ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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DESIRE────『極剣聖』との腕試し

「剣を抜け。ウインドア」

 

 そのサクラさんの言葉はあまりにも唐突で。僕はそれをただの音としてしか、最初は受け取れなかった。

 

 数秒を挟んで、脳がそれを言葉であると理解する。それと同時に、込められた意味も理解する。理解して──尚のこと僕は戸惑った。

 

「け、剣を抜けって……急にどうしたんですかサクラさん?一体、どういう……」

 

 動揺する僕に、依然として木の棒を突きつけたまま、彼女は答える。

 

「そのままの意味だ。……ウインドア、ちょっとした腕試しをしようじゃないか」

 

「う、腕試し?」

 

「ああ、腕試しだよ」

 

 サクラさんの言葉に、僕は困惑する他ない。唖然としてしまう僕に、彼女は──

 

「内容は至って単純だ。これから私はこの木の棒を得物として、君に突きを放つ。それを君は受ける──ほら、単純だろう?」

 

 ──こちらを揶揄うような、悪戯めいた笑みと共に、サクラさんはとんでもないことを宣った。

 

 数秒ほどの沈黙を挟んだのち、

 

「い、いやいや!そ、そんなの無理ですよ!?僕にサクラさんの一撃を受けろということですよね?そんなの絶対に無理ですって!」

 

 と、思わず必死になって僕は返した。日々の言動から忘れてしまいそうになるが、彼女は──サクラ=アザミヤは、これでも世界に三人(今では実質二人)しかいないと言われる、最強の《SS》冒険者(ランカー)の一人。数々の武士の頂点に座する、『極剣聖』。

 

 そんな彼女が放つ突きの一撃など、たかが一《S》冒険者に過ぎない僕なんかが到底受けられる訳がない。

 

 なのでその場に土下座する勢いでそう返したのだが──

 

「大丈夫。ちゃんと手加減はするさ。最悪の場合になっても、病院送りになるだけで済ます」

 

 ──と、無慈悲にもそう返された。

 

「全然大丈夫じゃないですよそれ!?」

 

 半ば絶叫するように言う僕に、サクラさんはまるで春に吹く爽やかな風のように、

 

「君に拒否権はない」

 

 そう断言された。

 

「そ、そんな……」

 

「男だろう?ならば潔く覚悟を決めて、剣を抜け」

 

 どうやら本当に、サクラさんはその腕試しという名の無謀な挑戦を僕にさせる気らしい。もうこれ以上抵抗は無駄だと悟り、内心泣きながら僕は黙って、腰に下げた剣を、鞘から抜いた。

 

 ──一体この人はなにを考えているんだ。明日はギルザ=ヴェディスと直接対決するっていうのに……まさか、これは僕に対する、遠回しの戦力外通告なのか……?

 

 まあそう考えるならこの状況に納得いく。本来、このクエストに僕や先輩など、全く必要ないのだから。

 

「よし。いいか、私の一撃を受け止められたなら君の勝ち。受け止められなかったら私の勝ちだ」

 

「…………はい」

 

 こうなってしまった以上、もうやるしかない。半ば自棄(やけ)になって、サクラさん相手だというのに僕はそんな投げやりな声で返す。

 

 それに対して彼女は腰を少し低くさせ、木の棒を構えた。

 

 それは数秒だったか、数分だったか。僅かながらに重苦しい、息が詰まるような沈黙が流れた。そして────やはりその時(・・・)も、突然訪れた。

 

「行くぞ」

 

 瞬間、サクラさんの足元が爆発した。大量の砂が宙に巻き上げられ、砂埃となって舞う。

 

 もう既に、そこにサクラさんは立っていなかった。その現実を認識すると同時に──彼女は、僕の眼前にまで迫っていた。

 

 ──…………ああ、やっぱり無理だった。

 

 僕の視界を覆う、焦げ茶色の先端。遅れてそれがサクラさんが持つ木の棒だと理解する。したところで、無意味なのだが。

 

 ──病院送り、かぁ。せめて、骨折くらいで済むかな……?

 

 諦観の念を抱きながら、心の中でため息を吐く。吐いて──ふと、目の前の景色に違和感を感じた。

 

 何故だろう。こちらに迫る木の棒が、やけに遅く感じる。というより────視界に映る全て(・・・・・・)が、まるで流れる雲のように、遅く見える。

 

 宙に舞って、漂う砂埃も。夜闇に紛れて揺れる、サクラさんの黒髪も。不思議なほどにゆっくりに、かつ鮮明過ぎるほどはっきり見える。

 

 それを自覚した瞬間、気づけば自分は──剣を胸の前に掲げていた。

 

 

 

 

 

 そして、僕の意識は掻き消えた。

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