ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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DESIRE────ギルザ=ヴェディスという男(その終)

 夜。金色(ラディウス)の豪奢絢爛なる喧騒すらも、全て平等に呑み込む深夜。

 

 とある場所にて、とある男は独り、椅子に座っていた。

 

「………………」

 

 机上に散らされた数十枚の書類を、男は──ギルザ=ヴェディスはただただ、眺めていた。それらを手に取る訳でもなく、それらに筆を加える訳でもなく、それらを破り裂く訳でもなく。ただ、ただ。眺めていた。

 

 眺めて。数分、眺めて────そして、薄く口端を吊り上げさせた。

 

「もうすぐだ」

 

 それは独り言である。誰に対して言った言葉ではない。強いて言うなら、ギルザがギルザ自身に向けて言った、独り言である。

 

「もうすぐで、俺は立つ」

 

 言って、傍らに置いていた真っ赤な林檎を手に取る。手に取った林檎を、ギルザは口元までに近づけて────囓りついた。

 

 しゃくしゃくと。果肉を皮ごと噛み砕いて。磨り潰して。味わいながら、咀嚼し嚥下する。

 

 その一連の動作を終えて、ギルザは言葉を放り出す。

 

「頂点だ。誰にも辿り着けない、誰にも縋らせない、独壇場の頂点に、だ」

 

 瞬間、彼の脳内にて、想起される。己が忘れたい、忘れ難き、忌々しい記憶が。

 

 その記憶が、何時までも。何時までも──────

 

 

 ゴトン──ギルザが、囓った林檎をゴミ箱に放る。

 

 

「頂点に立ち、その時こそ──俺は、ようやく手にすることができるんだ……ハハ、ハハハハ………ハハハハハハ…………!」

 

 嗤い声がこだまする。ギルザ=ヴェディスの嗤い声がこだまする。至悦と独楽(どくらく)に浸った、人として最悪な嗤い声が、こだまする。

 

 数秒。数分続いて────パッと、それは唐突に鳴り止んだ。

 

「入れ」

 

 さっきとは打って変わって、そのギルザの声は恐ろしく平坦で、底冷えしていた。彼の声に遅れて、固く閉ざされていた部屋の扉が、音もなく静かに開けられる。

 

「どうした。報告か?」

 

 ギルザに訊かれ、部屋に戦々恐々と足を踏み入れた部下の一人が返事をし、頷く。

 

「例の準備が整いました、ボス。それと──四匹の鼠についても」

 

「ほう。聞こう」

 

 部下の報告に、ギルザは耳を傾ける。それは時間にして数分のことで、それが終わると、やはり彼は薄く口端を吊り上げさせた。

 

「なるほど。なるほどなあ……まあ、そう来るよなあ」

 

 報告を聞き終えて、ギルザは部下に下がるよう指示する。頭を下げ、部屋から出た部下が扉を閉めるのを見届けて、彼は面白がるような口振りで呟いた。

 

「いいだろう冒険者(ランカー)諸君──精々、勝手に気張ってろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今宵の金色は、いつになく昏く濁っている。

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