ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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『極剣聖』VS『天魔王』(その十四)

「まあそれについてはさておくとして」

 

 と、サクラの言葉に対してそう返したフィーリアは。(おもむろ)にその場から歩き出し、どういうつもりか自らサクラの元へと歩み寄る。

 

 そんなフィーリアのことを、サクラは黙って眺める。

 

 そうしてサクラの目の前にまで来たフィーリア。一体何を考えているのか、どうにも読み取れない眼差しを携えながらに、またしても彼女は歩き出す。

 

 ゆっくりと、数秒をかけて。そうやっと、サクラの周りを一周したフィーリアは。そのまま、サクラの元から離れる。

 

 その無防備な背中も、サクラはただ黙って眺めていた。

 

 くるり、と。真白の外套(ローブ)の裾を揺らしながら、その場で回って、そうやってサクラと向き直るフィーリア。彼女の表情は、不服そうだった。

 

 (おもむろ)に、今度は手を宙へやるフィーリア。少し遅れて、閉ざしていたその口を開かせ、彼女が言う。

 

「お飾りですか?貴女の腰のそれ」

 

 僅かな怒気と侮蔑────フィーリアの声音からは、それらが感じ取れた。

 

 唐突に、フィーリアの人差し指の先に火が灯る。それを皮切りに、中指には水、薬指には土、小指には風、親指には雷────そうして、彼女の手に五元の魔力が宿った。

 

 それを不思議そうに眺めるサクラへ、フィーリアは嘆息混じりに、そして仕方なさそうに呟く。

 

「ほら、今だって絶好の機会(チャンス)じゃないです?なのに貴女ときたら得物を抜かずにただ見てるだけ。今までだってそう。躱そうとも防ごうともせず……私の攻撃、一体何だと思ってんですか」

 

 と、下から睨め上げながらにフィーリアは続けた。

 

「ちゃんと戦う気、あります?」

 

 フィーリアの文句は至極真っ当なものである。誰だって彼女の言葉を肯定するだろう。

 

 最初から今この時に至るまで、フィーリアの指摘通り────サクラは己が背負うその得物を、未だ一瞬たりとて抜いてはいない。

 

 それは百歩譲ってまだ良しとしよう。が、得物を抜いていないのと同じように、サクラは防御行動も一切取っていない。

 

 ……だというのに、目に見える怪我はおろか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()────その事実はさておくとして。それでは戦う気があるのかと詰問されるのも当然の話である。

 

「……」

 

 と、一般的な感性を持っている者であればそう苦労せずとも考え至れる理屈。

 

 だが、『極剣聖』サクラ=アザミヤはそうではなかった。

 

「あるよ。でなければこんなことにここまで付き合っていない。君と茶でも楽しむ訳でもないし、何よりもラグナ嬢の為にもね。……しかし、それもここらが頃合いかな」

 

 フィーリアの問いに対してそう答えたサクラは。続けて、依然として仏頂面を向ける彼女へ、こう告げた。

 

「降参してくれないか?フィーリア=レリウ=クロミア。君では私に勝てないよ」

 

 静寂────少し遅れて、信じられないものを目の当たりにしたように、目を見開かせたフィーリアが口を開く。

 

「は」

 

 そして再び、フィーリアは黙り込み、俯いた。そんな彼女に諭すような口調でサクラは言う。

 

「君は(さと)い。故にわかっているのだろう、自分の攻撃では私に刀を「いいです。黙ってください」……む?」

 

 が、それを途中で遮り、俯かせたその顔をフィーリアが上げる────そこにあったのは、感情の失せた無表情。

 

「【召喚(サモン)】」

 

 

 

 ガギィンッ──突如として、耳を(つんざ)く甲高いその音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 果たして、先程まで僕が見ていたあの光景は。本当に、現実のものだったのだろうか。

 

 果たして……現実であっていいのだろうか。

 

殲滅の灼炎(ジェノサイドフレイム)】。【絶撃の奔流(アブソリュートウォーター)】。【暴塵の轟雷(レイジボルト)】────理解はできている。使われた魔法がそれらであることは、判別できている。

 

 だが、僕が知るそれとは全く以てかけ離れていた。

 

