ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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先輩の『あの』日——強情な嘘。弱い本音

「「伝説のスライム?」」

 

 その声音こそ違えど、込められた感情や響きは全く同じに。サクラさんとフィーリアさんは揃ってそう口に出した。

 

「はい。といっても、グィンさんからの言伝ですけどね」

 

 あの後、終始見繕った依頼(クエスト)書を依然気難しい表情で眺め、やれどうすれば長く楽しめるだのやれどこまで手加減すればいいのだのと、傍から聞いているだけで卒倒しそうになるような相談を繰り返す二人を見兼ねて、僕は先ほどグィンさんから聞いた伝説のスライムとやらの噂を教えたのだ。

 

「伝説のスライム……私も初めて聞きましたね」

 

「ああ。私も生まれて此の方、そんなスライム見たことがないな」

 

 ——《SS》冒険者(ランカー)ですら聞いたことも見たこともないのか……。

 

 虹色に輝く伝説のスライム——果たして、本当に実在するのだろうか?

 

 そう思いながらも、僕はつい、半ば冗談のつもりで言ってしまった。

 

「そんなにお暇を持て余しているのなら、僕と一緒に探しませんか?伝説のスライム——なんて」

 

 すると——《SS》冒険者の二人は、

 

 

 

「良いですね。探しに行きましょうウインドアさん!」

 

「確かに、これらの依頼よりもその伝説のスライムとやらを探す方が楽しそうだ。喜んで付き合うよ、ウインドア」

 

 

 

 予想外の食いつきを見せた。

 

「え?いや……そ、そうですね。じゃあ是非お願いします」

 

 ——なんてこった……まさか、本当にいるかどうかもわからない伝説のスライム探しに、《SS》冒険者の二人を付き合わせることになるとは……。

 

 やはり、慣れない冗談など言うべきではないな——と、少し心の中で後悔しながらも、ふとそこで先輩のことを思い出した。

 

「す、すみません先輩。僕の勝手で……」

 

 周囲を見渡すと、すぐ近くの椅子に先輩は座っていた。……ただ、明らかに様子がおかしかった。

 

 顔を俯かせて、荒く呼吸を繰り返しているのか、先ほどから(しき)りにその肩を上下させており、またお腹を両手で押さえていた。

 

「せ、先輩……?」

 

 そう僕が声をかけて——返事が返ってくるのは一分過ぎた後だった。

 

「……え?、あ、お、おう。話、終わったのか」

 

 言いながら、先輩は顔を上げるが、まるで完熟した林檎のように真っ赤で、深みがかった琥珀色の瞳も薄らと濡れて、潤んでいる。

 

 もう、誰がどう見ても、明らかだった。

 

「ラグナ先輩」

 

 少し、声音を強めて、僕は尋ねる。

 

「もう誤魔化さないでください。今先輩、絶対に体調崩してますよね?」

 

「…………崩して、ねえ」

 

 キッと、先輩が僕の顔を睨みつけて、少し怒ったようにそう返す。強情なのも、ここまでくると困りものである。

 

 ——……仕方ない、か。

 

 恐らく僕がどう言っても、先輩は首を横に振って否定して、決して認めることはないだろう。

 

 

 

 ならば——もう自分から認めさせるしか方法はない。

 

 

 

「わかりました。じゃあ本当に大丈夫なんですね?」

 

「お、おう。さっきから、そう言ってるだろ……っ」

 

 依然、辛そうに言葉を絞り出す先輩を見て、僕はつい心配しそうになるのをグッと堪えて——踵を返した(・・・・・)

 

 

 

「じゃあ行きましょう、『ヴィブロ平原』に」

 

 

 

 ……心が痛い。まるで細い針をゆっくりと、何十本も刺されているみたいだ。

 

「……え、あ…そ、そうだな……い、行かなきゃ、な」

 

 背中を向けながら、まるで突き放すかのようにそう言った僕に、まるで動揺しているのを隠せずに、先輩がそう返す。

 

「ちょっと、ウインドアさん……」

 

「ウインドア、正気か?」

 

 流石にこの僕の態度は看過できなかったのか、咎めるようにサクラさんとフィーリアさんが声をかけてくる。が、

 

「お、俺は大丈夫、だから」

 

 言いながら、フラフラと椅子から立ち上がった先輩の声に遮られ、それ以上二人が僕になにかを言うことはなかった。

 

「…………は、ぁっ……!」

 

 チラリ、と。視線だけ背後にやると、先輩は危なげな足取りで、懸命にその一歩一歩を踏み出し、前に進んでいた。

 

 そして、ようやく僕の元にまで辿り着いて————ぐったりと、僕の背中にのしかかるようにして倒れ込んできた。

 

 途轍もない後悔と途方もない罪悪感に苛まれる中、ようやく先輩は、

 

 

 

「ご、めん。嘘、()いて、た……しんど、ぃ……くら、は…ぁ」

 

 

 

 やっと、僕に弱みを見せてくれた。

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