ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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DESIRE————湯船にて、決意新たに

 セトニ大陸にある無数の街の一つ、ラディウス。先ほども言った通り、この大陸全ての富が集まる、随一の富裕街である。

 

 今まで風の噂でしか、この街のことを知らなかったが……はっきり言って、生きている世界がまるで違った。

 

 とにかく、どこを見渡しても光り輝いている。夜なのに、まだ昼間なのではないかと思うほどに、街全体が夜闇を照らしていた。

 

 無数に立ち並ぶ、多種多様の高級店。著名なブランドショップに、飲食店(レストラン)

 

 こんな光景、オールティア——いや、四大陸の中でも見られるのはこの街くらいだろう。『金色の街』——そう呼ばれているのも、納得だ。

 

 上下左右どこもかしこも黄金だらけだった駅を去り、僕たち四人はこの街のとある場所を目指し、煌びやかな街道を歩く。

 

 全く見たことのなかった光景に興奮を少しも隠そうとせず、周囲の目など気にせず「きんぴか!凄え!」とはしゃぐ先輩。

 

 豪奢絢爛としたドレス姿の、道行く女性を片っ端から口説き回るサクラさん。

 

 そんな彼女を呆れながら、口説く女性から引き剥がすフィーリアさん。

 

 そして、そんな三人の後ろを苦笑いしながら歩く僕。……恐らく、傍目から見ればなんとも珍妙な四人組に思えたことだろう。

 

 ともあれ、燦然とするラディウスの夜を、色々な意味で楽しみながらも、僕たちは先を進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうぅ…………」

 

 溢れんばかりの湯が張られた浴槽に、遠慮なく全身を浸からせると、ほぼ無意識にそんなため息を僕は吐いてしまう。

 

 ——疲れた……。

 

 少し熱めの湯が、体力を消耗させられた身体を心地良く癒し、緊張をゆっくりと溶かしてくれる。

 

 ——………………。

 

 深々と浴槽に身を沈めながら、僕は周囲を軽く見渡す。…………うん、広い。

 

 ——流石はラディウスで一二を争うホテルだなあ……浴室だけでも、僕の家のリビングよりも広いんじゃないか?これ。

 

 しかし、やはりここまで広いと落ち着こうにも落ち着けないものである。ここ最近、こんなのばっかりだ。

 

 ここはラディウスにある中でも、凄まじい人気を誇る高級三つ星ホテル——『Elizabeth(エリザベス)』。

 

 世界的にも有名なホテルで、詳しくは知らないが四大陸中に存在するホテルをランキング付けした旅行雑誌、『世界散策』では毎回上位(ベスト)10に選ばれているほど。

 

 そのサービスやホテルとしての質もトップクラスであり、当然その宿泊代も凄まじいのだが、それでも予約は十年待ちだとか。

 

 そんなホテルに、今僕たちはいた。というか、ここを目指して先ほどまで僕たちは歩いていたのだ。

 

 ——別に、普通の宿屋でもよかったんだけどなあ……。

 

『Ground』での生活が、脳裏に蘇ってくる。こう言うのはアレなんだろうが……いくら《S》冒険者(ランカー)といえど、あくまでも僕の金銭感覚は庶民的なものなのだ。

 

 ——しかも、自分が払ってる訳でもないし……宿泊代。

 

 そう。『Ground』も、そしてこの『Elizabeth』も。僕たちが自腹を切っている訳ではない。これら全ての費用は——『世界冒険者組合(ギルド)』が負担しているのだ。

 

 その事実が、より僕の肩に重くのしかかってくる。

 

「…………今回の依頼(クエスト)、絶対に失敗できない」

 

 サクラさんやフィーリアさんだけならまだマシも、僕や先輩までこんな好待遇を受けてしまっているのだ。失敗する気など元よりないが……責任感とか、そういったものがより重みを増してのしかかってくるのだ。

 

 ——ギルザ=ヴェディス……か。

 

 今回の依頼の目標。裏社会の住人である、話——といってもほぼ噂らしいが——に聞く限り、僕が知る中で最悪の人間。

 

 数多くの違法取引に、人身売買。失踪と見せかけた誘拐を、少なくとも百回以上は繰り返している闇の商人。

 

 そんな男が、この街にいる。この街を根城にしている。一体何年前から、そうしているのだろう。

 

 何年前から、こんなことをしているのだろう————

 

 ——なんとしてでも、ここで捕まえないといけない。

 

 ————そうしなければ、被害者は増えていくだけだ。それにグィンさんが言うには、一週間以内に捕まえなければ、この街から逃走する可能性が高いのである。

 

 期限はあと三日。この街はオールティアよりも広い……果たして、間に合うのだろうか?

 

 ——いや、間に合わせるしかない……!

 

 そのために、僕たちはここに訪れたのだから——そう、湯の中で意気込んだ瞬間だった。

 

 

 

 ガラッ——突如、勢いよく浴室の扉が開け放たれた。

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