 威力と範囲。そのどちらもが、あまりにも埒外で、何処までも馬鹿げていた。

 

 以前、『大翼の不死鳥(フェニシオン)』の来賓室にて疑った。この少女──当人曰く成人はしているらしい──が、『天魔王』と畏怖される《SS》冒険者(ランカー)なのかと。

 

 そんな僕の疑問は今日、完全に瓦解した。

 

 フィーリアさんもまた《SS》冒険者。片手で五元の魔力を造作もなく遊戯(あそび)の感覚で()る、『天魔王』その人なのだと。今日で散々、僕はそう思い知らされた。

 

 そしてあれらの魔法(さいがい)に晒されてもなお、本当にどういう理屈で無事で済んでるのか、全く以て不可解でまともな憶測すらも立てられないサクラさんもまた。どうしようもなく《SS》冒険者(ランカー)、『極剣聖』だった。

 

 ──人間とは、とてもじゃないけど思えない……二人とも。

 

 フィーリアさんの手によるものだろう、投影魔法。これは遠く離れた場所の景色を、それも時間差なく映し出すことができる────これが投影魔法においてどれだけの革命を起こしているのかについては、今はさておくとして。映像自体はああして映せるものの、流石に音までは届けられないようだった。

 

 故にサクラさんとフィーリアさんが一体どのような会話を交わしていたのかは、僕には判断できない。

 

 ただ、フィーリアさんの反応を見る限り……あまり好ましいものではないことは察せられた。そこから大体の内容は、まあ想像できる。あくまでも想像でしかないが。

 

 フィーリアさんは勧告されたのだろう。降参したらどうかと、サクラさんに。

 

 確かにフィーリアさんの魔法は人域から逸脱していた。

 

魔衝(マナ・インパクト)】で人を千里程、幾つもの崖を巻き込みながら吹っ飛ばし。【殲滅の灼炎(ジェノサイドフレイム)】で大地を煮え熔かし。【絶撃の奔流(アブソリュートウォーター)】で空から大海の如き水を降らし。【暴塵の轟雷(レイジボルト)】で全てを蒸発させると同時に爆発させ、焦土を剥がし下の地表を晒し上げた。

 

 まさに神が如き所業。その行いだけを見れば、フィーリアさんこそ────世界(オヴィーリス)を滅ぼす、厄災に相応しい。

 

 が、サクラさんはそれら全てを受け切った。耐え切った。無事で済ませ切ってしまった。そしてこの空前絶後の戦いにおいて彼女は最初からそこに至るまで────一瞬たりとて己が得物たるその刀を、鞘から抜くことはなかった。

 

 

 

 

 

『降参してくれないか?フィーリア=レリウ=クロミア。君では私に勝てないよ』

 

 

 

 

 

 故にきっと、映像が途切れる寸前のサクラさんはそう言った────のかもしれない。これはあくまでも、状況と照らし合わせ事実と()り合わせ、そしてサクラさんの唇の動きから推測した、僕の想像に過ぎない。

 

「なあ、クラハ」

 

 と、そこで今まで黙り込んでいた先輩が口を開いた。

 

「俺たち、ホントにここにいなきゃ駄目なのか?なんか知らねえけどあのガキと女の戦いも見れなくなっちまったしよぉ」

 

「はい。ここが一番安全な以上、外には出ないでください。少なくとも二人が戻ってくるまでは絶対に」

 

「……少しの間でもか?」

 

「少しの間でもです」

 

「…………」

 

 僕に対して、先輩は少し不満そうで、何処か困ったような表情を向けてくる。そんな先輩に、僕は続ける。

 

「退屈なのはわかってます。ですが、今は我慢してください。先輩だって二人の戦いは見てましたよね?次の瞬間、この辺り一面が更地に変えられても全くおかしくないんです。ですので、フィーリアさんが展開したこの防壁を信じて、戦いが終わるまでは出ちゃ駄目ですよ」

 

「……いや」

 

「いいえ先輩。今回ばかりは僕だって譲ら「してぇんだけど」ない……え?」

 

 僕の言葉に被せてそう言った先輩が、もじもじと太腿(ふともも)を擦り合わせながら、再度僕に言う。

 

小便(ションベン)、してぇんだけど」

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