ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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DESIRE────先輩からのご褒美?

 なんの前触れもなく、本当に突然に、意識が覚醒した。

 

「………………ん……?」

 

 少し重い瞼をゆっくり開くと、真っ先に視界に飛び込んだのは闇だった。それはあまりにも濃くて、一寸先すら見えない、闇。

 

 ──どこだ、ここ……。

 

 全く見覚えのない、そして全くの予想外な光景に、僕の脳内は困惑で埋め尽くされる。それでもとりあえず動こうと、半ば無意識に腕を上げる──ことはできなかった。

 

「え?」

 

 何度も上げようとするが、僅かに揺れるだけでそれ以上はなにもできない。ならば足は、と足も動かそうとするが、同様の結果に終わる。

 

 それから少し遅れて、手首と足首それぞれに、なにか縄が擦れるような感触がすることに気づいた。

 

 ──……今、僕は縛られているのか……?

 

 そう思うと同時に、自分が今どんな体勢になっているのかも気づく。どうやら椅子らしき物体に座っている、というよりは座らされているらしい。

 

 ここは一体どこなのか。そもそも何故自分は椅子に拘束されているのか──唐突過ぎる状況と情報量に、僕はただひたすら戸惑い、困惑することしかできない。

 

 とりあえず今はこの拘束から逃れようと方法を考える──その時だった。

 

 カツン──不意に、前方からそんな足音が響いてきた。

 

 ──あ、足音?誰か、こっちに来る?

 

 カツン、カツンと。ゆっくりとではあるが、その足音はこちらに近づいてきている。音の質からして、足音の主はどうやらハイヒールを履いているらしい。

 

 謎の状況と、近づく謎の足音。それらの要素が重なり、流石の僕も恐怖感を覚えてしまう。思わず身構えていると、やがてその足音の主が、濃厚な闇の中から浮き上がるように、姿を露わにした。

 

「………………え」

 

 そんな間の抜けた声が、僕の口から滑り落ちる。足音の主は、これまた全くの、予想だにしない人物だった。

 

 

 

「よ、目ぇ覚めたみたいだな──クラハ」

 

 

 

 呆然とする僕に、そうラグナ先輩(・・・・・・)は────あのゴシックドレス(・・・・・・・)姿()のラグナ先輩は声をかけた。

 

「せ、先輩?なんで、その服装を……?」

 

 慌てる僕に対して、先輩は落ち着きを払った態度で──何処か揶揄(からか)うような笑みを薄く浮かべて、再度その口を開く。

 

「ああ、この服か?また見てもらいたくてさ──お前に、な」

 

 そしてもう一歩、先輩は僕の方に歩み寄った。身体を傾ければ、届きそうな距離から、先輩が続ける。

 

「どうだ?この服、似合ってるか?それともやっぱ……似合ってねえか?」

 

 そう言いながら先輩は、ゴシックドレスで着飾った己を──女の子(・・・)としての己を僕に見せつけてくる。

 

 僕はといえば、ただひたすらに戸惑い、困惑し、そして狼狽えてしまう。だって、あの先輩が、あのラグナ先輩が、自ら進んで女の子の服を着て、まるで女の子がするような質問をこちらに投げかけた。

 

 その事実が、目の前の現実が僕をどうしようもなく、動揺させてくる。

 

「そ、それは」

 

「それは?」

 

「その」

 

「おう」

 

 ──お、女の子だ……今の先輩、何処からどう見ても、女の子だ……!?

 

 狼狽えまくる僕の、意味を成さない言葉にもきっちりと相槌を返すその姿は、まさしく女の子。例えるならそう──幼馴染を揶揄う、幼馴染の女の子。

 

 依然としてラグナ先輩はこちらを揶揄うような、小悪魔のような笑みを浮かべたまま、途絶えてしまった僕の言葉を待っている。手玉に取られているような、いや取られているのを自覚して、僕は心の奥底から羞恥心のようなものが滲み出てくるのを感じた。

 

「………………」

 

「………………」

 

 僕と先輩の間で沈黙が流れる。それはとても気まずい沈黙で、やがて先に僕が堪えられなくなってしまった。

 

「か、可愛い……です。と、とても。はい」

 

 たったそれだけの、なんてことのない、正直な賞賛。心からの、感想。だと、いうのに。

 

 ──か、顔が熱い……凄く、熱い……!

 

 何故か今まで生きてきた人生の中で、最大の羞恥が僕を襲っている。う、うおおぉ……。

 

「……ふーん。可愛いんだ、俺」

 

 僕の言葉を確かめるように、先輩はそう呟く。それから浮かべていた笑みを──にやり、と。妖しげに歪めた。

 

 ──な、なんだ?

 

 先ほどまでの揶揄うような、小悪魔的微笑ではない。まるで獲物を見定めた、獣のような──狩る存在(モノ)の、捕食者の笑み。これから行えることが愉しみで仕方がないという、加虐者(サディスト)の微笑み。

 

 スッ、と。琥珀色の双眸を細めて。

 

「なあ、クラハ」

 

 先輩が僕の名前を呼ぶ。その声は、口調こそ普段通りだったが、今まで聞いたことのないくらいに柔らかで、僕の鼓膜を優しく震わしてくれる。

 

 だが、それが僕をより一層激しく動揺させた。

 

「正直なお前に、あげてやるよ──ご褒美」

 

 そう言うや否や、先輩は──ドレスの両裾を摘んだ。

 

「…………へ?」

 

 先輩のその言葉と行動に、僕はまた間の抜けた声を漏らす。というか、今現在目の前で起こっていることに、理解が追いつかない。

 

 ──ごほうび……?ご褒美?先輩が、僕に?いやそれよりもなんでこの人はドレスの裾なんかを……?

 

 混乱し始める僕をよそに、先輩が言う。

 

「言っとくけどさぁ……()だけじゃねえんだよな、女の格好してんの」

 

 言いながら、先輩は持ち上げる。ドレスの裾を、徐々に、徐々に。ゆっくりと、先輩の細くしなやかで、真白な生足が露わになっていく。

 

 その光景から目が離せなくて、ただただそれを見つめることしかできないでいる僕に、先輩が続ける。

 

「見せてやるよ──こん中」

 

 裾を持ち上げる手は止まらない。生足だけでなく、もっと上──見るからに柔らかそうで、それはもう素晴らしく極上な感触が楽しめるだろう、太腿すらも外気に晒された。

 

 しかし、それでも──手は止まらない。もっと、もっと上へ。ドレスの裾はもっと上に引き上げられて、たくし上げられていく。

 

 そして。やがて、僕の視界を─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だっ、駄目ですよ先輩!?それ以上はいけない!!」

 

 バッ──そう叫びながら、僕はベットから飛び起きた。

 

「…………………………あ、れ……?」

 

 遅れて、周囲を見渡す。先ほどまでの謎の空間ではなく、今では見慣れてしまったホテルの部屋。

 

 それからゆっくりと隣のベッドに目を向けるが、そこには誰もいない。今、この部屋には僕一人しかない。先輩なら姿など、影一つもない。

 

「……………………………………ゆ、夢……だった、のか」

 

 コンコン──僕がそう察するのと同時に、不意にドアをノックする音が響いた。

 

「ウインドア、まだ起きているか?」

 

 そして、それに遅れてサクラさんの声が僕の鼓膜を静かに震わした。

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