ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がただのクソ雑魚美少女になった話──   作:白糖黒鍵

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ラグナちゃん危機一髪?──魔力だからお漏らしじゃない

「いやあ、本当にすみませんね。突然急に。それもこんな朝早くから」

 

 皆目一番。僕と先輩を呼び出したフィーリアがそう言って、軽く頭を下げる。そんな彼女に対して、僕は少し慌てながらも言葉を返す。

 

「べ、別に謝ることはないですよフィーリアさん。僕たちも用事があると言えばありますけど、そう大したものでもないですし」

 

「おう。俺も特に気にしねえぞ。……それに、お前にはもっと酷いこと前にされてるしな」

 

 後半部分に僅かばかりの棘を垣間見せながらも、概ね先輩も僕と同じような態度である。そんな僕ら二人に──というよりは先輩に向けて、フィーリアさんは苦笑を浮かべる。

 

「そう言ってくれると助かります……ブレイズさんに関しては、その節はどうもすみませんでしたと言う他ないですね」

 

 そう言って、こほんとフィーリアさんが息を整える。それから彼女はやや神妙そうな顔つきとなった。

 

「さて。わざわざホテルにまで来てもらいましたし、これ以上立たせるのは申し訳ないので、どうぞ中へ」

 

「はい。……えっと、失礼します」

 

 そうして、フィーリアさんに案内されるがままに、現在彼女が宿泊するこのホテル──『旅人の安らぎ』の特等級の一室に、僕と先輩は足を踏み入れることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──これ、は……。

 

 フィーリアさんが泊まるこの部屋に入って、僕はすぐさま呆気に取られてしまう。何故なら、部屋の状況が僕の予想、というか常識?と言えばいいのだろうか。まあとにかく、それらを覆すものだったからだ。

 

「……なんだこりゃ。凄え……な?」

 

 先輩の様子も僕と同様だった。この人がこんな風に困惑するのは珍しい。しかし、これ(・・)を目の当たりにして、困惑するなというのが無理な話だろう。

 

 端的に言うのなら──魔石だらけ(・・・・・)だった。床も壁も、天井もそして窓の方にも。どこを見回しても、大小無数の魔石が、部屋のそこら中に生えていた。

 

 呆然とする僕と先輩に、少し気恥ずかしそうにしながらフィーリアが説明する。

 

「それらの魔石に関しては気にしないでください。それと……できるだけ見ないでもらえると助かります。……その、なんていうか……私からするとちょっと、いえ結構恥ずかしいものなんで」

 

「わ、わかりました。……フィーリアさん、これは一体……?」

 

 少し申し訳ないと思いながらも、僕はこのそこら中から生え出している魔石に関して、とてもではないが訊かずにはいられなかった。僕の質問に対し、フィーリアさんは若干渋りながらも、答えてくれる。

 

「え、えっとですね。えーっと……私、他の人よりも魔力が多くて、それで……週に一回か二回、寝てる時とかぼーっとしてる時とかに、過剰になった魔力が……そのぅ…………も、漏れちゃって……結果こうなるん、ですよね……はは」

 

 そう言い終えて、誤魔化すように笑うフィーリアさんの顔は、赤く染まっていた。普段の飄々というか、余裕に満ち溢れた彼女が、少なくとも浮かべそうにない、羞恥の表情となっていた。

 

 ──この人もこんな顔するんだな……。

 

「……す、すみません!本当にすみません!そんなこと説明させてしまって……」

 

 心の中でそう思いながらも、僕は慌てながらもすぐさま彼女に向かって頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。述べながら、いかに自分にデリカシーというものがないのかと、己を叱咤する。

 

 確かに、フィーリアさんがこの魔石を見ないでほしいとこちらにお願いする訳である。僕たちからすれば、ただ魔石がそこら中から生えているだけにしか見えないが、彼女からすれば、これらの魔石全ては────

 

 

 

「ふーん。要はフィーリアが漏らした跡ってことか。これ全部」

 

 

 

 ────絶対に口に出して言ってはいけないことを、先輩が口に出して言ってしまった。心ない先輩のその言葉に、ビクッとフィーリアさんが身体を跳ねさせる。そして慌てて僕が先輩に注意するよりも早く、彼女はその口を開いた。

 

「ちッ、違いますぅ!おしっ…………お、お漏らしなんかじゃありません魔力ですぅ!これは魔力だからお漏らしにならないんですぅ!私はお漏らしなんかしてないんですぅ!!」

 

「フィ、フィーリアさん……」

 

 普段の様子など彼方に放って。もはや炎上するのではないかというほどに顔を真っ赤にして、必死になってフィーリアさんはそう先輩に訴える。そんな彼女の様子に、流石の先輩もたじろいでしまう。

 

「お、おう……わ、わぁったよ。……なんか、ごめん」

 

「わかればいいんですよ、わかれば……全くもう」

 

 無意識なんですから仕方ないじゃないですか──そう付け加えて、フィーリアさんは嘆息する。……僕としては、この数分で彼女に対して抱いていたイメージだとか、雰囲気だとか……まあ、そういった諸々のものが、こう……崩れてしまい、呆然とする他なかった。

 

 口も開けず黙る僕と、気まずそうに口を閉ざす先輩に。フィーリアさんが言う。だが、その言葉は────

 

 

 

「せっかくブレイズさんのLv(レベル)も、性別も元に戻してあげようと思って呼んだのに……」

 

 

 

 ────あまりにも、衝撃的なものだった。


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