ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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『極剣聖』VS『天魔王』(その九)

 オールティアからだいぶ遠く離れた荒野にて、その人たちは互いに向き合っている。

 

「さて。では早速始めましょうか」

 

『天魔王』、フィーリア=レリウ=クロミアさん

 

「ああ」

 

『極剣聖』、サクラ=アザミヤさん。

 

 共に世界(オヴィーリス)最強と称され謳われるその二人が今、そうして向き合っている。

 

 そんな人生に一回見れるかないか────で言えば、確実に目にすることはなかっただろうその光景を。

 

 こうして、僕は眺めることができている。幻にでも夢にでもなく、確かな現実として、(しか)とこの目に映せている。

 

 考えもしなかった。想像もしなかった。最強と最強が交わり争い、戦うその時を。

 

 僕なんかが見られる日など、ついぞ思いもしなかった。

 

 ──まさか、本当にこんな……。

 

 と、未だに目の前の現実(こうけい)を。僕はまだ受け止め切れないでいる。

 

「……」

 

 しかしそんな僕とは違って、先輩はこの状況に対して不平不満を溢すことも、ましてや怒りを振り(かざ)す訳でもなく。ただ黙って、静かに見つめているだけで。

 

 そんな先輩の様子がやはり気になって、僕は仕方がなくなる。否応にもなく、胸の内側が騒つき出す。

 

「時間無制限、決着はどちらかが降参の意思を示すか、明確な戦闘不能に陥るまで────で、いいのだろう?『天魔王』」

 

「ええ、ええ。それで構いませんよ。そして負けた方は潔くこの件から手を引く────で、いいですよね?『極剣聖』(サマ)

 

「異議なし」

 

 

 

 が、当の二人はこちらのことなどそっちのけで、自分たちだけで話を進めていた。

 

 天上天下唯我独尊────そんな二人を見ていると、あの姿が脳裏を()ぎる。

 

 その身一つの拳一つで。巨人も魔獣も悪魔も竜種(ドラゴン)も、果てには『厄災』さえも。

 

 殴って殴って殴って殴って、ぶん殴って。そうして(ことごと)くを討ち続けた、あの姿が。

 

 燃ゆる紅蓮が如き赤髪を揺らす、あの姿が────────

 

「……クラハ?いきなりぼーっとしてどうした?」

 

「……い、いえ。ちょっと、懐かしいなって……」

 

 無意識の内に、僕は隣の先輩を見やっていた。懐かしさの裏側に、ほんの少しの寂しさを隠しながら。胡乱げな眼差しで見上げてくる先輩に、僕はそう言う。

 

「そこのお二人さーん?一応、念の為に言っておきますけどー。その先からは一歩も踏み出さないでくださいねー。出たら命の保証はありませんからねー?」

 

 と、そんな僕と先輩に、フィーリアさんは若干間の抜けた緊迫感のない声音で、聞きようによっては脅しにも捉えられる忠告をする。

 

 ──……命の、保証……。

 

 フィーリアさんの言葉は(もっと)もだ。ぐうの音も出ないまでに正しい。

 

 そもそも、今この場に僕がいてしまっていること自体、おかしいことこの上ない間違いなのだ────本当に、一体何故僕なんかが、それも当人たち揃って直々に、立会人として選ばれてしまったのだろうか。

 

 ……そして。

 

「特にブレイズさんは絶対に出ないようにー。いや本当にー。そこでじっと大人しくしててくださいよー?くれぐれもお願いしますからねー」

 

 先輩もまたこの場に居合わせていることも。そして、それは僕にとっては間違っているどころか、もはや許せないでいた。

 

「わぁってるよっ!……ったく、何度も言いやがって」

 

「すみません先輩。彼女の肩を持つという訳ではありませんが……何度だって言いたくなる気持ちは十二分にわかります」

 

 と、怒りを露わにする膨れ顔──正直可愛らしいだけで全く怖くない──を晒す先輩に対して、僕ははっきりとそう告げる。

 

 僕の言葉に、先輩は視線だけをこちらへやり。それから仕方なさそうに嘆息するのだった。

 

「だろうな。お前にも家を出るまで、腹が立つくらいしつっこく同じようなこと言われたし」

 

「当たり前じゃないですか」

 

 そう、当たり前だ。何せ、ここは今から世界(オヴィーリス)でも一二を争う、危険地帯と化すのだから。

 

