ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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先輩の『あの』日——始まりの、ちょっとした違和感

 ——どうして、こうなった………?

 

 馬鹿みたいに早鐘を打ち続ける心臓の鼓動が痛い。炎上でもしているかのように顔が熱い。

 

 今、この時この瞬間。僕は——クラハ=ウインドアは、二十年歩んできた人生の中で、恐らく一番であろう窮地に立たされていた。

 

 ——僕がなにしたっていうんですか………『創造主神(オリジン)』様………。

 

 この世界(オヴィーリス)を創り上げた存在(モノ)に対して、僕は心の中で恨むように呟く。

 

 ——……誰か、助けてくれ………!

 

 留まることを知らず昂り続けていく感情を必死になって抑えながら、寝台(ベッド)の中で僕は祈る。

 

 

 

 自分の背中に押しつけられた、柔らかな先輩の胸(・・・・)の感触を、味わいながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは、今朝だった。なにも変わりはない、平穏な朝——日常(いつも)と同じような朝だったんだ。

 

「塩は……うん、丁度良い。えっと胡椒はっと……」

 

 呟きながら、僕は戸棚にある調味料置き場を片手で探る。その間も熱しているフライパンへの集中は途切れさせない。

 

 日常通り、僕は先輩よりも早く起きて、朝食を作っていた。今日のメニューはベーコンエッグとパン、それと簡単なサラダだ。

 

「……あったあった。けど量が少ないな……今日買いに行こう」

 

 フライパンの中のベーコンエッグに、手に取った胡椒を適度に振りかけていく。

 

「これくらいでいいかな」

 

 焼き加減を見て、そう判断した僕はベーコンエッグをフライパンから、予め用意しておいた皿にへと移す。

 

 プルンと半熟気味に仕上げた黄身が揺れる。我ながら美味しそうである。

 

 既に二人分のサラダとパンが用意されたテーブルにへと、その皿を運び、そしてゆっくりと慎重に置いた。

 

 ——そろそろ先輩が起きてくる頃合いだな。

 

 そう思った矢先、階段を降りる小さな足音が聞こえてきた。そして、

 

 ギィ——そんな音を立てながら、リビングの扉が開かれた

 

「おはようございます、先輩。朝食できてますよ」

 

 言いながら、扉の方へ顔を向ける——そこに立っていたのは、もう今では見知った寝間着姿の、先輩である。相変わらず、今日もぴょんぴょん元気にあちこち髪が跳ねている。

 

「…………おはよ、クラハ」

 

「……?え、ええ。おはようございます先輩」

 

 先輩のその挨拶を聞いて、僕は真っ先に違和感を覚えた。

 

 言葉の内容こそ日常と変わりないのだが……今日は、明らかに覇気が感じられないというか、髪の跳ね具合に反して元気がないというか。

 

 ——それに、なんか怠そう……?

 

 ふあぁ、と。あくびを漏らしながら、先輩は椅子に座る。依然違和感を感じながらも、僕も椅子に座った。

 

「じゃあ、いただきましょう」

 

「おう……」

 

 ————今思い返すと、この時の先輩の様子について、深く考えなかった自分を殴り飛ばしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を済ませ、身支度を整えた僕と先輩は、そのままLv上げ——ではなく、『大翼の不死鳥(フェニシオン)』にへと赴いていた。

 

 その理由は、グィンさんに会うためである。

 

「早朝からすみません、グィンさん」

 

「別に大丈夫だよウインドア君。こう見えても最近暇だからね——それで、今日はどうしたのかな?」

 

 応接室にて、僕とグィンさんは会話を始める。先輩といえば、やはり気怠げというか、何処か上の空というか。ぼうっとしながら、休むようにして椅子に座っていた。

 

 そんな状態の先輩に僕も少なからず心配を覚えたのだが、ここに来る際先輩に尋ねると、「大丈夫だ。心配すんな」の一点張りで、それ以上深く入り込んで尋ねると、不機嫌になりそうだったので、仕方なく納得し、尋ねるのを止めた。

 

 

 

 ……今思い返すと、本当にこの時の自分をぶん殴りたい。

 

 

 

「ふむ。ブレイズ君のLv上げに関して、アドバイスがほしい……か」

 

「はい。グィンさん、なにか良い方法とか知ってますか?」

 

 先週訊こうと思っていたが、とにかく色々あって今日まで訊けずにいたこと。

 

 まあ先輩の場合、やはりパワーレベリングしか取れる方法がないと思うのだが……。

 

 それでもこの人ならなにか別の方法を知っているんじゃないかと思い、グィンさんに訊いてみた所存である。

 

「んー……」

 

 するとグィンさんは指を顎に押し当て、数分考え込んだかと思うと、僕を試すような笑顔を浮かべて、こう言ってきた。

 

「ウインドア君。時に、君はこんな噂を聞いたことはあるかい?」

 

「え?噂、ですか?」

 

 僕がそう訊き返すと、グィンさんは頷きながら続けた。

 

 

 

「『ヴィブロ平原』に潜む、伝説のスライムの噂だよ」

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