「【
ゴオォッ──一瞬遅れて、放たれる巨大な火球。それは大気を熱しながら、斜線上に突っ立つ一匹のデッドリーベアへ襲来する。
「グオ
そのデッドリーベアは断末魔すら満足に上げられず、ただただ無慈悲にも火球に飲まれ。地面へと着弾すると同時に業火を四方に迸らせ────そうして黒く焼け焦げたその場には、もう既に何もなくなっていた。
「「「ゴアアアアッ!!」」」
すぐ目の前で仲間を文字通り焼き消されたデッドリーベアたちが憤りの咆哮を轟かせ。透かさず仇を討たんと駆け出す────が。
「大人しくなっていろ。【
落ち着きを払ったその声の後に、凄まじい勢いで極太の水流が宙を薙ぐ。地面を深々と抉り、木々を何本も
「助かったわ、アニャ」
「礼には及ばない。見せ場を用意してくれたんだろう?リザ」
と、聞くだけでも親しい仲なのだろうと察せられる会話を交わす二人の女性────リザ=ミルティックとアニャ=ミルティック。
二人は
その中でもエースと謳われ、事実
「ボオオオッ!ヴオオオオオッ!!」
突如、けたたましく咆えながらに。今の今まで茂みに潜んでいたのだろうデッドリーベアが飛び出し。両腕を振りかぶりながら、リザとアニャに襲いかかる。
鋼鉄すらも紙の如く易々と引き裂くデッドリーベアの鉤爪が、陽光を返しながらリザとアニャの命を刈り取る────ことはなかった。
「【
ドォン──何故ならば、宙を貫いたその雷が。瞬く間にデッドリーベアの頭部を塵も残さず消し飛ばしたのだから。
「もう!避ける素振りくらいは少しでも見せてよリザ姉アニャ姉!」
という一言と共に、その場に着地する一人の少女────イズ=ミルティック。他でもない彼女こそが『三精剣』の最後の一人にして、ミルティック三姉妹の末妹。
「その必要はない。自慢の妹がいる」
「いやだとしてもだよ……」
「出来た妹が二人もいて、本当に助かるわね」
「……もう、いっか。うん」
それはそうと、と。先程までの柔らかな雰囲気を幾分か抑えて、リザが
「まさかこうも急に、それも五匹のデッドリーベアに遭遇するなんて。原因は……もしかしなくても、あの嘘みたいな魔力の所為かしら」
つい先程、自分たちも肌で感じ取った魔力の波動────あれは確かに、並いる動物も
無論、それは人間であっても例外ではなく。魔力に敏感な者にとっては劇薬と変わらず、下手をすれば意識も手放してしまうだろう。
「そう考えるのが自然だろう。あのデッドリーベアらは明らかに恐慌していた」
リザの推察を至極冷静に肯定するアニャ。と、その時不意に、黙り込んでいたイズが口を開いた。
「ねえ二人とも。見てよ、あれ」
呆然とした様子で、向こうの空を指差すイズに言われ。リザとアニャの二人も頭上を仰ぐ。
そうしてミルティック三姉妹は見た────天に向かって真っ直ぐ伸びる、炎の柱を。
『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミアは
であれば、もし。
フィーリアが明確な意思を以て、魔法を行使したのなら。果たしてその場合はどうなるか。
その答えは実に明瞭で、
「【
瞬間、宙に翳されたフィーリアの手から。煌々とした赤光を放つ、極小の玉が放たれる。
それは決して速いとは言い難い速度で、未だその場に突っ立つサクラの元へと飛来するも。目前になって、その玉は彼女の足元に落下し。
「ん?」
直後、赤光は炸裂した。
熔ける。全て、何もかもが熔けていく。崖も山も、大地も。纏めて、一切合切熔かされていく。
そうして焼けて
『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミアが明確な己が意思で以て、魔法を行使した時。
「おー、派手にやんじゃん。あのガキ」
声が出なかった。小さな呻き声も、ほんの僅かな掠れ声すらも。全く以て、出せずにいた。
大地が
現実からは遠くかけ離れた光景────だがそれは紛れもなく、どうしようもなく、確かな現実のもの。
その場にいるだけでも瞬時に灰と化し、息をするだけでも肺が焼かれる────早い話、魔力で保護でもしない限り生存などしていられない死地。
それなのに、何故。
「本当に一体どうして、貴女は無事でいられるんだ……サクラさん……!?」
そこでようやっと、僕は声を出すことができた。
それはそうと、このような極限の環境。ただ留まるだけであっても、凄まじく魔力を消耗する。
そしてお世辞にもサクラさんは魔力があるとは、言えない────そう、彼女の魔力は
そんなサクラさんが、ああも。身体や衣服、それだけではなく自分が今立つ足元の地面さえも無事なのは。もう、説明がつかない。その理由を考えることすら、できやしない。
僕が知るそれとは明らかに違う、埒外にも程がある【
それをその身に受けながら、幾つもの崖を突き抜けては崩し、果てにはそれを意に介さず着地し。身一つで落ちたのならまず助からないし、たとえ何かの間違いで命を取り留めたとしても、もはや這い上がることは叶わないだろう大穴を穿った直後、何事もなかったかのようにその大穴から脱出し────こうして思い返すと、この疑問が頭の中で
《SS》
──……失礼極まりないのはわかってるけど。だとしても、とてもそうとは思えない……。
そしてそれはサクラさんと対峙している相手も同じだ。
《SS》
『「
──……考えないようにしよう。
サクラさんとはまた違って意味で疑わしい。そしてそれは僕だって同じだ。
とにかく、もうこれ以上は考えない。……正直、考えたくない。
フィーリアさんから事前に渡されていたこの魔石が発動した【
僕にはそれが、ちっとも想像できない。
眼下に広がる、煌々と眩く輝く灼熱の大地。どんな生物であっても、一瞬たりとて生存していられる訳もないその場に。
サクラは立っている。熱に焦がされることも、浮かされることもなく。涼しげな表情を携え、平然とした様子でそこに立っている。
こちらを見上げるサクラを空高くから見下ろすフィーリアが、徐に呟く。
「【
そうして、
空から海が降り、瞬く間に大地を沈めていく。その様をまるで他人事のように眺めながら、フィーリアはまたも呟く。
「【
直後、大地を沈めた海に一本の雷の柱が突き立てられ──────────
たん、と。浮かんでいた雲が悉く吹き飛んだ空から、黒焦げた地表を剥がされ、一周回って元通りになったかのように錯覚してしまう、少し
「……魔法に関係ないあの爆発にも耐えられる、と。全く、一体何処が人間なんですか、貴女」
呆れ果てながら────それでいて
「心外だな。先程も言ったが、私は歴とした人間さ。ご覧の通りの、ね」
と、この決闘が始まった時から全く以て変わりない様子で、サクラはそう返すのであった。