『
だがここ数年で急激な拡大を経た結果、今や
おかげさまで最近、『蒼海の救世』には黒い噂が絶えない。やれ港町を占拠して住民全員を信者にしただの、やれ孤島を拠点に大海の邪神復活の儀式を着々と進めているだの。
「……」
本音を言えば、根も葉もない信憑性皆無の噂であってほしかったところだ。
『極剣聖』────サクラ=アザミヤ。
『天魔王』────フィーリア=レリウ=クロミア。
ひょんなことから激突した二人の《SS》
「やあ」
サクラさんが来た。何の前触れもなく唐突に、僕の自宅に。
「……サ、サクラさん?」
予想だにしていないまさかの来訪に、呆気に取られて固まるしかないでいる僕に。微笑みを携えながら、サクラが言う。
「話をしよう、青年」
「え?話ですか?」
「では行こうか」
「えっ?ど、どこにですか?」
そうして、訳もわからないままサクラさんによって連れ出された僕だが。
「ここは……」
サクラさんに連れられて、向かった先はというと。
中へと進み、またもそのままサクラさんに連れられ、最終的には数多く存在する客室の内の一つ、その扉の前に辿り着いたのだった。
「さ、入ってくれ」
「え?」
「入るんだ、青年」
「……わ、わかりました……」
何故早朝にわざわざ僕の自宅にまで迎えに来たのか、どうして僕なんかを自分が泊まる宿屋に連れてきたのか、そもそもどんな目的があったのか────そういった諸々の疑問をぶつける余地も余裕もなく。
ただただサクラさんの為すがままに部屋の中にまで、当然のように通された僕が、その時目にしたのは────
「…………おかえり、なさい、ませ」
────と、全く使い慣れていないことが一発で看過できる、あまりにも
──…………は……?
己の中で時が止まっていたことを、僕が自覚するのとほぼ同時。薄らと頬を赤らめる先輩が、僕の背後に立つサクラさんを睨んだ。
「おい」
「
「聞いてた話と違うじゃねえか。興奮するどころかボサっとしちまってんぞ、クラハ」
睨んで凄んで見せても、まるで小動物の威嚇としか思われない先輩が不憫でならない。……僕も右に同じであることはひた隠そう。
まあそれはさておき。こちらからすれば不透明極まりない非難をぶつける先輩に対して、綻んだ表情から一転、不可解さを滲ませる訝しげな表情に変え、サクラさんが静かに呟く。
「ふむ、おかしいな。破れん……
という、若干偏見が混じる意見を溢すサクラさん。そんな彼女に、胡乱げな眼差しを向けながら、先輩が訊ねる。
「つまり?」
「青年の嗜好に侍女はなかった、ということさラグナ嬢。こんな不甲斐ない私ですまない……」
「ふっざけんなっ!!じゃあ俺は何の為にこんな馬鹿みてえな格好したんだよっ!?」
項垂れるサクラさんと怒る先輩、二人を交互に見やりながら。何が何やら全くわからないでいる僕はただ、苦笑いを溢す他になかった。
──というか先輩、この三日間サクラさんの侍女やってたのか……。
遡ること三日前、突然少しの間家から離れると言って。詳しい説明もないままにそれなりの荷物を持って、先輩は僕の自宅を発った。
てっきり『
それで思わず不安に駆られた僕はグィンさんに訊くと、先輩はサクラさんの元にいるのだと彼に教えられた。
『その代わりと言ってはなんだが……後日、私に付き合ってほしい』
そこで僕はサクラさんの言葉と、最初こそ先輩は断ろうとしたが、彼女に何か吹き込まれ、最終的にはその提案を受け入れたことを思い出した。
まあともかく、サクラさんの元にいるのであれば、とりあえず危険な目には遭わないだろうと────燻る己をどうにか宥め、僕は先輩が戻るのを待つことにした訳だが……。
「その、先輩。今更なのは承知の上なんですが、少しの説明くらいはしてほしかったです」
「あぁ?あー……悪い。でもクラハならあまり話さなくても平気だと思ったんだ」
「それでも、です」
言いながら、僕は改めて先輩の姿を眺める。……見れば見る程、僕が知る
方向性としては『
大胆に開けた胸元。危うい程に丈が短い
……そう。
──こんな服を着せられて、三日、サクラさんと……。
正直に言えば思うところはある。サクラさんに対して無視できない、胸の
わかっている。僕がサクラさんに対して文句を言う筋合いがないことは。彼女はただ、正当に報酬を受け取っただけだ。
先輩からの了承も得た上での、正当な報酬である。
だから、僕がどうこう言うのも、思うのも。もう、今更の話でしかない。
譲らなければ、奪われなかった。