「まあそれについてはさておくとして」
と、サクラの言葉に対してそう返したフィーリアは。
そんなフィーリアのことを、サクラは黙って眺める。
そうしてサクラの目の前にまで来たフィーリア。一体何を考えているのか、どうにも読み取れない眼差しを携えながらに、またしても彼女は歩き出す。
ゆっくりと、数秒をかけて。そうやっと、サクラの周りを一周したフィーリアは。そのまま、サクラの元から離れる。
その無防備な背中も、サクラはただ黙って眺めていた。
くるり、と。真白の
「お飾りですか?貴女の腰のそれ」
僅かな怒気と侮蔑────フィーリアの声音からは、それらが感じ取れた。
唐突に、フィーリアの人差し指の先に火が灯る。それを皮切りに、中指には水、薬指には土、小指には風、親指には雷────そうして、彼女の手に五元の魔力が宿った。
それを不思議そうに眺めるサクラへ、フィーリアは嘆息混じりに、そして仕方なさそうに呟く。
「ほら、今だって絶好の
と、下から睨め上げながらにフィーリアは続けた。
「ちゃんと戦う気、あります?」
フィーリアの文句は至極真っ当なものである。誰だって彼女の言葉を肯定するだろう。
最初から今この時に至るまで、フィーリアの指摘通り────サクラは己が背負うその得物を、未だ一瞬たりとて抜いてはいない。
それは百歩譲ってまだ良しとしよう。が、得物を抜いていないのと同じように、サクラは防御行動も一切取っていない。
……だというのに、目に見える怪我はおろか、
「……」
と、一般的な感性を持っている者であればそう苦労せずとも考え至れる理屈。
だが、『極剣聖』サクラ=アザミヤはそうではなかった。
「あるよ。でなければこんなことにここまで付き合っていない。君と茶でも楽しむ訳でもないし、何よりもラグナ嬢の為にもね。……しかし、それもここらが頃合いかな」
フィーリアの問いに対してそう答えたサクラは。続けて、依然として仏頂面を向ける彼女へ、こう告げた。
「降参してくれないか?フィーリア=レリウ=クロミア。君では私に勝てないよ」
静寂────少し遅れて、信じられないものを目の当たりにしたように、目を見開かせたフィーリアが口を開く。
「は」
そして再び、フィーリアは黙り込み、俯いた。そんな彼女に諭すような口調でサクラは言う。
「君は
が、それを途中で遮り、俯かせたその顔をフィーリアが上げる────そこにあったのは、感情の失せた無表情。
「【
ガギィンッ──突如として、耳を
「……」
果たして、先程まで僕が見ていたあの光景は。本当に、現実のものだったのだろうか。
果たして……現実であっていいのだろうか。
【
だが、僕が知るそれとは全く以てかけ離れていた。
威力と範囲。そのどちらもが、あまりにも埒外で、何処までも馬鹿げていた。
以前、『
そんな僕の疑問は今日、完全に瓦解した。
フィーリアさんもまた《SS》冒険者。片手で五元の魔力を造作もなく
そしてあれらの
──人間とは、とてもじゃないけど思えない……二人とも。
フィーリアさんの手によるものだろう、投影魔法。これは遠く離れた場所の景色を、それも時間差なく映し出すことができる────これが投影魔法においてどれだけの革命を起こしているのかについては、今はさておくとして。映像自体はああして映せるものの、流石に音までは届けられないようだった。
故にサクラさんとフィーリアさんが一体どのような会話を交わしていたのかは、僕には判断できない。
ただ、フィーリアさんの反応を見る限り……あまり好ましいものではないことは察せられた。そこから大体の内容は、まあ想像できる。あくまでも想像でしかないが。
フィーリアさんは勧告されたのだろう。降参したらどうかと、サクラさんに。
確かにフィーリアさんの魔法は人域から逸脱していた。
【
まさに神が如き所業。その行いだけを見れば、フィーリアさんこそ────
が、サクラさんはそれら全てを受け切った。耐え切った。無事で済ませ切ってしまった。そしてこの空前絶後の戦いにおいて彼女は最初からそこに至るまで────一瞬たりとて己が得物たるその刀を、鞘から抜くことはなかった。
『降参してくれないか?フィーリア=レリウ=クロミア。君では私に勝てないよ』
故にきっと、映像が途切れる寸前のサクラさんはそう言った────のかもしれない。これはあくまでも、状況と照らし合わせ事実と
「なあ、クラハ」
と、そこで今まで黙り込んでいた先輩が口を開いた。
「俺たち、ホントにここにいなきゃ駄目なのか?なんか知らねえけどあのガキと女の戦いも見れなくなっちまったしよぉ」
「はい。ここが一番安全な以上、外には出ないでください。少なくとも二人が戻ってくるまでは絶対に」
「……少しの間でもか?」
「少しの間でもです」
「…………」
僕に対して、先輩は少し不満そうで、何処か困ったような表情を向けてくる。そんな先輩に、僕は続ける。
「退屈なのはわかってます。ですが、今は我慢してください。先輩だって二人の戦いは見てましたよね?次の瞬間、この辺り一面が更地に変えられても全くおかしくないんです。ですので、フィーリアさんが展開したこの防壁を信じて、戦いが終わるまでは出ちゃ駄目ですよ」
「……いや」
「いいえ先輩。今回ばかりは僕だって譲ら「してぇんだけど」ない……え?」
僕の言葉に被せてそう言った先輩が、もじもじと
「