ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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海へ行こう──決着、〝絶滅級〟クラーケン

 ラグナの妖しく甘き女体に溺れ、クラハが窒息しかける少し前。サクラとフィーリアは砂浜にて、ひたすら前進を続けていた。

 

 彼女たち二人の前進を止めようと、クラーケンは己の身体から新たな触手(ゲソ)を無尽蔵に生やし、片っ端から伸ばす。が、

 

 パキパキッ──その全てが届く前に氷結され、そしてサクラが一刀の元に斬り飛ばす。

 

 先ほどからこの繰り返しであり、サクラとフィーリアの前進は止まらない。順長に、徐々にクラーケンに近づいている。

 

 そして、とうとう────二人はクラーケンとの距離を充分に縮め終えた。視線の先、海に浮かぶクラーケンの姿をサクラが見据える。

 

「フィーリア。逃げられては面倒だ」

 

「わかってます」

 

 サクラにそう言われ、フィーリアは前に出る。その間にもさっき以上の数と勢いでクラーケンの触手が殺到するが、届くこと叶わず全てが凍てつき、宙に留められる。

 

 見ようによっては芸術的とも思える、凍ったクラーケンの触手群を前に、フィーリアはスッと己の手を海に沈めた。

 

「【氷結(フリーズ)】」

 

 ただ淡々と、そう彼女が呟く。瞬間、彼女の手が沈む部分を除いて──クラーケンを取り囲むようにして、その周囲の海が凍った。

 

「これでもうあのイカは逃げたくても逃げられませんよ」

 

 得意げにした笑みを携え、フィーリアはサクラに顔を向ける。彼女の言う通り、クラーケンの周囲は完全に凍っており、氷が分厚く板を張っている。これではもう、クラーケンは身動き一つすら取れないだろう。

 

「さあ、お膳立てはこれで充分でしょう?あとはお任せしますね」

 

「ああ。任せてくれ」

 

 そう言った直後、その場からサクラの姿が消えた。遅れて、周囲の砂が爆発でも起こしたかのように吹き飛び、先ほどまでサクラが立っていた場所が大きく抉れる。

 

「…………相変わらず、人間離れした身体能力……」

 

 目を庇うために上げていた両腕を下ろし、言いながらフィーリアが上空を見上げる。遠くまで澄み渡った青い空と、こちらを眩しく照らす太陽。自然が織り成すその風景に一点──その姿はあった。

 

 遥か天高く、それこそ翼の英雄の如く太陽に届かせんとばかりに。砂浜から跳躍したサクラが、空の中にて静かに己の得物を鞘から抜く。

 

 太陽を背に、『極剣聖』(サクラ)は遥か下のクラーケンを見下ろす。

 

「その柔軟さと弾力の前では、確かにこの刃を通すのは至難の技──もっとも、それは固定されていない(・・・・・・・・)場合の話だ」

 

 重力に引かれ、急加速しながらクラーケンの脳天目掛けて、一直線にサクラは落下──いや、降下する。

 

「要は包丁とまな板──いくら刃が通らないからといって、硬いものを下に上から刃を押し当てれば、嫌でも通る」

 

 濡羽色の髪を揺らし、サクラは降下しながら刀を振り上げ──そして、振るった。

 

 クラーケンの体表に、一筋の光が走る。それは銀色の閃光。秒にも満たぬ、一瞬よりも刹那よりも、短く儚い、淡い一閃。

 

 そうしてだいぶ遅れて、ようやっと時が一秒経過した瞬間であった。

 

 

 

 ザンッッッ──最初は、斬撃音。

 

 

 ブシャアッ──次に、噴出音。

 

 

 バガンッッ──そして、破砕音。

 

 

 

 果たして、その光景を見て、それを確かな現実だと認識し、その上でなにが起こったのか、理解できる人間は何人いるのだろう。

 

 常人ならば到底不可能。武に通ずる達人であれば──辛うじて、だろうか。

 

 単純に。今目の前で引き起こされた現実を書き記すなら────こうだ。

 

 

 天災の〝絶滅級〟、クラーケン。そのサイズ、島の如し。その馬鹿らしいまでの巨体が、文字通り一刀両断されていた(・・・・・・・・・)

 

 自らを固定していた極厚の氷板ごと、真っ二つに割られていた。

 

 この付近の海の大主クラーケンは、体液を撒き散らし、内臓をぶち撒け、呆気なく一瞬にして絶命していた。

 

 

 一枚の氷板から大小無数の氷塊と化し、その内の一つにトン、と何事もなかったかのようにサクラが着地する。

 

 刀を軽く払い、鞘に納めた彼女はクラーケンを背に独り呟く。

 

「まあ、包丁の場合押すのではなく引いて切るのだがな」

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