「
プルプルと震える七色の輝きを放つスライムを抱き締め、無意識なのかそれとも狙ってやっているのかはわからないが、若干上目遣いに先輩は僕にそう言うのだった。
「か、飼う?」
全くの予想外だったその言葉に、一瞬の沈黙を挟んで、僕は面食らいながらも先輩にそう返すことしかできなかった。僕の返事に、うんうんと先輩は頷く。
「な?いいだろ?」
「い、いや……それは…」
別に、
それに詳しくは知らないが、なんでも魔物と絆を深め、共に行動する
…………しかし、だ。だからといって先輩のその言葉を、吞む訳にはいかない。
「……先輩。僕も、こう言うのは心苦しいんですけど……」
そもそも、今回の目的はLv上げ——先輩の経験値を稼ぐために、僕たちはその伝説と謳われるスライムを探しに来たのだ。
まあ、まさか本当に実在して、しかも発見できて、その上こうも簡単に捕まえられるなんて、夢にも思っていなかった。
そして、幸いなことに我々の獲物であるそのスライムは、あろうことか僕たち
この絶好の
「…………そのスライムは、倒します」
伝承によればその身に膨大な知識を収めているという伝説のスライム。グィンさんの言っていた通り、さぞかし莫大な経験値を得られることだろう。
これで少しは先輩のLv上げも楽になるかもしれない——そう考えながら、心を鬼にした僕の発言に、
「え、ええ…?た、倒すの?こいつ?」
予想通り先輩は難色を示した。それでも、僕は酷に告げる。
「はい。元々、そのつもりでここに来たんですから。先輩も、それを理解した上で付いて来たんでしょう?」
「そ、そりゃ……そう、だけど……」
依然スライムをその両腕で抱き締めながら、先輩はしどろもどろに視線を泳がす。
——僕も、敵意のない魔物を倒すのは、気が進まない。だけど、今はそう言っていられる状況じゃないんだ。
僕はなんとしてでも先輩を元のLv100にまでしなければならない。こう言うのも大袈裟だが、今ではそれが僕の人生目標にもなっている。
「お願いします、先輩」
「う、ぅぅ……!」
ギュウゥ——僕に迫られ、先輩はより強くスライムを抱き締める。
……ふと思ったが、このスライム今己がどんな状況に置かれているのか、理解しているのだろうか?
この世全ての知識を収めているのだから、それに比例した知能も持っているはずだと思うのだが……。
——まあそんなことはどうでもいいか。逃げないのなら、それに越したことはないし、好都合だ。
そうして、僕とサクラさんとフィーリアさんの視線が注がれる中、数秒の葛藤を経て先輩は————
「む、無理っ!できねえっ!」
————と、さらにスライムを強く抱き締めるのだった。
……もうかなり拉てしまっているのだが、大丈夫なのだろうか?いや、スライムだから大丈夫か。
「先輩。お気持ちはわかります。わかりますが、ここは心を鬼にしてください」
「無理なモンは無理だ!俺には、こいつを倒すなんて、できっこねえ……ッ!」
なんとか先輩を説得しようとするが、首を振って先輩は僕の言葉を受け入れてくれない。……参ったなあ。
助けを求めて、僕は二人の《SS》
「……」「……」
二人揃って僕から顔を逸らした。
——は、薄情な……!
そんな二人に対して、畏れ多く不敬にも僕はそう思ってしまう。
「ちゃんと面倒見る!だから、だから……!」
「い、いやですが……」
ならばせめてと、僕は己が我を通そうとするが、
「くらはぁ……」
潤んだ琥珀色の瞳の前に、思わず心が揺らいでしまった。
——う、うぐっ……それは、卑怯ですよ先輩……!
だが、それでも、僕は————
「な、なんでもする!するから!」
「ん?今な「サクラさん今は黙ってましょうね」
————…………僕、は……。
「……わかりました。もう、わかりましたよ……」
クラハ=ウインドア。なんと、自己の弱いことか。
「……本当によかったんですか?ウインドアさん」
オールティアへの帰り道。不意に僕はフィーリアさんにそう尋ねられた。
対して、僕は力なく返す。
「まあ、先輩が喜んでいるのなら……」
そう言って、僕は嬉しそうにスライムを抱く先輩の姿を眺める。……いやあ、本当に嬉しそうだなあ。先輩。
「苦労人、ですね。ウインドアさん」
「そう思っているのなら、さっき助けてくれてもよかったんじゃないんですかね……」
「それとこれは別の話ですから」
言いながら、小悪魔的な微笑を浮かべるフィーリアさん。この人もだいぶイイ性格をしている。
——餌とかどうしよう……そもそも、スライムってなにを食べるんだ……?
はしゃぐ先輩と、その様子を眺めてにやけているサクラさんと、そんな彼女の顔を見て少し引いているフィーリアさんの隣で、僕は考える。
その時、だった。
『聞こえるか、御主人の御主人よ』
唐突にそんな声が、僕の頭の中に響いた。
「!?」
先輩たちのではない、全く知らない声。突然のことに困惑する僕に、声が再度響く。
『案ずるな。我は怪しい
——……は?
慌てて、先輩の腕の中にいるスライムを見やる。するとまるで反応するように、ブルリと微かに震えた。
『御主人の御主人よ。この恩は決して忘れはしない——今後とも、よろしく頼む』
それきり、そのスライムが僕に語りかけてくることはなかった。未だ混乱する頭の中で、ただ一つ思う。
——予想の斜め上の……口調だった……。