ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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DESIRE────洋服屋『ERy』にて

 ここはラディウス。『金色の街』と呼ばれるに至るほど、このセトニ大陸の富を集める場所。

 

 しかしこの街はそれだけに留まらない。それで留まることを知らない。富──金には魔力が宿っている。

 

 人を惹きつけ離さず、(とら)える魔力が宿っている。その魔力が、この街に無数の人間を寄せ集めるのだ。

 

 自らを豪奢絢爛に色飾る富裕者。様々な分野(ジャンル)にて一線級に活躍する玄人(プロ)。一攫千金という砂上の幻想に夢馳せ集う者たち。

 

 そんな多種多様の混沌の様相を描きながら、この街は過去(きのう)現在(いま)未来(あした)に存在している。

 

 故に。そんな混沌を象徴するかのように、その倍以上の店が建ち並ぶ。

 

 それは飲食店(レストラン)であったり。宝石店(ジュエリーショップ)であったり。骨董(アンティーク)(ショップ)であったり。

 

 ────洋服屋(ブランドショップ)であったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 時刻は午後十二時少し過ぎ──こちらを照らす暖かで、けれど少々熱く感じる日差しを受けながら、僕クラハ=ウインドアはとある店の中にいた。

 

ERy(エリィ)』──それがこの店の名前で、端的に言うならば、洋服屋である。

 

 自慢ではないが僕は服装(ファッション)に疎い。そして疎いのだから、当然このような店など生まれてこの方訪れたこともない。

 

 では何故そんな僕が、こんな場所にいるのか──答えは簡単。フィーリアさんに連れて来られたのだ。

 

 

 

殴り込み(カチコミ)の下準備をしましょう』

 

 

 

 脳裏にて、フィーリアさんのその言葉が浮かび上がってくる。殴り込み……なんともまあ、不穏な響きである。

 

 ──それでなんだって……洋服屋なんだ?

 

 殴り込みというからには、安直ではあるが武器屋など、そういう店に立ち寄るのかと思っていたのだが、これは予想外だった。

 

「…………」

 

 横目でチラリと視線を流す。そこにあるのは、姿鏡。それに映る今の僕は──実に珍しい格好をしていた。

 

 燕尾服。シンプルで、しかし確かな高級感を感じさせるデザイン。一体いつの間に測ったのか、サイズもピッタリである。

 

 ──やっぱり、似合ってない……よな。

 

 普段の僕であれば、こんな服など着たりしない。そう、自分から進んで着たりなど絶対にしないのだ。

 

 フィーリアさんに連れられ、ここに到着するとすぐさま店から数名の店員が出て、有無を言わせず僕たちを店内にへと案内し、なんの事情も飲み込めないままあれよあれよと僕はこの燕尾服に着替えさせられた。こちらの抵抗を一切許さない、まさに流れる川のような手際で。

 

 そしてフィーリアさん、サクラさん、先輩は別の店員に店の奥にへと案内された。突然のこと過ぎて先輩は混乱し困惑していて、しかしサクラさんは特に動揺もせずに落ち着いてた。まあ、僕や先輩と違ってあの人はこんな程度のことで動揺することなど思っていなかったが。

 

 とにかく、三人が奥に連れてかれて、約一時間が経とうとしている。その間僕はこのようにしてこの場に待たされていたのだ。

 

 ──あと、どれくらい僕は待たされるんだろうか。

 

 しかしまあ、当然と言えば当然のことだろうが、衣服の様々な事情に関しては、男である僕よりも女性である彼女たちの方が色々と手間がかかることはこちらも重々承知している。

 

 そうだ。フィーリアさんも、そして思わず忘れそうになるがサクラさんだって立派な女性。僕や先輩と違って遅くなるのは当然の──と、そこまで考えて。

 

 ──いや、先輩は……。

 

 僕は思い出した。フィーリアさんとサクラさんと、そして先輩も(・・・)店の奥に連れてかれたことを。そう、元の性別は違えど、先輩も今や女の子だ。

 

「…………え?いや、けど……そしたら、先輩は……」

 

 唐突に浮かんだ一つの考え。けどそれは決してあり得ないことというか、先輩だったら断固として拒否する流れというか。

 

 ──女の服なんかぜってぇ着ねえからなっ!?──

 

 想起されるいつしかの光景。いやあ、あの時は随分と苦労させられたものだ。一応女物ではあるが、男物にも見えなくもない服装、ということであの場は収まったのだが。

 

 と、その時。

 

 

 

「すまないウインドア。待たせたな」

 

 

 

 僕の背後から聞き覚えのある、しかしいつにも増して凛々しさが際立つ声がかけられた。振り返れば──予想通りの人物がそこには立っていた。

 

「い、いえ。気にしなくてもいいですよ、サクラ……さん?」

 

「初対面でもないのに、何故疑問形なんだウインドア」

 

 サクラ=アザミヤ。数週間前ほど知り合ったばかりである彼女だが、今は見たことのない格好となっていた。いや、その格好自体は見たことはあるのだが。

 

 燕尾服(・・・)。今、サクラさんは僕と同じものであろう燕尾服にその身を包んでいた。

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