ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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『極剣聖』対『天魔王』——報酬(ラグナちゃん)の処遇

 オールティア。それが、この街の名前だ。

 

 特に田舎でもなければ、かといって都会でもない。そんな中途半端な街。

 

 特筆できるものといえば、この街にある冒険者組合(ギルド)に所属する、一人の冒険者(ランカー)くらいである。

 

 現在この世界(オヴィーリス)に公に確認されている、人知を超越した存在(モノ)たち——Lv100という、人の域から逸脱し得た存在たち。

 

 その存在たちを、僕たちは《SS》冒険者(ランカー)と呼んでいた。

 

 《SS》冒険者は、三人いる。三人と言っても、先ほども言った通り公に確認されている三人である。

 

 その内の一人が——この(オールティア)にいたのだ。

 

 ……だが、しかし。色々と混み合った事情によって、今その人はLv100からLv1になってしまい、しかもどういう訳か男から女の子になってしまった。

 

 まあそれからも色々あってなんとかLvは5までに戻ったのだが——元の100までの道のりは、遥か遠く、尋常でないほどに険しかった。

 

 けれど、それでもその道を踏破しなければならない。

 

 ————それが、後輩たる僕、クラハ=ウインドアの使命なのだから。

 

 とまあ、その話はここまでにするとして。

 

 その人——ラグナ先輩を除いた二人の《SS》冒険者——『極剣聖』と『天魔王』と呼ばれるその二人が、突如としてこの街に訪れたのだ。

 

 サクラ=アザミヤさんと、フィーリア=レリウ=クロミア。それが二人の名前で、そして……少し言い難いのだが、変人であった。

 

 それから詳しい経緯は省かさせてもらうのだが、先輩を賭けて二人は勝負することになり、流れで僕もその戦いを見ることになってしまったのだが。

 

 ————嫌というほど、思い知らされた。彼女たちが、《SS》冒険者なのだということを。Lv100という、人の身でありながら人を超えた、存在を。

 

 とてもではないが、あくまでも自分たちと同じ人間だというのに、それが到底信じられなかった。

 

 もう、あれは——人じゃない。

 

 己の常識をことごとく覆されたというか木っ端微塵に砕かれたというか遠慮容赦なしに圧し折られたというか。

 

 とにかくいかに己がちっぽけな存在で、彼女たちからすればそこら辺に転がる小石と大差ないと認識されているんだろうなとか。

 

 そんなことを考えてしまった僕の心は、瞬く間に言いしれようのない虚無感と、途方もない喪失感で満たされて。

 

 気がつけば、隣のラグナ先輩に励まされながら、僕はその場を後にしていた。

 

 人外による人外のための人外の戦場から、逃げるようにして街に戻って、フラフラとしながらも酒場に転がり込んで、こちらの心身を案じてくれる先輩と、一杯の酒を喉奥に流し込んで。

 

 そうして、情けなく無様に先輩に慰められながら、どうしようもない軟弱野郎の僕は自宅の帰路に着いたのだった。

 

 そして翌朝————先輩の励ましと慰めのおかげもあって、なんとか回復した僕は、取り敢えず自分が所属する冒険者組合『大翼の不死鳥(フェニシオン)』へ向かうのだった。

 

 …………そこに、予想だにしない光景が待っているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 最初、自分は幻覚でも見せられているのかと思った。だがそんな考えは、すぐさま掻き消されてしまう。

 

 ありのまま。ありのまま、今目の前の光景を伝えよう。

 

 周囲の冒険者(ランカー)たちの喧騒に紛れるようにして————その存在(ひと)たちは、

 

 

 

「いやあ、昨日は本当に楽しかったですね!サクラさん!」

 

「ああ。実に有意義な時間だった。あの日のことを、私は決して忘れはしないだろう」

 

「はい!はいはい!私も忘れたりしませんよ!」

 

「できることなら、あの時の高揚をもう一度味わいたいものだな」

 

 

 

 ……その存在たちは、同じテーブルに座って酒を飲み交わしていた。

 

「…………」

 

 その光景を目の当たりにして、唖然とする僕の横で、先輩が言う。

 

「お、お前ら……なんで酒飲んでんの?一緒に」

 

 決して大きくはなかった声量——だが、目の前の二人は即座にこちらにへと振り向いた。

 

 二人——サクラ=アザミヤさんとフィーリア=レリウ=クロミアさんは先輩の姿を見るなり、すぐさまその顔色を変えた。特にサクラさんはアルコールが入っているせいかだらしなく口元が緩んでいる。

 

「お待ちしてましたよブレイズさん!」

 

「おはよう。今日も素敵だね、ラグナ嬢」

 

 言うが早いか、二人は椅子から立ち上がって、先輩の前にまで歩いてくる。

 

「お、俺を待ってた……?」

 

「はい!待ってました!」

 

「ああ、私も待っていたよ。愛しき仔猫ちゃん」

 

 不自然なまでに笑顔の二人が、ポンと先輩の肩に手を乗せる。

 

「実は私たち、考えてたんですよ」

 

「は?」

 

「そう、考えていたのだ」

 

「な、なにを……?」

 

 ビクビクと怯える先輩に、口を揃えて、妙にキラキラとさせた笑顔で伝えた。

 

 

 

「「半分こすることにした(しました)よ」」

 

 

 

 半分こ————そう言われて、まるで意味がわからないというように呆然とする先輩に、二人が続ける。

 

「午前は私がブレイズさんを」

 

「午後は私がラグナ嬢を」

 

 目も眩むような笑顔を以て、再び彼女たちは口を揃えた。

 

 

 

 

 

「「自分の好きにしてもいい、ということで話をつけ(ました)た」」

 

 

 

 

 

 …………傍から聞いていれば、それはとんでもなくとんでもない発言で。

 

 そこに先輩の意思を尊重することはなく。完全に自分たちの勝手で進めている。

 

 ——………………これが、《SS》冒険者。

 

 

 

 

「は、はあ!?ふざけっ…!」

 

「さあブレイズさん。大丈夫、酷いことはしませんよお。ちょっと調べるだけですから。ちょっと色々調べるだけですからぁ!」

 

「そしてその後は私とお茶をしよう、ラグナ嬢。それから君に似合う服を見繕おうな?」

 

「い、嫌っ——くらはぁ!!」

 

 いつの間にか二人に挟まれ、連行されようとしている先輩が、涙目になってこちらに手を伸ばしてくる。

 

 目の前に差し出されたその手を、反射的に掴もうとして————

 

 

「「ウインドア(さん)?」」

 

 

 ————同時に、サクラさんとフィーリアさんが笑顔を向けてきた。依然変わりのない、不気味なくらいに和かな笑顔を。

 

「……………………」

 

 その笑顔の前に、僕は黙って腕を下ろすしかなかった。

 

「ふぇ!?ちょ、クラハ!?」

 

「…………すみません先輩。無力な、僕を許してください……!」

 

「お、お前っ————この裏切り者ぉ!!」

 

 先輩が二人の《SS》冒険者によって連行されていく——その光景を、僕はただ見送ることしかできなかった。

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