ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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先輩の『あの』日——混ぜるな危険な二人

 グィンさんと別れ、僕と先輩は『大翼の不死鳥(フェニシオン)』のロビーへ戻った。

 

「……ん?」

 

 なにげなく、ふと依頼看板(クエストボード)の方へ視線をやると、つい最近見知った二人がその前に立ち、看板(ボード)に貼られている数々の依頼(クエスト)を、揃って難しい顔で眺めていた。

 

 二人——先日、この街(オールティア)を防衛するために『輝牙の獅子(クリアレオ)』と『影顎の巨竜(シウスドラ)』から、こちらに派遣されてきた冒険者(ランカー)——サクラ=アザミヤさんとフィーリア=レリウ=クロミアさんである。

 

「おはようございます。サクラさん、フィーリアさん」

 

 僕がそう挨拶しながら近づくと、またも揃って二人はこちらに振り返った。

 

「ウインドアか。それにラグナ嬢も。おはよう」

 

「こちらこそおはようございます。ウインドアさん、ブレイズさん」

 

 彼女たち二人は、ただの冒険者ではない。この世界《オヴィーリス》に、僕を含めた星の数ほど無数に存在する冒険者たちの中でも、特別中の特別。異例中の異例。一つにして一つとない、まさに特出した、決して抜かれることのない、一つの個。

 

 

 

 僕たち常人では決して到達し得ない、踏み得るのことのない、人族(ひと)としての極致に、辿り着いた存在(モノ)

 

 Lv100——人の身でありながら、人ならざる存在の境地に至った彼女たちは、《SS》冒険者(ランカー)と呼ばれている。

 

 

 

 ……なお、余談ではあるのだが、実は二人の他にももう一人の《SS》冒険者がいるのだが、今は入り組んだ複雑な事情で、一時期最弱(スライム)よりも最弱となってしまい、その輝かしい称号を剥奪されてしまった。

 

 つい最近ようやくスライム相手にも辛勝できるようになったので、最弱よりも最弱という不名誉極まりない汚名(レッテル)はなんとか剥がせたが。

 

「どうしたんですか、お二人共依頼看板なんか眺めて……なにか気になる依頼でもあったんですか?」

 

 僕がそう訊くと、二人は小さく首を振って否定する。

 

「暇だったのでな、なにか手応えのある依頼はないものかと探していたのだが……」

 

「ありません、ね。一応まだマシかなってものはいくつか見繕ったんですが」

 

 そう言いながら、僕の方にフィーリアさんが数枚の依頼書を見せてくる。

 

 

 

『〝殲滅級〟シデンワイバーン討伐依頼』

 

『〝殲滅級〟デッドリーベア討伐依頼』

 

『〝絶滅級〟『灰燼』フレイソル=クロナガンド討伐依頼』

 

 

 

 ——……え?

 

「こ、これ全部がまだマシ……なんですか?」

 

「ああ」「はい」

 

 さも当然のように頷く二人に、思わず僕は頭を抱えそうになってしまった。

 

 ——どんだけ……常識外なんだよ、この人たちは……!!

 

 一応説明すると、先ほどフィーリアさんが見せてきた依頼は、そもそも二人でやるような代物ではない。

 

 僕たち《S》冒険者——それも選りすぐりに選りすぐった冒険者十数人(・・・)でやらなければならないものだ。

 

 そもそも、魔物にはそれぞれの『危険度』というものがある。

 

 字を読んでの通り、如何にその魔物が、僕たち人間から見て、どの程度危険なのかを表したものだ。

 

 スライムやゴブリンなどの、大して危険になり得ないだろう魔物は〝微有害級〟

 

 ロアーウルフやバンデッドコボルトなどの、決定的ではないが確かな危険になる魔物は〝有害級〟

 

 まだ年若い(ドラゴン)種やそれに匹敵する、状況によっては無視できない危険である魔物は〝撲滅級〟

 

 村や小さな街一つ程度ならば、即座に地図上から消せる、優先討伐令が下されるほどの危険を誇る魔物は〝殲滅級〟

 

 そして、その〝殲滅級〟を遥かに超える、放っておけば致命的な被害を齎らすことは確実であろう、悠遠の時を生きた魔物は〝絶滅級〟

 

 というような感じで区分けされているのだ。特に〝撲滅級〟からは基本的に《B》ランク以下の冒険者が遭遇した場合、即時撤退という決まりになっている。

 

 〝撲滅級〟だと、《A》冒険者数十人かがりで挑んでようやく討伐できるほどで、《S》冒険者であれば二人いれば充分だろう。

 

 〝殲滅級〟だともはや《A》冒険者など話にならず、確かな実績と実力を持つ《S》冒険者五人で挑むことが推奨されている。

 

 そして〝絶滅級〟になると《S》冒険者であっても有象無象では歯が立たず、世界でも有数の、それこそ名の知られている《S》冒険者が十数人で挑んで、勝てるかどうか。

 

 その中でも、彼女たちが選んだ依頼は最上の最上に位置する難易度である。

 

 シデンワイバーンは雷を自由自在に操り、凄まじい速度で空を駆け、その姿を捉えるだけも困難。

 

 デッドリーベアはその動きこそ遅いが、その豪腕から繰り出される一撃はまさに必殺で、また身体を覆う毛皮は鉄と比べても遜色ない防御力を誇る。

 

 そして最後の〝絶滅級〟——フレイソル=クロナガンドは二つ名持ちの火竜で、『灰燼』の名の通り、その視界に映る全てを灰に還す。

 

 フレイソル=クロナガンドを討伐できるような《S》冒険者など、恐らく指で数えられるほどしかいないのではなかろうか。

 

 ——『鋼の巨人(メタイツ)』のガラウ=ゴルミッド、『虹の妖精(プリズマ)』の三精剣……僕が知っている中だとこれくらいじゃないかな……?

 

 とにかく、僕ではまず相手にならない。

 

 それに、たとえそれら超一流の《S》冒険者がチームとなって挑んだとしても、少なくとも三日三晩を跨ぐ死闘になること間違いなしだろう。

 

「シデンワイバーンやデッドリーベアはともかく、『灰燼』の方はどうでしょう?」

 

「ふむ。一秒持つかどうかだな……」

 

 …………間違いなし、だろう。

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