 そんなところへわざわざ足を運ぶ必要などない。些細な危険すら一つとして入り込む余地のない、安全で安心できる場所で、ただ待っていればいい────それでいいのに、だというのに、こうして先輩は来た。来て、立った。

 

 ……それはもう、性分的に仕方のないことだ。こうなってしまった以上、どうにもこうにもならないことだ。

 

 けれど、だからといって。許容も看過もできよう筈がない。

 

「……先輩、今からでも遅くありません。いや今しかないです」

 

 万が一、億が一ということもあるかもしれない。もし先輩の身に何かあれば、あっては既にもう手遅れ────一時はどうにか抑えられた無数の不安が、またしても一気に溢れ出し、押し寄せ。

 

 そうして、僕は瞬く間に押し潰された。

 

「やっぱり先輩は街に戻って「必要ねえだろ」

 

 不安が滲み、恐怖で震える声による、僕の言葉を。先輩は断じて遮った。

 

「お前がいる」

 

 遮って、揺らぎようがない確固たる信頼の声音でそう言い切るのだった。

 

「…………わかりました」

 

「おう」

 

 悟った────いや、諦めた。もうこれ以上はどれだけ言っても、どうにもならない。

 

『お前がいる』

 

 決して、その信頼が嫌な訳ではない。だが、()()()()()()()()

 

 ──どうして、先輩はどうしてそこまで、僕なんかを……。

 

 正直に言ってしまえば、今それは僕には荷が重かった。

 

 全幅の信頼を寄せてくれる先輩には申し訳ないが、僕には理解できない。どうしても、わからない。

 

 何故、この人はそこまで────一度は裏切られた身にも関わらず、一度は裏切った僕を、そこまで信じられるのだろうか。

 

 ……こうなってしまった以上、今や僕にできることといえば。この先一体何が起ころうと、自分がどうなろうとも。先輩の安全だけは、絶対に守り通して、護り抜くだけだ。

 

 何せ今、この荒野で、目の前で繰り広げられるのは。現代において他に類を見ない、世界(オヴィーリス)最強同士による、決闘なのだから。

 

 何が起きるのかは予想もできないが、何が起きてもおかしくない戦いになることは、火を見るより明らかなのだから。

 

 だから僕は守護を果たさなければならない。たとえフィーリアさんが展開してくれた、破られる想像が全く以て湧いてこない、これ以上になく絶対だと思えるこの魔法の防壁に隔てられているとしても。

 

 そうして、僕と先輩が眺める最中────その時が、遂に始まる。

 

「それでは。いつでもどこからでも、お好きなようにどうぞ」

 

 と、余裕に満ち溢れた。良く言えば大胆不敵で、悪く言えば傲岸不遜な。そんな可憐な微笑みと共に、フィーリアさんはサクラへ言うが。

 

「気前がいいな。だがしかし、先手は譲るよ、お嬢さん」

 

 それに対してサクラさんもまた微笑を浮かべつつ、するりと平気で流すのだった。

 

 まだ顔を合わせて二日しか経っていないが、それでも自尊心(プライド)が高い人間性だということがわかるフィーリアさんにとって。

 

 そんなサクラさんの大人の対応は、さぞかし気に(さわ)っただろう。

 

 事実、フィーリアさんの微笑みが────ほんの僅かに引き攣った。

 

「……そうですか。なら『極剣聖』(サマ)のありがたーいその御言葉に甘えて、遠慮なく」

 

 と、言うや否や。スッと、フィーリアさんが軽く、その手を宙へと振り翳す────

 

 

 

 

 

「そして後悔しやがってください、糞女(マンカス)

 

 

 

 

 

 ────瞬間、この辺り一帯を。球体状の魔力が、一瞬にして、全て埋め尽くした。

 

 ──…………あれ、は…………。

 

 僕には────否、何も僕に限った話ではない。

 

 きっとあの日、あの時、あの場に。居合わせていた者全員であれば、否応にもなく想起せざるを得ないだろう。

 

 (かつ)てオールティアに襲来した『厄災』の一柱────『魔焉崩神』エンディニグル。かの魔神もまた同じような攻撃をしようとしたものだが。

 

 あまりにも、次元が隔絶し過ぎている。フィーリアさんのこれに比べれば、エンディニグルのあれは────児戯の範疇()()()()()()

 

「先輩ッ!!」

 

 そう叫ぶと同時に、僕は先輩を引き寄せ、その小さな身体を覆い隠し。咄嗟に、先輩の耳を手で塞ぐ────直後。

 

 僕の視界が、真白に塗り潰された。

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