、元に戻る為の一環であった特訓の回数が。今や目に見えて減ってきている。

 

 ……まあ、それは時間を取れない僕の方に非があるが。

 

 しかし、それを差し引いても。最近の先輩は以前よりも『大翼の不死鳥(フェニシオン)』の受付嬢として働いていることの方が、多くなっている。

 

 それが少なからず、否応なく、僕に不安を募らせていた。

 

 わかっている。そこまで口を出すのは筋違いであり、先輩の意思をぞんざいに扱うことだというのは、僕だって考えるまでもなくわかり切っている。

 

 だが、それでも……不安になってしまう。

 

 

 

『であればいっそのこと『影顎の巨竜(シウスドラ)』で受付嬢をやればいいだろうに』

 

『君はもう、元には戻れないのだから』

 

『そもそも、君は元に戻りたいのか?』

 

 

 

 ああまで言われたというのに、何一つ言い返すこともせず、無言でいられた先輩の姿を目の当たりにしては。

 

 サクラさんの言葉を肯定するかのような、あんな沈黙を見てしまっては。

 

 どうしようもない程に堪らなく、不安になる────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと。

 

 そう、魔が差すように考えてしまう。考えるように、なってしまう。

 

 ──……僕は、どうすれば……。

 

 無論わかっている。そんなことはないと、決してありはしないと────だが、それでも。

 

 僕の心には、不安と恐怖が巣食っている。

 

「……」

 

 そんな最中、こんな僕に今できることといえば────

 

 

 

『先輩を元に戻してみせます』

 

 

 

 ────なけなしの虚勢でその不安と恐怖をどうにか誤魔化すことくらいものだ。

 

「…………」

 

 けれど、そうやって誤魔化せば誤魔化す程に、酷くなる────

 

 

 

 

 

『……じゃあな』

 

 

 

 

 

 ────喪失への、確信めいた予感。

 

 ──また失う……このままじゃ、僕は、また……失ってしまう。

 

 そう、失ってしまう。絶対にまた、失う羽目になる。

 

 ──僕が()()()()()()……っ。

 

 それはわかっている。痛い程に、苦しい程に、それだけはわかっているのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。では早速始めましょうか」

 

「ああ」

 

 そうして、翌日。

 

 時刻は、正午丁度。天気は、快晴快風。

 

 果てしなく何処までも、青く澄み渡る空の下にて。『極剣聖』サクラ=アザミヤさんと『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミアさんの二人による、先輩を賭けた決闘は。

 

 特にこれといった弊害もなく、実に滞りなく。僕を立会人として、普通に始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、それでとうとうおっ始めた訳だ。『極剣聖』と『天魔王』、世界(オヴィーリス)最強と称される御二方による世紀を揺るがす決闘……いや、これはもう戦争ってのが正しいか?

 

 何はともあれここまでは無事、順調にアンタの思惑通りに事が進んで、こっちとしてもめでたい限りだ。まあそうでなきゃオレは早々に一抜けを決めさせてもらってたよ。

 

 けど、今更ながら本当に大丈夫だったのか?……あ?何がって、んなもん『極剣聖』と『天魔王』を衝突(ぶつ)けたことに決まってんだろ。

 

 こっちだって馬鹿じゃあない。あの二人の戦闘の余波は前の『厄災』共の被害を余裕で上回るだろうことくらいは、そう考えなくてもわかる……最悪の場合、世界(オヴィーリス)の大陸が一つ減ることだって、な。

 

 …………おいおい、そこら辺は本人たち任せだぁ?本気か?本気でそう言ってんのか。……オレもオレで大概だとは思うが、やっぱり狂ってるな。アンタ。

 

 しかしまあ、あくまでも大元(メイン)第二(セトニ)大陸だ。第一(ファース)大陸の稼ぎがなくなったとしても、別に気にするような損は出やしない。

 

 ……あぁ?あー、その話についてはまだ保留だ。既に三割は援助(わた)してんだ、文句を言われる筋合いはねえ。少なくともアンタの夢物語(けいかく)が今よりもずっともっと現実味を帯びてからじゃねえとなあ。

 

 おっと、くれぐれも誤解はしてくれるな?オレだってちゃんと指示通りに動いてるんだからな。あの切り捨て確定済みの哀れな連中にだって金を流してるんだろうが。

 

 ……ああ。それも含めての三割さ。んなの当然だろ。とにかくこれ以上はまだ乗っかるつもりはない。それだけは今の内に伝えておくぜ。

 

 けど、この世界がどうでもいいっていう考えには心の底から同意している。オレだって逝った後の世界なんざどうだっていいからな。どうなろうと知ったこっちゃない。

 

 ……言う必要あるか、それ?

 

 …………………ま、とりあえず応援は引き続きさせてもらうさ。応援は無償(タダ)だからな。オレも流石にそこまでは金に執心してねえ。

 

 という訳でオレはここいらで失礼する。これでもアンタに負けず劣らずに忙しい立場なんだ。そんじゃあ悪運を(バッドラック)

 

 

 

 

 

 (クソ)が。足元見やがって」

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