一拍置いて、宙に留まっていた全ての銃弾が床に落ちる。硬質で甲高い音が次々と鳴り響く中、内心フィーリアは苦々しく呻いていた。
──燻り出された……!
だが迅速に、かつ躊躇なく彼女は動いた。
「【
瞬間、フィーリアの眼前に魔力によって発生した冷気が集中し、瞬く間に切っ先鋭い氷の棘となる。そして間髪を容れず凄まじい速度で放たれた。
氷の棘は大気を貫きながら、ただ真っ直ぐに、そして正確に──ギルザの額にへと飛来する。
そしてそのまま彼の額を────
「…………チッ」
その様子を見て、行儀悪くフィーリアは舌を打つ。そんな彼女に、依然口元を歪めてギルザが言う。
「残念だったなあ
「話には聞いてましたけど、本当にどうしようもないクズ野郎みたいですね。ギルザ=ヴェディス……あなたこんなことして、一体なにを考えているんですか!?」
激昂するフィーリアだが、それに対してギルザがどう思うこともない。彼はただ、まるで人を馬鹿にしたような薄ら笑みを浮かべて、彼女を挑発する。
「なにを考えているって、これからを考えているのさ俺は。だからその馬鹿をぶっ殺して、そいつらもぶっ殺そうとした。ただそれだけだ」
言いながら、足元に横たわるフォルネの死体を踏みつけ、蹴り飛ばす。飛び散った血が、床に前衛的な
「まあお前らはここで無様に足止め食らっとけ。その間に、俺はさっさとトンズラさせてもらうぜ──ヒャハハハ!」
汚らしく笑うギルザの姿が、徐々に薄れて、掠れていく。やがて、完全に消えた。
カラン、と。彼が立っていた場所に魔石が落下し、すぐさま砕けて霧散してしまう。そんな光景を目にして、フィーリアが呟く。
「幻影の魔石……この
彼女がそうぼやくと、大広間の扉が乱暴に開け放たれ、そこから大人数の武装した男たちが雪崩れ込んでくる。ギルザの部下たちだ。
「ぞろぞろと……」
軽く周囲を見渡せば、壁際に立っていた警備員やら案内人やらも皆ギルザの部下らしく、同じ形状の銃を構えている。参加者全員を取り囲んでいるような形になっており、このままではギルザが言っていた通り、全員死ぬことになるだろう。
フィーリアは嘆息し、そして気怠げに口を開いた。
「邪魔です」
シュン──彼女がそう吐き捨てると同時に、彼女の周囲にいた参加者たちは、一人も残さずその姿を消してしまった。その光景を目の当たりにしたギルザの部下たちが、大いにどよめく。
「な、なんだ?客が全員消えちまったぞ?」
「まさか、あのガキが殺ったのか?」
「あんな見た目で惨いことしやがるぜ……」
口々に勝手なことをほざく部下たちに、フィーリアが怒鳴りつける。
「人聞きの悪いこと言わないでください!全員外に転移させただけですから!」
それから再度うんざりと嘆息。そんな彼女の様子を眺めながら、ギルザの部下たちは下衆な笑いを漏らす。
「んなことはどうだっていい」
「お前を殺せば百万
「むしろ余計な壁がなくなって、撃ち殺しやすくなったぜぇ」
銃を構え、自分を取り囲む男たちを、フィーリアは今一度睥睨する。そして──やはりうんざりと、嘆息した。
「上等です。身のほど弁えさせてやりますよ、この有象無象共が」
「…………ふむ」
クラハに例の情報を渡し終え、悲鳴と銃声が響いた大広間にへと駆けていたサクラ。だが、彼女は今、大広間にへと続く廊下にて立ち止まっていた。
理由は単純明快──己の前に、大勢の武装したギルザの部下たちが立ち塞がっているからである。
困ったような表情を送る彼女に、部下たちが各々言う。
「お前がボスの言っていた
「お前を殺せば百万が手に入る……こりゃあぶっ殺すしかねえよなあ!?」
「ヒャッハー!ぶっ殺TIMEだぜえええ!」
部下たちの言葉を受け、困ったような表情のまま、サクラは眉を顰める。そんな彼女の様子に全く気づくことなく、部下の内三人が前に出た。
──……なんだ?
その三人に対して、サクラは疑問を抱く。何故ならその三人は他の者とは違い、まるで小型化した大砲のような形状をした銃を構えていたからだ。
一体それがなんなのか、考えている時だった。
「これでも喰らいやがれ!」
ボンッ──一人が叫ぶと同時に、その謎の銃から一斉に球体のようなものが射出された。それはあっという間にサクラの眼前にまで迫ってくる。
「?」
疑問に思いながらも、とりあえずその場から跳び退こうとしたが──突如として、その球体が鎖に変わった。
「!?」
球体から鎖に変わったそれが、サクラの身体に巻きつく。そうして瞬く間に拘束されてしまった。
その様を見た三人が、歓喜の声を上げる。
「やったぜ引っかかりやがったぞこいつ!」
「その鎖はなぁ、一本であのバーサクドラゴンですら完全に拘束しちまう強度を持つ。人間じゃあ絶対に引き千切れねえ!」
「それが三本!三本大出血サービスだ!」
廊下にて、男たちの下卑た笑い声がこだまする。男たちは、自分たちの勝利を確信していた。
だが、彼らは知らされていなかった。五人の標的が、ただの冒険者だとしか。それ以外の素性など、全く知らされていなかったのだ。
「………………」
己の身体を縛る鎖を、サクラは無言で見つめる。そんな彼女の様子に構うことなく、男たちは手に持つ銃を構えた。
「とっととおっ
そして引き金を引く────直前だった。
「ふッ」
サクラが息を吸い込み、鋭く吐き捨て、そしてほんの少し腕に力を込めた。
バギンッ──たったそれだけで、彼女を縛りつけていた鎖が、三本とも全て引き千切れてしまった。
「「「………………は?」」」
男たちが愕然とする中、服に付いた鎖の破片を軽く払いながら、サクラが言う。
「一応言っておくが、私は歴とした人間だからな」
彼女のその言葉に対して、返されたのは恐慌と怒号であった。
「バケモンだぁぁぁっ!」
「う、撃て!撃て撃て撃てぇえッ!!」
「うわああああああああ!!!」
阿鼻叫喚の中、それでも男たちは銃の引き金を引こうとする。だが先に結果を述べさせてもらうなら、それは叶わぬ行動となってしまった。
キンッ──唐突に、甲高い金属音が廊下に響き渡った。
「……あ?なんだ今のお……と……」
男たちの顔が、青ざめていく。無理もない。何故なら────構えていたはずの銃が、両断されていたのだから。
「君たちの武器は無力化させてもらった。先を通らせてもらうよ。こう見えても急いでいる身なんで、ね」
呆然と立ち尽くしている男たちの背後で、いつの間にか腰に刀を差したサクラがそう言いながら、先を進む──瞬間、
「素晴らしいな。流石は『極剣聖』──我ら剣士の頂に座する
突如として、彼女の歩みを一人の男が遮った。