ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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DESIRE────『金色の街』の影

「では今日の行動方針を決めるとしましょうか」

 

 ローストビーフを礼儀正しく丁寧な手つきで小さく切り刻みながら、フィーリアさんがそう言う。

 

「私としては、まず情報収集するべきだと思うのですが……皆さんは?」

 

 食べやすい大きさに切り刻まれたローストビーフを口に運びながら、意見を訊いてくるフィーリアさんに、まずは僕が返す。

 

「僕もそうすべきだと思います。ギルザ=ヴェディスに関して、僕たちは知らないことが多過ぎますから」

 

「……以前にも言ったが、私の頭はそう出来は良くない。なので、基本的には君たちに合わせることにするよ」

 

 赤と緑のコントラストが色鮮やかで美しいサラダを抓《つま》みながら、サクラさんが僕とフィーリアさんに申し訳なさそうに言う。

 

「わかりました。ブレイズさんはどうですか?」

 

「俺もサクラと一緒。頭悪いし」

 

 スクランブルエッグを食べながら、フィーリアさんにそう返す先輩。……余談ではあるが、その声は若干棘立っており、依然として機嫌は崩れたままである。

 

 ──先輩って、あんまり機嫌とかそう悪くならない性格のはずだったんだけどなあ。

 

 ウィンナーを嚙りながら、僕はそう思う。先輩とはかれこれ八年の付き合いになるが、その決して短くはない年月で先輩が機嫌を崩したことが全くなかった訳じゃない。けど、少なくとも今みたいな崩し方は初めてである。

 

 ──いつもなら時間が経てばすぐに直るはずなんだけど……。

 

 現在の様子を見る限り、残念ながらそれはなさそうだ。さて、どうしたものか。

 

「なるほど。ではやはりここは三手に別れましょう。私とサクラさんはそれぞれ単独で、ウインドアさんとブレイズさんは一緒になって、情報を集めましょう」

 

 僕が悩んでいると、いつの間にか皿を空にしたフィーリアさんがそう言って、椅子から立ち上がった。

 

「では私はお先に失礼しますね」

 

 言うが早いか、軽やかな足取りでフィーリアさんはこのテーブルから離れていく。そんな彼女の背中を見送っていると、今度はサクラさんが立ち上がる。

 

「私も行くとしよう。……すまん、ウインドア。頑張れ」

 

 それだけ言って、彼女もまたこのテーブルから去っていく。……一体、僕になにをどう頑張れというのか。

 

 依然として機嫌の変わらぬ先輩に、気まずさを覚えながらも、勇気を出して声をかける。

 

「じゃ、じゃあ僕たちもそろそろ行きましょうか?先輩」

 

「…………」

 

 苦笑いを浮かべた僕の顔を、先輩はジト目になって少し見つめたかと思うと、黙って小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラディウス──通称『金色の街』。その名の通り、昨夜はまさに街全体が華々しく煌びやかに輝いていたが、当然と言えば当然なのだろうが、朝はその真逆であった。

 

「…………これは」

 

 あれほど賑わっていたはずの街並みが、ガラリと一変していた。軽く見渡すだけでも無数にあった高級店は軒並み閉まっており、スーツやドレスで着飾り川のように流れていた人たちもいない。

 

 今見えるのは、寂れたように閑散とした街の風景と、周囲の状況などまるで気にしていられず、各々の仕事に向かう人たちと。

 

 そして、放心しているかのように、空虚な表情で石畳に座り込んでいる、この街には似つかわしくない——放浪者の姿だった。

 

「…………」

 

 そんな風景を目の当たりにして、僕は複雑な心情になる。表と裏。光と闇。これが──そういうことなのだろう。

 

 いわばこれは影なのかもしれない。この街の、影。

 

 ──街が豊かだからといって、そこに住んでいる住人全員が幸せだとは限らない……か。

 

 気の毒だとは思う。だが、だからといって僕には、どうすることもできないことだ。

 

 ふと隣に視線をやれば────先輩が、見ていた。

 

「…………」

 

 向こうの方。壁にもたれかかるようにして座り込む、ボロボロに破れている服を身に纏っている、男性を見ていた。

 

 生きる希望というものを忘れてしまったように、ただただ虚無感溢れる表情で宙を眺めている彼を、先輩は悲痛な面持ちで静かに、見ていた。

 

 ──……先輩、(やさ)しいもんな。

 

 今、一体どういうような心境に先輩が立っているかは、僕とて理解できる。理解できているが──さっきも言った通り、僕らには、どうすることもできない問題で、そしてそれを悔やむ時間も猶予もない。

 

 傍目からすれば、僕は酷く冷たい、非情な人間に見えるだろう。だって僕自身、そう思っているのだから。

 

 重々、承知しながら。自覚できていながら──僕は、先輩に言う。

 

「行きましょう。先輩」

 

「え?あ……おう」

 

 突然僕に声をかけられて、少し驚いたように先輩はこっちを見て、それから視線だけ壁にもたれかかる男にやったが、すぐに僕の方に向き直って頷いた。

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