ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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Glutonny to Ghostlady──『天魔王』様はお化けがお嫌い

「爆破しましょう。最悪地下階層が崩落で埋まっても私がなんとかするので。もうなにも考えず爆破しましょう」

 

 リオさんが出してくれた馬車に乗り、『幽霊屋敷』──ゴーヴェッテン邸に向かう道すがら、もうそうするしかない。それが正解だと言わんばかりの勢いで、フィーリアさんは僕たちに先ほどからそう訴えていた。

 

「い、いや流石にそれはまずいですってフィーリアさん……」

 

「なにを躊躇う必要があるんですかウインドアさん。爆破しても構わないとあの人は言っていました。つまりそういうことなんです。そんな屋敷、跡形もなく消し去るのが我々人類の為なんです!」

 

 と、こちらに反論を許さぬ語気の強さを見せるフィーリアさん。そんな彼女の気迫に押され、僕はなにも言えなくなってしまう。

 

 ──こんな様子のフィーリアさん初めて見た……。

 

 僕は思い出す。オールティアからリオさんの屋敷に転移する前、サクラさんから『幽霊屋敷』のことを聞き、明らかに動揺していた彼女の様子を。

 

 ……あの様子と言い、今の様子と言い、やはりこの人は────

 

 

 

「私は別に構わんぞ。フィーリアの言う通り、爆破していいと言われているしな」

 

 

 

 ──と、僕の思考を遮るように、今まで黙っていたサクラさんが突然口を開き、あろうことかフィーリアさんの蛮族的主張(ばくはきょか)を認めてしまった。まさかの展開に思わず僕は絶句し、それから早急に考えを改めてもらえるよう、慌てて口を開こうとした直前だった。

 

「ただ」

 

 まるで窘めるかのような声音で、サクラが続けた。

 

「九分九厘、祟られるぞ。フィーリア」

 

 瞬間、フィーリアさんの身体が硬直した。そんな彼女の様子には目もくれず、サクラさんはなお続ける。

 

「私の故郷にはそういった屋敷やら城やらは溢れ返るほどあってな。領土を広げる為だとか、まあ自分本位な目的でそれらを排除しようとした輩は、漏れなく全員祟られ死んでいったよ。それはもう、惨い死に様を晒して……おっと。これについて語るのはここまでにしよう。流石の私も亡霊に祟られてはどうしようもないからな」

 

 それで、と。サクラさんは、フィーリアさんに訊ねた。

 

「どうする?まあ決めるのはお前だし、私はそれに従うだけさ」

 

「………………」

 

 馬車内に沈黙が漂う。それは数秒ほど続き──

 

「や、やっぱり冒険者(ランカー)たるもの、そんな至極雑な手段に頼ってはいけませんね!あは、あはは!」

 

 ──と、誤魔化すように笑いながら、フィーリアさんが断ち切った。それから彼女は俯き、なにか呟いたが、僕たちの耳に届くことはなかった。

 

 それはそうとして。ふと僕は試しに彼女に一つ、あることを訊いてみることにした。

 

「あのフィーリアさん。その、一つ訊きたいんですけど……」

 

「やっぱ来るんじゃなかった──え?あ、はいなんですか?」

 

 独り言を中断させ、俯いていた顔をこちらに向けてくれるフィーリアさん。そんな彼女に、僕は意を決して訊ねた。

 

「フィーリアさんは幽れ「はぁ!?いる訳ないじゃないですか!?おば、お化けなんてそんな非現実的な存在いる訳ないじゃあないですか?!」……え、あ…そ、そうですね。……なんか、すみませんでした……」

 

 これで確定した。フィーリアさんはお化け──もとい幽霊の類が苦手なのだと。今までの反応を見る限り、そのことは火を見るよりも明らかではあったのだが……。

 

 ──今回の依頼(クエスト)、先行きが不安になってきたぞ……。

 

 と、その時。

 

「…………ふ、くく…」

 

 堪えるような微かな笑い声がして、見てみればサクラさんが顔を背けて窓の方に向けていた。注視すると、僅かばかりに肩が震えているのがわかる。

 

 いやまあ、その気持ちはわかるが。フィーリアさんの反応を見ると、思わず噴き出しそうになる気持ちは凄くわかるのだが。

 

 馬車に揺られている内に、いつの間にか眠ってしまっていた先輩に肩を貸しつつ、僕も窓の方に視線をやる。浮かんでいた太陽は傾き始め、空を茜色に染め上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。欠けた月が見下ろす中、恐怖と後悔に塗れた男の声がこだまする。

 

「畜生、畜生どうしてこうなった?なんでこんなことになっちまったんだ畜生ッ!」

 

 ぜえぜえと息を切らしながら、男は疾駆する。脇目も振らず、ただひたすら走り続ける。背後から追ってくるそれ(・・)から、死にもの狂いで逃げる。逃げる。逃げる。

 

 右へ左へ。時に駆け上り、時には駆け下りて。されど、出口は見つからない。

 

「死にたくねぇ、死にたくねえ!こんなとこで死んでたまるかよクソがッ!畜生がッ!」

 

 みっともなく顔を涙と洟水でぐしゃぐしゃに汚しながら、男は叫ぶ。叫び続ける。それに呼応するかのように、グンと迫るそれ(・・)の勢いが増した。

 

「クソ、クソクソクソッ!このクソッタレがぁ!!」

 

 男は走った。走り続けた──だが、彼は動物でも、ましてや魔物(モンスター)でもない。彼は人間なのだ。

 

 それ(・・)とは違い、やがて男の駆ける勢いは徐々に減っていく。男の足が徐々に鈍くなり、遅くなっていく。

 

「畜、生……ッ」

 

 激しく鼓動する心臓が痛い。思うように酸素を取り込めない肺が苦しみ出す。男の身体には、体力の限界が訪れてきていた。

 

 ここまでか────そう思った矢先、男はあるものを視界に捉える。

 

「だあぁッッ!!」

 

 扉、だった。一か八かと勢いそのままに扉に身体を激突させ、中にへと押し入る。そしてそのまま流れるようにして、男は扉を再び叩きつけるようにして閉めた。

 

 バンッ──直後、思い切り扉が叩かれる。何度も、何度も。男は扉に身体を押しつけ、泣き喚きながら必死に押さえた。

 

「入るなぁ!入るんじゃねえぇ!入るんじゃあ、ねええええええええええッッッ!!!」

 

 扉を激しく叩く音と、男の叫び声が交差する。そうして────不意に、扉を叩く音はぴたりと止んだ。

 

「………………はは、はははは……」

 

 扉を蹴破ろうとしていた力がフッと消え、そのことに思わず安堵した男は、堪らず扉を背に膝から崩れ落ちる。荒くなっていた息を整え、そして顔を上げた。

 

「逃げ切った!生き残ったぞ俺は!見たかこのク

 

 

 

 ドズッ──叫び、大きく開かれていた男の口めがけて、大振りのナイフが飛来し、それは男の口腔を容易く貫くと、扉にへと突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お父様の屋敷は、誰にも荒らさせない」

 

 一筋の、淡い月光が差す部屋の中、その声はか細く静かに、響き渡る。

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