ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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『極剣聖』VS『天魔王』(その十五)

「ええ、ええ。貴女の言いたいことはわかりました」

 

 瞳孔が開く透き通るような灰色の左瞳(ひだりめ)と虹色の右瞳(みぎめ)を向けながら、淡々とフィーリアは続ける。

 

「なので。貴女がそういう姿勢(スタンス)を取るのでしたら、私にだって考えがありますから。ああ、ちなみにそれは判定(カウント)しないのでご安心を────剣魔(ヴァルアス)、一分稼いでくださいね」

 

 そしてフィーリアは目を瞑り、息を吸い、声を出す。

 

始元(はじめ)に闇在り」

 

 瞬間、フィーリアの前に魔力が集中し────それは漆黒の球体を成した。

 

 その間、サクラといえば。何の前触れもなく、突如として現れ斬りかかって来た、仮面の男の剣を。ここにきて即座に抜いた刀で以て、確と受け止めていた。

 

 ギギギ──剣と刀の刃が静かに擦れ合い、ほんの僅かな火花を散らしながら。間もなくして、徐々にして両方に赤みが差し、それは瞬く間に濃くなっていく。

 

 やがて擦れ合う刃は互いに眩い程の赤光を灯し、周囲の景色に揺らぎが生じるまでの熱量を放つようになった、その時。

 

 バッ──サクラと仮面の男は、同時に離れた。

 

 ギィン──直後、またしても同時に互いの距離を詰め。再度、それぞれの刃が衝突するのだった。

 

 今度は先程のような競り合いは起きなかった。刀と剣は離れ────瞬間、ぶつかる。

 

 二度三度四度五度────そうして刹那の間に十を越し。更に速度を増す、刃の逢瀬(おうせ)。その度に、火花が咲いては散って、それを際限なく繰り返す。

 

 もはや正確なその数も数えられなくなった頃。一方的に、仮面の男が刃の交じり合いを止めた。

 

「?」

 

 こちらとの距離を取った仮面の男に対して、サクラは胡乱(うろん)げな眼差しを送る。それを彼がどう受け取ったのかは、定かではないが。

 

 ブゥン──突如として宙が歪み。その歪みを破るように、三振りの剣が現れた。

 

 独りでに浮遊し、滞空するそれらの剣は────前触れもなくその切先を総じてサクラに向け。直後、まるで解き放たれたかのように彼女へ飛来する。

 

 キンキンキンッ──三方、それも同時から斬りかかる剣らを。少しの焦燥も垣間見せることなく、サクラは平然と(さば)いて対応していた。

 

 そんな最中、まるで射られた矢の如く、仮面の男がそこへ突っ込む。

 

 くるり、と。刺突を踊るように躱し、群がる剣を(ことごと)く刀でいなし。

 

 身を翻し即座に二の剣戟(たち)へ仮面の男が繋げるも。それにすら、問題なく対応するサクラ────直後。

 

 仮面の男の影が、()()()()()()。そしてそれらは()()()()()()()()

 

 正面と左右と背後、そして頭上────即ち、全方位から。全く同時に、全ての剣の切先が襲いかかる。

 

 もはや躱すのも、防ぐのも不可能な、詰みの状況────

 

 

 

 

 

「ふッ」

 

 

 

 

 

 ────そんな最中で、サクラは短く鋭く、息を吸って吐き。

 

 バゴォンッ──そうして足元を踏み締め。凄まじい破砕音を轟かせながら、一瞬にしてその場に大規模な陥没痕(クレーター)を生じさせ。仮面の男も剣も、何もかもを吹っ飛ばすのだった。

 

 宙を舞う三振りの剣も、影から生じた三人の分身も。まるで溶けるかのように霧散し、消え失せ。吹っ飛ばされて堪らず体勢を崩した仮面の男が、(おもむろ)に地面から立ち上がる。

 

 その一連の流れを、サクラは眺めるだけに留めていた。それが何を意味するのか、仮面の男は理解していた。だからこそ彼は、ゆっくりと地面から立ち上がったのだ。

 

 サクラには終いにするつもりがない────あまりにも致命的な隙を晒していたというのに、彼女はそれを突かなかった。それが何よりの証明である。

 

 そして仮面の男は悟ってもいた────勝てない、と。

 

剣魔(ヴァルアス)、一分稼いでくださいね』

 

 けれど、仮面の男────剣魔にとっては、主人(マスター)厳命(ことば)は絶対であり。故に、退くという選択肢は最初から存在せず。彼はただ、己が得物を宙に翳すだけだった。

 

 この間、三十秒丁度。そうしてサクラと剣魔は再び、見合う。

 

