ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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『極剣聖』VS『天魔王』(その十一)

「そういう貴女はどうして無事で済んでるんですか?」

 

 という、フィーリアの言葉通り。つい今し方、彼女の魔力によって(ことごと)く抉り吹き飛ばされ、文字通り壊滅の惨状を晒す荒野の大地にて。

 

「……?」

 

 サクラは平然と立っていた。まるで先程の魔力の爆発など知ったことではないとでも言いたげに、怪我どころか衣服に大した汚れ一つとしてない、完全無欠な状態で。フィーリアのすぐ隣に、彼女は立っていた。

 

 フィーリアからの問いかけを受けたが、サクラはまるでその質問の意図が掴めていないように、首を少し傾げる。そんな様子の彼女に、堪らずフィーリアは舌打ちをした。

 

「何すっと()けたアホ(ヅラ)向けてやがるんです?貴女はただ無事な訳を答えればいいんですよ?」

 

 と、苛立ちを少しも隠さずに言うフィーリアに。しかし、それでも尚、不思議そうなその表情を崩さず、サクラがその口を開かせた。

 

「いや……」

 

 そして彼女はこう続けるのだった。

 

「私が無事でなければ、君も無事で済んでいないと思うのだが」

 

「は?」

 

 サクラの返答に対して、低い声でそう漏らすフィーリア。そんな彼女を諭すかのように、ごく当たり前のことを語るように、サクラが言う。

 

「君だって爆発には巻き込まれたくはないだろう?当然、何かしらの対策を取っている筈だ。そんな君のすぐ近くにいれば、自ずと爆発をやり過ごせるだろう」

 

「……」

 

「事実、そうだった。君が無事であるように、私もこの通り無事なのだからな」

 

 確かに。サクラの推察は当たっていた。フィーリアとて、あの爆発の最中にただ身を置けば、当然無事では済まない。

 

 故にフィーリアは前もって()()に立っていた────爆発と爆発が重なり、衝突し、結果生じた衝撃と威力が相殺される、爆発の影響が及ばない安全圏に。

 

 そう深く考えるまでもない、(おこな)って当然の自衛策────それをサクラにこのような形で利用されたのは、フィーリアとしては正直、意外の一言に尽きた。

 

 ──言動に()らず、案外頭が回るなこの人……。

 

 と、心の中ではそう呟きながらも。

 

「じゃあこうすれば問題ないですね」

 

 口にはそう出して、フィーリアは向こうの二人を囲うものと性質は同じ、透明で不可視の魔力の防壁を展開────そして瞬時に、それを薄い膜のように変化させ、自らの身体に纏わせた。

 

 直後、先程も見せたばかりの魔力の球体を。先程よりもずっと、もっと。大量に次ぐ大量の数を、一瞬の内に発生させた────()()()()()()()

 

 そうして今し方破壊の限りを尽くしたこの場はおろか、向こうの地平線にまで渡って埋め尽くしてみせるのだった。

 

「さて。今度はどうやり過ごすのか、これは見ものですね?」

 

 と、他人(ひと)事然とそう呟いた瞬間────生物の目を焼かんばかりまでに眩く、重く厚い光が。弾けて、爆ぜて、溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のすぐ側が安全だから、結果貴女は無事だった。……というのが、先程の言い分ですよね」

 

「そうだな」

 

「では説明してもらえませんか?どうして今度もまた、貴女は無事なのか」

 

「……ふむ」

 

 仮に写真を見せたとして。そこに写る荒野がここであると、一体どれだけの者が把握できるのだろうか。

 

 もはや数えるのが億劫になり、馬鹿らしく思えてくる無数の。何十、何百という年月をかけながら、雨水が溜まればいずれは大規模な湖と化すだろう、巨大な陥没痕(クレーター)。その上に転がり散らばった、荒野を荒野たらしめていた数々の残骸。

 

 もう二度と荒野とは呼べないまでに様変わりしてしまった、この地にて。

 

 その他でもない原因たるフィーリアと。大地をいとも容易く一変させたあの爆撃に晒され、それでも尚衣服含めて全くの無事で済んでいるサクラは。

 

「無事で済む程度のものだったから、無事だった。……という理由では駄目だろうか?」

 

「……」

 

 などと、二人向かい合って立ち、互いにそんな会話を交わすのであった。

 

 少しの間の後、唐突に。(おもむろ)に、フィーリアは手を上げ、サクラの胸の前で(かざ)す。

 

「まあいいですそれで」

 

 そしてフィーリアがそう言った、直後────

 

 

 

 

 

 ドッッッ──突如として、サクラは後方に()()()()()。それも凄まじい勢いで。

 

 

 

 

 

「別にどうってことないし」

 

 と、あの一瞬で遥か彼方にまで遠のき、もう小さな点としか見えなくなったサクラを眺めながら、そう呟くフィーリア。瞬間、彼女もまたその場から()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生物、非生物問わず。とてもではないが無事で済む筈がない勢いで以て、サクラは宙を飛んでいた。

 

 素肌を切り刻まんとする暴風。鼓膜を破り裂かんとする風音────それらを意に介さず、本来であればもう溶け切った何かにしか映らない筈の、目眩(めくるめ)く景色を。

 

 ──面白い景色が続くものだ。

 

 依然として宙を飛びながらに、サクラは楽しんでいた。

 

 そんな最中、これで()()()となる切り立った崖が見え────同時、その崖にサクラは激突する。

 

 そしてこれまでと同じように、崖にサクラの身体が突き刺さり。そうして間もなく、彼女の身体は崖を突き抜けた。

 

 宙を飛ぶその勢いは全く以て衰えず、秒も経たずに今し方突き抜けたばかりの崖を、サクラは遥か後方に置き去りにする。

 

 ぽっかりと空いた穴を起点に無数の亀裂が走り、やがてそれが隈なく広がった時。至るところが欠けて砕けて、重々しい音を立てながら。

 

 瞬く間に崖は崩壊を始め────気がつけば、そこにあるのはもう、大量の岩石と破片による山だった。

 

 崖がそのような末路を迎える頃、サクラはその崖からは(ほとん)ど離れており。そうしてまた、次の崖に彼女が迫っていた。

 

 また一つ、何の罪もない、そこにあっただけの崖が犠牲になる────直前。

 

「さて」

 

 手足はおろか指先一つ震わせることも叶わない、絶対的なまでに強力無比で抗いようもない、その勢いの最中で。

 

 それをまるで感じさせない軽やかさで、何の苦もなく。サクラは身を翻し、身体を回転させ。

 

 ドゴンッッッッッ──そうして地面に着地するのだった。音が轟き大気が震え、サクラの足元が一瞬にして大きく、深々と凹む。

 

 一段、二段、三段────サクラの足元に広がる陥没痕(クレーター)はその規模を増し続け。やがてそれが大穴と化した頃、ようやく止まった。

 

「……どうなってんですか」

 

 と、大穴の(ふち)に立って、一部始終を見終えたフィーリアが呆然と呟く────

 

 

 

 

 

「荒野から少しばかり遠去かってしまった。これではラグナ嬢とあの青年を立ち合わせた意味もなくなってしまうし、ここは休憩がてら、二人揃って戻るとしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 ────そんな彼女の隣で、つい今し方まで大穴の底にいた筈のサクラは平然と、そう提案するのだった。

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