 最初に動いたのは剣魔であった。彼の足元に伸びる影が、不意に蠢いて。そして地面から()()()

 

 剥がれた影は、剣魔の剣に巻きつき、絡みつく────影はやがて、漆黒の刃を成した。

 

 一回り大きさを増した得物────黒剣を構え。先程も見せた刺突の姿勢を取る剣魔。対してサクラもまた、同じく刺突の構えに移る。

 

 一瞬の静寂が過ぎ────二秒後。

 

 

 

 

 

 バギィィィンッ────刹那、サクラと剣魔は交錯し。直後、砕かれた黒剣の破片が宙に舞った。

 

 

 

 

 

「魔なる者の剣、楽しませてもらった」

 

 と、振り向くこともなくそう告げるサクラ。そのまま、彼女は歩みを進める。

 

「世辞は結構。ただひたすらに強き人」

 

 その賛辞に対して、胸に風穴を穿たれた剣魔(ヴァルアス)はそう返し────そして宙に溶けるようにして、その場から消え失せた。

 

 ここまで、四十五秒。剣魔を退けたサクラは、ようやっとその光景を目の当たりにする。

 

 未だ瞳を閉ざしたままのフィーリア。そんな様子の彼女の前には、漆黒の球体が依然として浮かんでおり。

 

 ただ最初と異なるのは、その周囲に赤青茶緑黄────計五色の小さな、けれど熾烈な輝きを宿す球体が新たに浮かんでいた。

 

 それを眺めながら、サクラはゆったりとした余裕のある歩調を崩さず、フィーリアの元に近づく────そして四十九秒。

 

 

 

 

「殺す!」「ころす!」「コロス!」「ころス!」「コロす!」「殺す!!」「殺すッ」「ころす!!!」「コロス!!!!」「殺す殺す殺す殺す殺す」「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」「ころすころすころすころすころすころすころすころすころす」「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」「殺す!ころす!コロス!殺すッ!ころすッ!コロスッ!ころスッ!コロすッ!」「「「「「殺す!!!!!」」」」」

 

 

 

 サクラの頭上の空間が歪み。直後、彼女の視界を巨大な球体状の肉塊が覆い尽くした。

 

 表面の至るところに見られる口から、そんな呪詛を壊れたように垂れ流し続ける、その球体状の肉塊を。無言で見上げるサクラ。

 

 サクラには知る由もない────それが予言に記されし世界(オヴィーリス)を滅ぼさんとした『厄災』の一柱、『輝闇堕神』フォールンダウン。その極災形態(モード)であることを。

 

 呪詛を垂れ、嘲笑を溢す口々から。突如として、数本の手が吐き出され。それら全てが宙を掻きながら一斉に、サクラへ殺到する。

 

 そうして──────────フォールンダウンの肉球(からだ)に一本、線が引かれた。

 

 

 

 ボパ──直後、サクラに殺到していたフォールンダウンの腕もフォールンダウン自体も、何もかも。全てが(ちり)となって、吹き飛ばされた。

 

 

 

「瞬殺ですか。期待はしてませんでしたけど、【破棄召喚(サモン・リミットブレイク)】で幾らか強化してたのに……やっぱり私のこと舐め腐ってたんですね。そんなんだから、勝てた筈の勝負に負けちゃうんですよ。『極剣聖』(サマ)

 

 五十秒。文字通り、フォールンダウンを消し飛ばし、役目を終えた刀を鞘に納めるサクラに、フィーリアは馬鹿にしたような声と笑みでそう吐き捨てていた。

 

 いつの間にか、五つの球体は消えていた。いつの間にか、漆黒の球体は消えていた。

 

 今そこにあるのは────破滅的なまでの極光を迸らせては撒き散らす、純白の大球体であった。

 

「あはっ、私が思っている()()()()()()()()()()()

 

 そしてようやっと、今の今まで閉ざしていたその瞳を、フィーリアは開かせる。灰の左瞳(ひだりめ)と虹の右瞳(みぎめ)を爛々と妖しく熱く輝かせながら、彼女は更に言葉を紡ぐ。

 

終焉(おわり)に光在れ────【七魔滅極(セブンスアルティマ)】ッ!!」

 

 それを合図に、満を持して解き放たれる光球。目にする全ての存在(もの)の視界を灼くそれは、大地を抉り、大気を削り。そうやって、サクラへと迫る。

 

「……」

 

 ()()()()────直感がそう告げる最中、サクラは今し方納めたばかりの刀の柄に手を伸ばし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チン──その音が響く頃には、もう既に光球は()()()()()()()

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